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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十一話 追憶

──彼女を最初に見たのは、数日前の朝方のことだった。


 私、グレイスはダイヴの準備をするためにギルドへ向かった時、突然どよめきが走った。

 受付嬢のミストちゃんが、目を丸くして固まっていたからだ。


「副長!緊急査定です!いますぐ、すぐに来てください!」


 ただの一般買取査定でブレイカー……ギルド副長が呼び出されて出てくるなんて今まで一度も聞いたことがない。


 慌てた声に、私も思わず視線を向ける。


 ミストちゃんの前に立っていたのは──見知らぬ少女。


 歳は、うちのブロンズ級のホープやニーナより、さらに幼く見える。

 華奢で、まだ頼りない印象すらある。


 けれど、私が何より目を奪われたのは──


 彼女の装備。


 見習いダイヴァー用の軽装。

 しかし、その損傷は……普通ではなかった。


(……どうしたら、こんな……)


 ひび割れ、裂け、擦り切れ、見たことないほどの損傷だ。

 まるで幾度も死線を越えてきたような傷。


 こんな損傷を、装備に刻むほどの海域なんて──普通は潜らない。


 さらに追い打ちをかけるように、ミストちゃんが驚いていた理由が分かった。


(あの海晶核……)


 少女が納品しようとしていた海晶核は、私──暗海域を拠点にしてきたゴールド級ですら見たことのない“異質”な輝きを放っていた。


 どれほど深く潜れば、あんなものが?

 どれだけ危険な海魔を撃破しなければ、あんな核は採れない?


 思わず息を呑んだのを覚えている。


 ──そしてその翌々日。


 珍しくギルドベルが鳴り響いた。

 あれは、ミストちゃんや受付嬢が“お知らせ”の時だけ鳴らすベルだ。


「本日、ダイヴァーの仲間が一名新たに加入しました。

 ──アイアン級ダイヴァー、ナナミさんです!」


 その声を聞いた瞬間、私は思わず顔を上げた。


(あの子……!)


 件の少女が立っていた。


 装備は一新され、グリーンリーフ堂の初心者モデルに身を包んでいる。

 一式揃えて買うのは少し高価だ──けれど、あの海晶核があれば、十分揃えられるだろう。


(……本当に、ダイヴァーとして活動するつもりなのね)


 気がつけば、その背をつい目で追っていた。


 理由は自分でも分かっている。

 不安げに俯いた横顔が、昔の自分と重なったからだ。


 女性ダイヴァーは多くない。

 だからこそ、助けてあげたいと思った。


(声をかけてあげよう。せめて、最初の一歩くらいは……)


 軽く声を掛けると、彼女──ナナミちゃんは、戸惑った様子だった。


 その反応は、ひどく可愛らしく、そして少し胸が痛くなるほど弱々しく、怯えて見えた。


 後でそっとミストちゃんに尋ねると──

 本来なら個人情報は教えないはずだが、同じ女性同士ということもあり、


「グレイスさんなら……でも、内緒ですよ」と前置きして、ミストちゃんは打ち明けてくれた。


 ──ナナミちゃんは、バニッシュクランに所属していた。

 ──魔力量の低さから虐げられ、追放されたらしい。

──心に深い傷を負っているかもしれない。


 ミストちゃんは言った。


「だから……新しいクランに勧誘したり、急に距離を詰めたりするのは、きっと彼女には負担になると思います」


 その言葉に、私は強く頷いた。


(なら、せめて……困った時だけでも手を差し伸べられたら)


 そう思っていた矢先──今朝。


 ギガント・ホエールが出現した。


 ホープとニーナを連れて採取へ行こうとギルドに向かうと、そこにナナミちゃんがいた。


 まさか会えるとは思っていなかった。


 そして、そのままの流れで──一緒に連れて行くことになった。


(新人のアイアン級。しかも追放の過去を持つということは……戦力としては、期待しすぎちゃだめ)


 守りながら、彼女の様子を見よう。先日の深海の海晶核のことは忘れるべき。


 そう思っていた。


 ……なのに。


(海魔二匹を……一瞬で?)


 しかもオーガ・カサゴの接近に真っ先に気付いたのは、ゴールド級の経験を持つ私ではなかった。


 そして。


 ニーナへ向かっていた二体の海魔を──

 アイアン級の少女が、信じられない速度で、迷いなく、一撃で沈めてみせた。


 反応の速さ。動きの正確さ。仲間を守る躊躇のない踏み込み。


 どれも、“普通のアイアン級”のそれではない。


 私が動こうとした時に、すでに決着はついていた。


「……ナナミちゃん、あなた……」


 口からこぼれた言葉は、驚きと、ほんの少しの喜びが入り混じっていた。


 彼女は怯えた笑顔を浮かべながら、息を弾ませていた。


「ニーナさんの後ろ……危なかった、ので……」


(これだけの実力があって追放されただって!?嘘でしょ!? ……この子は……ただの新人じゃない)


 胸の奥がじんわりと熱くなる。


(ナナミちゃん……あなたは、思っていたよりずっと──)


──頼もしい子じゃない。


⸻続く

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