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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十二話 私はもう戻らない

 ギガント・ホエールの背は、もう夕陽に染まり始めていた。


 長い一日の採取を終え──

 私たちの採取カバンは、どれもぱんぱんに膨らんでいる。


「ふぅ〜……!今日の成果、最高じゃない?」

 ニーナさんが腕を伸ばしながら笑う。


「だな!オレらだけじゃ絶対ここまで集められなかったぜ」

 ホープさんも満足げに頷いた。


「ナナミちゃんのおかげで怪我もなく……予定よりずっと早く終わったわ。ありがとう」

 グレイスさんの微笑みは、海風より温かい。


 胸がじんとする。

 “ありがとう”なんて言われる日が来るなんて、前のクランにいた頃は想像すらできなかった。


(皆……すごく優しい……)


 そんなことを思いながら帰ろうとした、その時だった。


「──おい、見ろよ。あれ」


 ホープさんが険しい声で呟く。


 ギガント・ホエールの外れ。

 揺れる海の向こうから、複数の影がこちらに向かう。ダイヴァーたちの影だ。


 見るなり、心臓が凍った。


 ダイン。

 ライアン。

 ジャンヌ。


 そして見知らぬ新人らしきダイヴァーを五人も連れて──。


(なんで……ここに……)


「へぇ〜?ギガント・ホエールに稼ぎに来たと思ったら……」

 ダインが、にやりと口角を上げる。


「アイアン級の雑用係じゃねぇか」


 あの声を聞くだけで、体が固まる。

 喉がぎゅっと締まる。


「ナナミちゃん、知り合い?」

 ホープさんの声が硬くなる。


 返事をする前に、三人はずかずか近寄ってきた。


「うわ〜ほんとにいたんだ。まだ海に潜ってたの?」

 ライアンが嘲笑混じりの声をあげる。


「ちょっとナナミ。アイアン級になれたからって、調子に乗ってない?」

 ジャンヌがわざとらしく私の採取カバンを覗き込む。


(……こわい……)


 けれど──今日は、ひとりじゃない。


 後ろに三人の仲間がいる。

 アストラルもいる。


 胸の奥に、小さな熱が宿る。


 私は息を整え、三人を見据えた。


「──あなたたちなんか、私は知らない。

 行きましょう、グレイスさん。ホープさん、ニーナさん」


 三人の目が、同時に見開かれた。


「……は?」

 ダインの顔が歪む。


「おい、待てよ!」


 肩を乱暴につかまれた。

 嫌な記憶が一気に蘇る。


「お前さぁ、そんなこと言っていいと思ってんのか──」


「ダイン!」

 鋭い声が遮った。


 ジャンヌが、海の向こうを指差す。


「海魔が複数、向かってきてる!あんた、ナナミに構ってる場合じゃない!」


「はぁ!?……ちっ!」


 ダインは舌打ちし、睨みつけるように私を見下ろした。


「覚えてろよ……」


 吐き捨てると、五人の新入りたちを率いて海魔の群れへ向かっていく。


 遠方で戦闘が始まりが彼らの怒号が聞こえる、図らずも私たちの周りは静けさが戻る。


「他のクランが海魔と戦闘に入った以上、救援以外で割り込むのはマナー違反よ」

 グレイスさんが促す。


「私たちは離れましょう」


 その声は落ち着いていて、安心できる響きをしていた。



 ギガント・ホエールの背を離れ、アクア・ヘイヴンへ戻る途中で──

 ニーナさんがぽつりと聞いてきた。


「ねぇ、ナナミちゃん。あの人たちと……何があったの?」


 足が少しだけ止まる。


 本心は話したくなかった。

 けれど立ち会わせた以上はバニッシュのことをニーナ達に隠したり嘘をつくのはもっと嫌だった。


「……私、魔力量が少なくて。

 あのクランで……雑用係をさせられてて……」


 言葉が震える。


「それで……追放されて……」


「なんだって……!?」

 ホープさんが怒気を帯びた声を上げた。


「そんな奴ら、許せねぇ!今日の態度もムカついたけどよ、過去はもっと最悪じゃねぇか!」


「わかる!あれはほんと無いわ!」

 ニーナさんも拳を握りしめる。


「ナナミちゃん、あんなの気にしなくていいからね!」


 胸が熱くなり、少し苦しくなるほどだった。


「……ありがとう。

 昔は……ほんとに辛かった。でも……」


 振り返る。

 夕陽の中で、三人が私を見てくれている。


「今は……少しずつ、回復してる。

 グレイスさんや二人がいてくれて……すごく、うれしいから……」


 言いながら、涙がこぼれそうになる。


(ナナミ……偉いわ。前に進んでる)


 アストラルの声が、そっと心に触れた。



 アクア・ヘイヴンの港に着く頃には、空は濃い藍色へ変わりつつあった。


 港灯の柔らかな明かりが、私たち四人を迎える。


「今日の成果、ギルドで確認したら終わりね」

 グレイスさんが微笑む。


「また一緒に潜ろうな、ナナミちゃん!」

 ホープさんが親指を立てる。


「ナナミちゃん〜!絶対だよ~!」

 ニーナさんも笑顔で手を振る。


 私は胸に手を当てて、静かに息を吸った。


(……ここが、私の帰る場所)


 そう思えることが、ただただ嬉しかった。


(ナナミ……あなたの力が彼らを認めさせたのよ)


 ホープ達の声、そしてアストラルの声にナナミは励まされる。


「……はい。

 また、お願いします!」


 波の音が優しく寄せ、遠くでギルドの灯りが揺れる。


 今日も、少しだけ前に進めた気がした。


―――続く。

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