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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十四話 潮騒の宴の打ち上げ

 アクア・ヘイヴンへ戻った頃には、空はすっかり夜の色を纏っていた。


 港灯の優しい光に照らされながら、私たちはダイヴァーズギルドへ向かう。


「は〜疲れた〜!でも楽しかったなぁ今日!」

 ニーナさんが伸びをしながら跳ねる。


「成果も十分だしな。あとは納品して金勘定だ!」

 ホープさんは足取りが軽い。


 ギルドの前に立つと、潮の匂いの奥に、微かに料理と酒の香りが混じる。

 この街の夜は、どこか温かい。



 納品カウンターに着いたところで、私はそっと三人に声をかけた。


「あの……グレイスさん、ニーナさん、ホープさん。

 フロート・カニと……潮珠ホタテを少しだけ、個別にもらえたりしますか?

 その……宿の方に、お礼がしたくて……」


「お礼?」

 ホープさんが目を丸くする。


「うん……いつも優しくしてくれるから……。

 少しでいいんです、ほんの少しだけ」


 言い終わる前に──


「もちろんいいよ!」

 ニーナさんが食い気味に即答した。


「ナナミちゃんの助けがなかったら、今日こんなに集まってないし!」

 にっこり笑って続ける。


 ホープさんも頷き、

「俺も賛成!いいじゃん、そういうの!」


 最後にグレイスさんが柔らかく答えた。


「ええ、もちろんよ。あなたのお礼なら、きっと喜ばれるわ」


 胸の奥がじんわり温かくなる。


(……みんな、本当にやさしい)



 採取物を仕分けて納品すると、ミストさんが金貨の入った袋を四つ置いた。


「本日の成果は──合計金貨22枚になります」


 聞いた瞬間、三人が「よっしゃ!」と拳を上げる。


 グレイスさんは袋を手に取り、少し考えてから言った。


「じゃあ……一人あたり金貨5枚と銀貨5枚ずつね」


「え!?わ、私……そんなにもらえません!」

 私は慌てて首を振る。


「グレイスさんはゴールド級で、戦闘だって本当にすごくて……。

 私が同じ額なんて、おかしいです」


 するとグレイスさんは、穏やかに目を細めた。


「そうかもしれないけど──

 “潮騒の宴”は、誰がどんなランクでも、成果は均等分配なの」


「え……」


「新人のうちは必要な物も多いしね。

 今日は特にあなた、たくさん動いてくれたでしょう?

 遠慮しないで受け取っておきなさい」


 あまりにも温かい声で、返す言葉が消えてしまった。


「……はい。ありがとうございます」


 袋を抱えた瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。

 悔しいほど嬉しくて、泣きたくなる。



「よし!金も入ったし──打ち上げ行くべ!!」

 ホープさんがいつもの大声で言った。


「賛成!」

 ニーナさんが即挙手。


 そして私の方を向き、覗き込むように問いかけた。


「ナナミちゃんも行こ!今日めっちゃがんばってたし!」


「え、ええと……あの……」


(い、行ったほうが……いいのかな……)


 戸惑っていると、アストラルがそっと囁く。


(行っておいで、ナナミ。あなたは仲間なんだから)


 胸の奥が少し軽くなる。


「……うん。行きます」


「やったぁーっ!!」

 ニーナさんがぴょんと跳ねる。


 するとグレイスさんが微笑みながら言った。


「じゃあ、私が知ってる店に行きましょう。料理がとびきり美味しいのよ」


 その“とびきり美味しい店”に着いて──私は固まった。


「えっ……ここ……」


 陽だまりのような木目調の建物。

 丸っこい子ブタが波に乗って笑っている。

 いつもの看板の……あの宿。


「海辺の子ブタ亭だー!」

 ホープさんが笑う。


「偶然よ。味が良くて落ち着くから、よく利用してるの」


 まさか、宿の常連さんだったなんて。



 子ブタ亭に着くと、厨房からスコットさんの包丁の音が響き、

 カウンターでテリィがちょこんと座っていた。


「……ナナミおねえちゃん?」


 私を見るなり、目をぱぁっと輝かせる。


「ただいま、テリィ」


「おかえり……!」


 走って抱きついてきた彼の頭を撫でながら、荷物から包みを取り出す。


「これ……今日拾ったフロート・カニ。

 テリィにあげたくて……」


 まるまるしたカニは……ぷくぅ、と泡を吹いた。


「フロート・カニだぁ……これで今いる子も、寂しくなくなる!」


 テリィは胸に抱きしめ、頬をゆるませた。


「ありがと……ナナミおねえちゃん……!」


 嬉しすぎて言葉が詰まってる。

 それがなんだか、とても愛しかった。



 次に、私は厨房にいるスコットさんに近づく。


「スコットさん、これ……

 潮珠しおだまホタテ。今日拾えたんです……どうぞ」


 スコットさんは動きを止め、ホタテをじっと見つめ──


「……良い質だ」


「わ、分かりますか……?」


「当然だ。ありがとう。預かる」


 短い言葉。

 でもその声には、確かな歓迎と、料理人の喜びがあった。


「今日のお前達の打ち上げ料理に……使えるな」


「ほんと!?」


「……期待してろ」


 スコットさんが少しだけ口元を緩めた。


 それだけで、この宿に帰ってきたんだと胸が温かくなる。



「じゃあ、席に座りましょうか!」

 グレイスさんが案内し、私たちはテーブルへ。


 厨房からは、潮珠ホタテに火を入れる香ばしい匂い。

 ホープさんが思わず唾を飲む。


「すげぇいい匂い……!」


「この店、こんな美味しそうだったんだ……!」

 ニーナさんがわくわく揺れている。


 私は胸に手を当てて、静かに息を吸った。


(……ここで、“仲間と一緒に”食事をする日が来るなんて)


 その幸せが、とっても嬉しかった。


「ナナミちゃん、今日もよく頑張ったね」

 グレイスさんが優しくグラスを掲げる。


「……はい!」


 カン、と軽い音が響く。


 そしてスコットさんが運んできた潮珠ホタテは、火を入れた貝殻の奥で淡く光り、テーブルを柔らかく照らした。

 湯気と一緒に立ちのぼる海の香りに、ニーナさんが「絶対おいしいやつだ〜!」と身を乗り出す。


 ひと口食べたホープさんが、目を丸くしたまま固まる。


「……甘っ!やべぇ、これ優勝……!」


「本当ね。潮珠の旨味が見事に引き出されてるわ」

 グレイスさんが静かに微笑む。


 私も続いてスープを口に含むと、胸の奥がじんと温かくなった。


「おいしい……」


 ただそれだけの言葉なのに、三人は嬉しそうに笑ってくれた。


 光るホタテを囲む夜は、とても優しくて──

 今日が終わってほしくないと思うほど幸せだった。


―――続く。


【ナナミのお財布】

金貨19枚

銀貨14枚

※本来は銀貨10枚⇒15枚だが打ち上げで銀貨1枚支出

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