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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第三十八話 潮騒の宴

「ギガント・ホエール……」


 その名を口にした瞬間、ギルドのざわめきが一段と耳に刺さる気がした。


 ミストはこくりとうなずき、簡潔に説明を続ける。


「通常は深海にいて滅多に姿を見せない海魔なんですが……今朝、座標〈X28・Y36・Z-55〉付近に確認されました。

 非常に大型の海魔ですが……コチラから攻撃を仕掛けない限り危険ほぼありません。ただ……背中に資源が多く付着し、また付近の小型海魔が集中しやすいんです」


 ナナミの記憶の片隅。バニッシュ・クランに在籍していた時に学習した覚えがある名前だった……背中に群生する“海藻鉱かいそうこう”や“光る真珠藻”は、市場で高値がつく。


「そ、それでこんなに慌ただしいんだ……」


「はい。採取依頼が一気に増えましたので……」


「み、見てみたい……!でも……わ、わたしじゃ危険だよね……」


 ミストは思案しながら目を細めた。


「──ナナミさんなら、行けるかも……でも本来はアイアン級ソロじゃ危険……」


 ──その時だった。


「──ナナミちゃん?」


 凜として澄んだ女性の声が、ギルドの喧騒をすっと切り裂いた。


 振り向くと、金の髪を後ろで束ね、巨大なハープーンを背負った女性が立っていた。

 ナナミがアイアン級になった日に祝福し、マリモ採取依頼のときにアドバイスしてくれた女性ダイヴァーだ。


 気高い雰囲気と、柔らかな海風のような美しさ。


「グレイスさん……!」


 隣のミストが金髪の女性に振り向き、声を掛ける。


「ミストちゃんも、やっほ~!」


 グレイスは微笑み、軽く手を振ってくる。


 その左右には──男女の二人の若いダイヴァーがいた。


 一人はすらりとした青年。柔らかな栗髪で気さくそうな笑顔。

 もう一人は元気そうな黒髪の少女。目がきらきらしている。


「あぁ~! グレイスさんが気にしてた人ってこの子?」

 黒髪の少女がナナミをまじまじと覗きこむ。


「本当だ、噂のアイアン級の新人さん? ……ミストちゃんも気にしてたよね!」

 青年もぱぁっと笑顔になって声を上げた。


「え、え、噂……?」


「ミストちゃん、よく言ってたんだよ?

 “最近来た子、真っ直ぐで頑張り屋で可愛いですよ”って」


「ホープさん~! 言い方ぁ!」


 ミストの顔がみるみる茹でダコのように耳まで真っ赤にし、ホープを軽く小突く。

 黒髪の少女──ニーナがけらけら笑った。


「ミストさん、顔赤い〜!」


「う……! もう、二人とも……!」


 ミストは咳払いして気を取り直してる間、金髪女性ダイヴァーのグレイスは改めてナナミに向き合った。


「ごめんね、驚かせちゃったわね。

 私はグレイス。小さなクラン〈潮騒の宴(しおさいのうたげ)〉のリーダーをしてるの。こう見えてゴールド級。

 こっちは新人のホープとニーナ。二人ともブロンズ級よ」


「よろしくね!おれたち、ホントはあと二人いて総勢五人のクランなんだ! その二人は、別行動してるけど!」

「よろしくお願いしますっ!」


(……なんだろ。雰囲気、すごくいい人たち……)


 ナナミの胸に、あたたかい風がひらりと吹き込む。


 だが──同時に、胸の奥の古い傷跡がちくりと疼いた。


 仲間……?


 頭をよぎるのは、バニッシュ・クランでの嫌な記憶。


 嘲笑われ、押しつけられ、使い潰された日々。


 身体がほんの少しだけ強張った、その瞬間──


(大丈夫よ、ナナミ)


 アストラルの声が、そっと背中を撫でた。


(この人たちは……“あなたのために”動いてくれる人たちよ)


「……アストラル……」


 心の迷いがゆっくり溶けていく。


 グレイスが一歩、近づいた。


「もし良かったら──ナナミちゃんも、一緒に来てみない?

 ギガント・ホエールは危険は少ないけど、小型海魔はそれなりに出るわ。

 私がついてる、無理はさせない」


「ナナミちゃん初心者だろうけど……俺たちだって初心者だから! 一緒にがんばろ!」

「そうそう! 私達二人もギガント・ホエール初めて見るの!」


 二人のブロンズ級新人が、両側から明るく声をかけてくる。


 その瞬間──胸の奥が、ふわっと温かくなった。


(……行きたい)


 その想いを、ナナミはぎゅっと握りしめる。


「……わたし……行きたい、です。

 グレイスさんと、皆さんと……一緒に」


 グレイスの顔がぱぁっと花のように明るくなった。


「──嬉しい!」


 ミストもほっと目を細める。


「では、こちらが採取依頼です。

 座標〈X28・Y36・Z-55〉。

 成功報酬は採取物次第となりますので、皆さまの判断で」


「任せて、ミストちゃん。ナナミちゃんの初めての“大きな海”だもの。しっかり守るわ」


 グレイスの言葉に、ナナミの胸がまた熱くなる。


(ナナミ。あなた、もう“ひとり”じゃないわ)


「……うん」


 ぎゅっと拳を握った。


 こうしてナナミは──

 初めて、“仲間と一緒に”海へ向かうことになった。


──次回、ギガント・ホエールの背へ。


 ◆


  キャラクター紹介

 名前:グレイス・フォスター

 性別:女性

 年齢:29歳

 経歴:〈潮騒の宴(しおさいのうたげ)〉のクランマスターを務め、ゴールド級ダイヴァーでもある女性。

 常に巨大なハープーンを背負っているため、目を引く。

 おおらかで明るい性格。


挿絵(By みてみん)

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