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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第三十五話 はじめての友達

 ミストと共に海辺の子ブタ亭を出て歩く街の中央通りは、穏やかで、どこか甘い匂いが漂っていた。


「ナナミさん、あそこに可愛いお店があるんです。行ってみましょう!」


 ミストが指さしたのは、レースのカーテンが揺れるブティック。

 淡い色のワンピースや、動きやすそうな軽装まで並ぶ、女の子が胸をときめかせる空間だ。


「う、わぁぁ……すっごい……!」


(ナナミ。たまには、こういう場所も必要よ)


「うん……なんか新鮮……!」


 ミストは慣れた手つきで服を選び、次々とナナミの腕にかけていく。


「これは色が合いますし……こっちはナナミさんの瞳の色に似合います。はい、着てみましょう!」


「き、着せ替え人形みたい……!」


 試着室のカーテンを開けるたび、ミストが手を叩いて微笑む。


「可愛いです! こっちも似合う……あっ、これ絶対好きですよね?」


 褒められ慣れないナナミの顔はずっと熱い。


(ナナミ。これは“癒やし”ね)


(うっ……うん……)


 最終的に──若草色のワンピース、軽装用チュニック、薄手の羽織の三着を購入。

 合計、金貨一枚の出費。


「ふふっ。いい買い物でしたね」


「うん……ありがとうミストさん……!」



 外へ出ると、通りから香ばしい匂いが漂ってきた。


「ナナミさん……あれ……」


「……食べたいのミストさん?」


「た、食べたい……!」


 ナナミはくすっと笑う。


「うん行こ。実はわたしも……たべたい!」


 二人は屋台の並ぶ通りへ。


 串焼き貝。揚げ海藻チップ。蒸し魚の香草包み。

 屋台の呼び声と、鉄板の音が休息日の空に弾ける。


「ナナミさん、この貝の串、めちゃくちゃ美味しいんです」


「んむっ……! おいひぃ……!」


 ミストはいつもより明るい。笑顔が終始ほどけている。


「……ふふっ、ミストさん、いっぱい食べるんだね」


「わ、私……受付の仕事、けっこう体力使うんですよ……!」


 二人で串やチップを分けあいながら、銅貨五枚を支払い、満足げに通りを歩く。



「さて……ナナミさん、このまま市場に行きませんか?」

「うん! そうだ!回復薬を見てみたい!」


 市場は職人の声、旅人の声、魔道具の音が入り混じった賑やかな場所だ。


 薬草の匂いが漂う店先で、白衣を着た調合師の女性が手を上げた。


「いらっしゃい。そこの貴女、興味ありそうね?」


「えっ……あ、は、はい……!」


 調合師は、棚にずらっと並ぶ薬瓶を指差した。


「回復薬ってね、ただの“飲めば治る”じゃないのよ。

 効くかどうかは、素材の組み合わせと“飲む人の状態”で決まるの」


 ミストが小声で囁く。


「ここの人、講義好きなんです。捕まると長いですよ」


 その瞬間、調合師が振り向く。


「あなたも聞いていきなさい。

 若いうちに知識を入れておくの、大事よ?」


「あ、はい……!」


(ナナミ、頑張りなさい。知識はあなたを守るわ)


 ナナミは真剣に耳を傾ける。

 薬草の発酵時間、海魔の毒性への効き方、濃度の違い──。


 気づけば小瓶を三つ手にしていた。


「三つで銀貨十五枚ね。初心者にはちょうどいいわ」


「買います!」


 薬瓶は光を受けて淡く揺れ、ナナミの胸もなんだか誇らしくなる。



 店を出てすぐ、ミストが立ち止まった。


「あっ、骨董品……いいですね。見てみましょう」


 古びた棚に、金属の腕具──アームガードが並んでいた。


 淡い黒鉄に海色の石がはめ込まれたものひとつが、ナナミの目に留まる。


「わ……綺麗……」


 店主が声をかけてくる。


「お嬢さん、いい目してるね。

 それは“海魔の外骨素材”を薄層加工したアームガード。

 軽いのに硬い。機動を落とさず腕を守ってくれるよ」


「か、軽い……!」


 手に乗せると確かに軽い。ナナミでも使いこなせそうだ。


「ナナミさん、それ……絶対あったほうがいいです」


「えっ……?」


「……ナナミさんが、怪我して戻ってきたら嫌なので……」


 ミストの声に、ほんのり震えがある。


(ミストさん……心配してくれてるんだ)


 優しさが胸にしみる。


「じゃ、じゃあ……買う!」


 銀貨五枚を支払い、アームガードはナナミの腕へ。


「すごい……うれしい……!」


「ふふっ、とても似合いますよ」

 


 二人で市場を歩きながら、ミストがぽつりと呟いた。


「……ナナミさんって、私と同じ歳なんですよね?」


「えっ。ミストさん……何歳?」


「18です。ナナミさんも……ですよね?」


「う、うん……!」


「なんだか……歳が近いと思うと、もっと仲良くなれそうで……嬉しいです」


 ミストの目が、揺れながらも優しくて──

 ナナミの胸がきゅっとなる。


(ナナミ。大事な“友達”ね)


(……うん)



「そろそろ……休みませんか?」

「そうだね……甘いの食べたい……」


「ふふっ、じゃあ喫茶店へ行きましょう。おすすめがあります」


 ミストに案内された喫茶店は、木の香りと甘い匂いが漂う静かな空間だった。


 頼んだのは──海塩キャラメルのタルトと、クリーム入りシフォン。ナナミの大好物。


「わぁ……おいしそ……!」


「いただきましょう」


 カチャ、とスプーンが触れ、二人の時間がじんわりと流れる。


「ミストさん……今日、すごく楽しかった……」


「私もです。ナナミさんと過ごすと……なんだか心が軽くなるんです」


「軽くなるのは……私もだよ……!」


 微笑み合いながら、銀貨一枚を支払って店を出る。


 夕陽が街を金色に染めていた。


(ナナミ。いい一日だったわね)


「……うん。幸せだった……」


 ミストも同じように微笑んでいた。


 休息日は、静かに、温かく、終わっていく。


―――続く。


【ナナミのお財布】

金貨14枚

銀貨10枚

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