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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十六話 嵐の前の静けさ

 ──まぶたに、ほんのり暖かい光が触れた。


 目を開けると、小さな窓から差し込む朝日が、部屋を淡く照らしている。


「……んっ……朝だ……」


 海辺の子ブタ亭に泊まって五日目。

 今日で、予約していた連泊は終わりだった。


 でも──


(……なんか……思った以上に、居心地がよすぎる……)


 部屋はあったかいし、スコットさんのご飯はおいしいし、テリィは可愛い。

 ダイアンさんも優しくて、ここにいると胸の奥がふわっと楽になる。


「……もうちょっとだけ、いたいな……」


 そう思った瞬間には、次の連泊を決めていた。



 荷物をまとめて一階へ下りると、フロントの前でしゃがみ込んでいる影が二つ。


「テリィ、見て見て!こっち来たよ!」

「フレデリカおねえちゃん、あっちにも泡いっぱいだよ!」


 ふたりとも、水槽にぴったり張り付いている。


 その視線の先には──

 ぷくぷく泡を吐きながら、のそのそ歩き回るフロート・カニが二匹。


 昨日、私が持ち込んだ二匹目のフロート・カニが早速仲良くなったみたいで、

 水草の影から追いかけっこのようにふよふよ泳ぎ出ては、


 ぷくっ……ぷくぷくぷく〜。


 楽しそうに泡を弾ませていた。


「……かわいい……」


「ナナミおねえちゃん!おはよう!」

 テリィが嬉しそうに振り向く。


「見て!この子たちね、朝からずっと仲良しなの!

 ほら、こうやって一緒に浮かぶの!」


 ふわぁ〜っと二匹が同時に浮上する。


 そのたびに水面がきらきら揺れて、なんだかとても癒される。


「ほんとだ……よかったぁ。寂しくなさそうで」


「んふふ、ナナミおねえちゃんのおかげだよ!」

 フレデリカが照れくさそうに笑った。



 カウンターの奥から、宿屋の女主人・ダイアンさんが顔を出す。


「ナナミちゃん、おはよう。今日はチェックアウトの日だったわね」


「あっ、その……あの……」

 言葉を探しながら、私は手のひらの中の金貨を握りしめる。


「もう少しだけ……ここに泊まりたくて。

 あの、すごく居心地よくて……。

 もし大丈夫だったら……もう5泊、お願いします!」


 ダイアンさんはふっと優しく微笑み、両手で金貨を受け取った。


「もちろんよ。歓迎するわ、ナナミちゃん。

 あなたがいてくれると、この宿も明るくなるもの」


「そ、そんな……!でも、嬉しいです……!」


 胸の奥があったかくなる。



「さて、朝食食べていくでしょう?」

「はい!」


 食堂に入ると、もう良い匂いが広がっていた。


 スコットさんが大鍋をかき混ぜながら、無言で軽く会釈してくれる。


 テーブルに運ばれてきたのは──

 ふわふわの貝だしスープと、表面がカリッと焼けた海藻パン。


「いただきます……!」


 ひと口食べただけで、優しい旨味が舌いっぱいに広がった。


「……おいしっ……!」


 朝から幸せが押し寄せる。



(ナナミ、今日も潜るのかしら?)


 髪飾りのアストラルが問いかけるように揺れた。


 そこには、昨晩一緒にいたメンバーはいないが、アストラルの声はいつもどおり耳の奥に届く。


「……うん!潜る!」


 私はパンを頬張りながら力強くうなずいた。


(その意気よ。今日もゆっくりでいい。焦らず、自分のペースでね)


「うん……!」


 朝の空気が、少しだけ背中を押してくれる。



 朝食を終え、荷物を整える。


 ──ギルドの扉へ向かう途中。

 いつもは穏やかな朝のアクア・ヘイヴンに、微かなざわめきが漂っていた。


 行き交う人々が落ち着かず、皆そわそわと海の方角を振り返っている。

 言葉を潜めて話している人たちから、ぽつぽつと不穏な単語が耳に届く。


「……また渦が出たらしい」

「見えたってよ……でっけえ影が……」

「まさか、“あれ”が出たんじゃ……」


 アクア・ヘイヴンの街の違和感。

 胸に、ひゅっと冷たいものが走る。


(ナナミ、何かが起きている。気をつけて)


 アストラルの声も、わずかに緊張を帯びていた。


 私は不安を打ち消すように、両手で扉を押し開けた。


 ──途端に、空気が一変する。


 ギルドの中は、いつもよりも騒然としていた。

 受付前にはダイヴァーたちがひしめき、緊急依頼の掲示板には真っ赤な紙が張り出されている。


 その中心に書かれた文字が、目に飛び込んできた。


《緊急ミッション:出現したネームド海魔“ワン・アイド”の迎撃》


 「ワン・アイド……?」


 ざわ……とナナミの背筋が震えた。

 不穏な気配は──本当だった。


 ギルド全体が、嵐の前のような緊迫に包まれていた。

 

⸻続く


 【ナナミのお財布】

金貨18枚

銀貨14枚

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