第四十三話 ダイン達の採取仕事
◆ バニッシュクラン視点エピソード
ダイン達がナナミたちと別れた後
海は湿って重い。
ギガント・ホエールの背を蹴りながら、ダインは舌打ちをした。
「──チッ、クソが。ナナミの奴、アイアン級になって調子乗りやがって」
怒りのままに一歩一歩が荒くなる。
後ろでは、五人の新人ダイヴァーたちが遠慮がちについてきていた。
「ダインさん……そろそろ海魔が近いので、位置取りを──」
「うるせぇ。俺の後ろで黙って立ってろ、新人が」
新人のひとりが肩をすくめ、黙り込む。
そんな空気をあざ笑うように、ライアンが肩を回した。
「まあまあ怒るなよダイン〜。でもさぁ……ほんっとナナミって、ウチにいたときは雑用係の分際でムカつく態度多かったよなぁ」
「まったく。あの子、ちょっと顔がいいからって生意気で嫌いだったわ」
ジャンヌが不機嫌に鼻を鳴らす。
五人の新人の表情に、僅かな困惑が浮かんでいた。
(……この人たち、いつもこんな感じなのか)
誰も口には出さないが、彼らの視線に不安が滲んでいる。
◆
そんな中──海藻の間から、唸り声が響いた。
「出たぞ!散開しろ!」
ダインの怒号と同時に、三人は迷いなく跳び出す。
しかし五人の新人は戸惑いの表情を浮かべ、一拍遅れる。
「おいテメェら、遅ぇんだよ!」
ダインは背後に怒鳴り散らしつつ、オーガ・カサゴへ突撃した。
同時に、ライアンが攻撃を放ち、ジャンヌもクロスボウを打ち出す。
シルバー級の三人は自由気ままに動き、互いの連携など全く考えていない。
「ジャンヌ!そっち行くなら後ろ注意──」
「知ってるわよ!邪魔しないで!」
「ライアン!てめぇ急にそっち行くな!俺の攻撃が外れただろうが!」
「知らねぇよ、お前が勝手に狙っただけだろ〜?」
新人たちは困惑しながら攻撃を放とうとするが、三人の無茶苦茶な動きに巻き込まれそうで攻撃すらままならない。
「こっちに来るな!邪魔だ!」
「す、すみません……!」
結果──
三人はそれぞれスタンドプレーで海魔を倒すものの、それは完全に個人技のぶつけ合いだった。
新入りのひとりは後方の隙を狙われ、腕を噛まれ負傷する。
「ぎっ……!」
「なにしてんだテメェは!!見張りもロクにできねぇのか!」
ダインは怒鳴りながら平手で新人の頭を叩いた。
「ご、ごめんなさい……!」
「チッ……使えねぇんだよほんと……!」
◆
戦闘が終わると、ダインたち三人だけが当然のように採取へと向かう。
「おい新人ども。見張ってろ。オレらは採る」
「え、でも……怪我人が……」
「黙って言われた通りにしろ!」
新人は震える声で返事をし、周囲を警戒する。
だが経験不足な上、怪我人も居るため視野も狭く、隊列も甘い。
案の定、次の異常がすぐに起こった。
「……っ!海魔の群れが再接近してきます!」
「なんだと!?クソが!」
ダインたちは舌打ちしながら戦闘態勢に入る。
「仕方ねぇ……さっさと片付けるぞ!」
だが、さっきの戦闘で新人たちは既に疲労している。
ダインたちは連携を取る気がないため、防衛線はボロボロだった。
「ぎゃっ──!」
「誰だよまたやられたのは!」
「す、すみません!」
「お前ら、ほんと足手まとい……どけ!俺がやる!」
三人は力押しで海魔を捌くが、攻撃が散発的で無駄に体力を消耗していく。
新人たちはほとんど防戦一方で、さらに負傷者が増えていった。
◆
気づけば海の上は濃紺に染まり、ギガント・ホエールの背には冷たい夜波が吹き始めていた。
「ダインさん……もう日が落ちます。撤収を……」
「クソ……これ以上はさすがに危険だ。仕方ねぇ、戻るぞ」
そう決断した時──
三人の採取カバンは半分も埋まっていなかった。
そして新人たち五人のうち、三人が深い傷を負っていた。
ダインは苛立ちを隠そうともせず、夜波に向かって吐き捨てる。
「最悪だ……ナナミのせいでテンション狂わされたんだ……」
「ほんと。あんなやつと会うからよ」
ジャンヌも不満をこぼす。
「オレらだけならもっと稼げてたのになぁ〜」
ライアンが軽口を叩く。
新人たちは痛む身体を押さえ、俯いたまま立ち尽くしていた。
(……こんなクラン、続けられるんだろうか)
誰も口にはしないが、その思いが重く沈んだ空気に漂っていた。
薄闇の中、バニッシュクランは敗北者のように足を引きずりながら港へと戻っていく。
彼らの夜は、まだ終わらない。
―――続く。




