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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第三十七話 揺れる潮気

 ──翌朝。


 ナナミは、胸の奥にほのかに残る温かさとともに、ふわりと目を開いた。


(……なんだろ。身体が軽い……?)


 いつもより深く息が吸える。

 体内を流れる魔力の“音”が、昨日までとまるで違って豊かに響いている。


「アストラル……なんか、変だよ。魔力の感覚が」


(変じゃないわ。──成長してるのよ、ナナミ)


「えっ……!」


(ミラージュ・コアの訓練の結果ね。あなたの魔力量……間違いなく増えてるわ)


 その言葉に、胸がぱぁっと明るく跳ねた。


「ほ、本当に……!?」


(本当よ。あなたの魔力、昨日よりずっと“深い”)


「やった……!」


 思わず布団の上で小さくガッツポーズ。

 ナナミの喜びに、アストラルもくすっと笑う。


「ねえアストラル……わたしどのくらいの深度まで潜れるかな。 ……少し知っておきたいんだけど」


(そうね……深度100なら、まったく問題ないわ)


「ひゃ、100!? 本当に!?」


(ええ。むしろ余裕よ。訓練よく頑張ったわね)


 嬉しさが胸に波紋のように広がる。


「……ありがとう、アストラル!」



 身支度を整えたナナミは、軽い足取りで階段を降りる。


「……あ、いた」


 フロントの前。

 そこには──昨日と同じように、フレデリカとテリィが仲良く水槽に張りついていた。


 水槽の中の〈フロート・カニ〉は、ちょこんと砂の上に座り──


 ぷく……ぷく……ぷくぷくぷく……んぷぁ。


 と、勢い余って自分の泡でひっくり返った。


「きゃはっ! 見た!? 今ひっくり返った!」


「ねぇ、ほら、またぷくぷくしてる! かわいすぎ!!」


「……ふふっ」


 ナナミの頬が緩む。


 フロート・カニは、ひっくり返った状態のまま手足をばたつかせ──

 “助けて”と言わんばかりにぷくぷく泡を吐き散らす。


 テリィが慌てて手を突っ込み、そっと起こしてやると──


 ぷくっ……ぷくぷくっ!(ぷるん!)


 どこか照れているように泡を一発、控えめに弾かせた。


(ナナミ。昨日のあなたが連れてきた命よ。二人とも、本当に気に入ってるみたいね)


(……うん。よかった)


 あたたかい気持ちで胸がいっぱいになる。



 ナナミは簡潔に朝食をとると、昨日買ったアームガードを装着し、腰のポーチに三本の回復薬を詰める。


「よし……準備OK!」


(怪我だけは、気をつけてね)


「うん!」


 街を抜け、〈ダイヴァーズギルド〉へ向かう道に足を進める。


 潮風が頬を撫で、心も自然と引き締まっていった。



 ギルドへ到着した瞬間──ナナミは違和感を覚えた。


「……なんか、騒がしい?」


 普段は落ち着いた受付前が、ざわめきに満ちている。


 ダイヴァーたちが何かを言い合い、受付嬢たちが慌てて書類を運び、

 奥のカウンターでは数人が地図を広げて真剣な顔をしている。


(ナナミ。普段と違う気配ね……)


「うん……」


 目を凝らすと、見慣れた藍色の髪が視界に入った。


「あっ……ミストさん!」


 手を上げると、ミストが気づき、急ぎ足で近づいてくる。


「ナナミさん! 来てくれたんですね、よかった……!」


「ど、どうしたの? ギルド、すごく慌ただしいけど……」


 ミストは周りを確認し、小さく声を落とす。


「──〈ギガント・ホエール〉が、出現したんです」


「ギ、ギガント……ホエール……?」


 巨大すぎる“影”が、ナナミの胸をゆっくり締めつける。


 アストラルの声も、かつてないほど低く沈んだ。


(……ナナミ。それはただの海魔じゃない)


「っ……!」


 ナナミはごくりと喉を鳴らす。


―――続く。

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ハイファンタジー
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