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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第三十六話 アストラルの訓練

 海辺の子ブタ亭に戻るころには、空は薄桃色に染まり、潮風がほんのり甘く感じられた。


「ふぅ……楽しかった……!」


 部屋の扉を閉めた瞬間、ほっと肩が落ちる。

 買い物の袋を置き、アームガードをそっと撫でていると──


(ナナミ。少し時間ある?)


「えっ、アストラル?」


(昨日、手に入れた《ミラージュ・コア》。そろそろ使うべきよ)


 アストラルの声は穏やかだが、どこか導くように柔らかく響く。


「……魔力の訓練、だっけ?」


(ええ。魔力量を増やす訓練。あなたの弱点を補強し“未来”のための第一歩ね)


 胸がきゅっと熱くなる。

 アストラルにそう言われると、不思議と怖さよりも期待が勝った。



 机の上に、透明な雫のような《ミラージュ・コア》を置く。


 光を受けてゆらりと揺らめき──息をのむほど綺麗なのに、どこか冷たい気配もある。


「これ……砕いたらいいの?」


(ええ。細かくして水と一緒に飲むの。準備しましょう)


 ナナミは採取用のハンマーとノミで慎重に砕き、小さな粉末にする。

 透明だった核が砕かれるたび、淡い光の粒が散る。


「……なんか、宝石を壊すのもったいない気がする……」


(大丈夫。これは“使ってこそ価値を持つ”ものよ)


 水に溶かすと、ほんの少しだけ色がにじむ。


 ナナミはごくりと息を飲む──

 そしてコップを口元へ。


「い、いくよ……!」


 ぐいっ。


「……~~~っ!? に、苦い……! 美味しくないよ……!!」


(知ってるわ。だから誰も拾わないの)


「ひ、ひどい理由……!」


(文句言わないの。飲みきりなさい。私の助けがあれば……あなたはこれを“魔力”に変えられる唯一の人なんだから)


 じんわり、励ますように──でも甘えは許さない調子で言われる。


「……うん……がんばる……!」


 残りを一気に飲み干した瞬間、胸の奥がじわりと熱くなる。


(ナナミ、感じる? 体内に一時的に“幻像回路”が出来てるわ)


「……なんか、体が……ぽかぽかする……」


(今から私が流れを整えるわ。あなたはゆっくり呼吸して──魔力を胸から全身に巡らせるイメージを)


「う、うん……!」


 ナナミはベッドに腰掛け、深く息を吸う。


 吸って──吐いて。

 胸の奥の温かさが、手足にじんわり広がっていく。


(そう……上手よ。急がなくていいわ。

 あなたの魔力は、あなた自身が“育てる”もの)


 アストラルの声が静かに波のように響き、ナナミの呼吸は自然と整っていく。


(大丈夫。あなたは必ず強くなる。私がついてるわ)


「……ありがとう、アストラル……」


 ゆるやかな訓練はしばらく続き──

 やがて胸の熱が静かに落ち着いていく。


(今日はここまでね。初めてにしては十分よ)


「ほんと……? なんか、体の中が軽い……」


(ええ。それが“成長の始まり”)


 ナナミの胸に小さな誇りが灯った。



 訓練を終えて階下に降りると、食堂には夕餉のいい匂いが満ちていた。


 焼き魚の香ばしさ、海藻スープの湯気──

 疲れた身体に優しい匂いが漂う。


「ナナミちゃん、今日もお疲れ様。ほら、夕飯だよ」


 ダイアンがスコットの作った料理を差し出してくれる。


「わぁ……ありがとうございます!」


 座って一口。


「……おいしい……しみる……」


 アストラルがくすっと笑った気がする。


(訓練の後の食事は格別でしょ?)


「うん……なんか、すごく……幸せ……」


 食後、少し談笑して部屋に戻ると、眠気がふわりと押し寄せた。


 ベッドに潜り込むナナミ。


「……明日も、がんばろ……」


(ええ。おやすみ、ナナミ)


 アストラルの優しい声に包まれながら、ナナミはゆっくりとまぶたを閉じた。


 潮風の夜は静かで、やさしかった。


―――続く。

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ハイファンタジー
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