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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第四十話 海の長老の背で、走る影

 ギガント・ホエールの背に降り立った三人……ナナミ、ホープ、ニーナは、それぞれ散開しながら採取を始めた。

 一番経験があり視野が広いグレイスが警戒役をするらしい。


 背中は大きくゆるやかな起伏をつくり、光る藻や鉱石が宝石のように散らばっている。

 ゆっくりと揺れ動く大地のような背面は、不思議と安定感があった。


「わっ、この金色のとこ柔らかい! 海藻鉱だ!」

 ニーナが短い鎌を使って、ふわふわとした藻の鉱脈を丁寧に切り取る。


「こっちは……光る真珠藻か。これ、ミストちゃん喜ぶだろうな」

 ホープが透明な袋に青白い光を放つ藻を詰めていく。


 ナナミは、ふと少し離れた凹凸の影に目を向けた。


「あ……これ……」


 淡く緋色に染まった貝殻。

 以前、一度だけ目にしたことのある希少素材──


潮珠しおだまホタテ……!」


(やったわねナナミ。これは“運が良い子”にだけ見つけられる食材よ)


 アストラルの声に背を押されるように、ナナミは慎重に貝を採り上げる。

 触れるとほんのり温かく、微かな光の粒が殻の隙間からこぼれた。


「きれい……」


 そのまま採取カゴにそっと収めた時──


 視界の端で、小さな影がこそこそと動いた。


「ん?」


 ころん、と丸い影が海藻の陰から飛び出す。


 ぷかぷか……ぷぷ……。


「……フロート・カニ!」


 以前、テリィが飛び跳ねるように喜んでいたカニだ。

 その小さな甲殻類は……泡に身を包み、まるで風船のようにふわりと浮かび上がった。


(あら、また会えたわね。……あなた、テリィくんの顔が浮かんでるでしょう?)


「……う、うん。これ、渡したら絶対喜ぶよね……!」


 ナナミは慎重に両手を伸ばし──

 ふわっ、と逃げようとしたところを上からそっと押さえ、捕まえる。


「よいしょ……わっ、軽い……」


 フロート・カニを採取カゴに入れると、ころころと可愛らしい音を立てた。


(いい選択よ、ナナミ。あなたが誰かの笑顔を思い浮かべて動けるの……好きよ)


「アストラル……えへへ……」


 そんな温度のある時間が続いたその時──


(……ナナミ。止まって)


 アストラルの声が、急に鋭くなる。


(右後方、かなり遠い位置……オーガ・カサゴが二体。

 あなたたちの方へ……いいえ──“ニーナの方へまっすぐ向かってる”)


「っ……!」


 身体が強張る。


 まだ距離はある。

 だが、その進行ルートは完全にニーナを捉えていた。


 ニーナは光る真珠藻の採取に夢中で、背後の気配に全く気づいていない。


 さらにナナミは周囲に目を配る──


 グレイスも、ホープも、まだ捕捉できていない。


(ナナミ、決めて。あなたなら……届くわ)


 ナナミは一瞬だけ息を飲み──

 次の瞬間には、スピアーランスを握りしめていた。


 足元の海藻がふわっと舞い上がる。


「あれ……ナナミちゃん?」


 グレイスがナナミのわずかな気配の変化を察した。


 だが、声をかけるより早く──


 ナナミは海を蹴っていた。


「──っぁあッ!」


 一直線。


 流れるように、迷いなく。


 水流が裂け、海藻がひるがえり、光の粒が尾を引く。


 ニーナの背後へ全速力で迫っていたオーガ・カサゴの一体目。

 その額めがけて、ナナミの槍が吸い込まれるように突き刺さる。


 衝撃はほとんどなかった。

 ただ、確かな手応えだけが腕に残る。


 ぐらり、と海魔の体が傾き──沈む。


「えっ……!?」


 振り返ったニーナの目が大きく開かれた。


 だがまだ一体。


(ナナミ! 左下!)


「──はいっ!」


 アストラルの声に合わせて、ナナミは槍を引き抜き、身体ごと回転する。

 視界の端から迫りくる赤黒い影。


 息を合わせるように、ナナミはもう一度踏み込んだ。


 水を裂く軌跡が、線となって海の中に描かれる。


 スピアーランスが海魔の喉下に突き入り──

 そのまま一直線に貫いた。


 泡が弾け、海が静かになる。


 残るのは、ゆっくりと沈んでいく二体の海魔、そして海晶核だけだった。


 しばらくの沈黙。


「……ナナミ、ちゃん……?」


 ニーナが呆然としたまま呟く。


 グレイスも、驚きに目を見開いていた。

 駆け出した時には、全てが終わっていたのだ。


「い、今の……ナナミちゃんが……?」


 ナナミは息を整えながら、少しだけ照れくさそうに振り返る。


「ニーナさんの後ろ……危なかった、ので……!」


 と、その時。


「──あれ? みんな何してんの? こっち光る真珠藻いっぱい……」


 ホープが両手いっぱいに藻を抱えて振り返る。


 背後には、沈んでいく二体の海魔。


「……え、海魔!?もう倒してる!? いつ来た!? 誰が!?」


「ホープ……遅い……!」


 ニーナが力なく笑い、

 グレイスは深く息をついた後、ほっと微笑む。


「……ナナミちゃん。あなた……本当に、すごいわ」


(ふふ。言ったでしょう? ナナミならできる、って)


 アストラルの声は、誇らしげだった。


「わたしが、助けられた……!」


 ナナミの胸の中にも、ほんの少しだけ自信という光が宿った。


──続く

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