第四話 金色の邂逅
――あたたかい。
深海で感じるはずのない温度が頬を撫でていた。
ナナミはゆっくりと瞼を開く。
ここは海底の暗い窪地。
周囲は深海特有の重い闇に包まれているのに、彼女の周囲だけが金色の光で淡く照らされていた。
その光源は――
ふわり、ふわりと漂う丸い発光体。
ナナミを包み込むように淡い金色を脈動させながら、クラゲのような生物が浮いている。
「……助けて、くれたの……?」
問いかけると、光はぽう、と一段階明るく輝いた。
返事をするように。
肯定するように。
その瞬間、ナナミは理解した。
(この子が……魔力膜を直してくれた?)
本来、失った魔力は地上に戻って回復しなければ取り戻せない。
にもかかわらず、自分の魔力膜は正常に保たれている。
つまり、この未知の生物が――。
「あなた、すごい……。どうして……?」
光は控えめに上下へ揺れ、言葉の代わりに意思を示す。
「しゃべれないんだ……よね?」
今度は小さく、やわらかく光った。
まるで「ごめんね」と言うように。
「じゃあ、その光で返事をするの?」
こくり、と頷くように光が一度強く瞬く。
ナナミの胸に、小さな安堵が宿った。
恐怖だけだった深海に――ほんの少しだけ温度が戻った。
けれど、この生物を何と呼べばいいかわからない。
命の恩人であり、唯一の光。
でも名前がないのは、呼びかける言葉がないのは――どうも落ち着かない。
「えっと……」
考えながら、光に視線を向ける。
「あなた、すごく綺麗な光だよね。あったかくて……暗い海を照らしてくれるみたいで……」
光はゆるやかに揺れている。
「……だったら……“ルミナ”って名前、どうかな?」
一瞬。
深海の暗闇を跳ね返すように、光がぱああっと強く輝いた。
「わっ……!」
ナナミが思わず身を引くほどの明るさ。
でも、怖くはない。
祝福のような、喜びが伝わってくるような光だった。
「そっか……ルミナ、気に入ってくれたんだね……!わたしはナナミ、よろしくね!ルミナ!」
ルミナは嬉しそうにくるりと旋回し、ナナミの目の前に戻ってくる。
金色の光が心臓の鼓動と共鳴するように柔らかく明滅していた。
(こんな……深海で……
わたしを“歓迎して”くれる生き物がいるなんて……)
胸が強く締めつけられた。
恐怖でも絶望でもなく、救われたという実感。
ナナミはルミナへ手を差し伸べる。
するとルミナはふわふわと漂いながら近づいて手に当たった。
柔らかくて暖かい。ナナミはその柔肌をすべすべと撫でる。
ぽうっとルミナは発光した。まるでもっと撫でて、と言うように。
ナナミは微笑みながらルミナを撫で続けた。
だが、状況は何一つ解決していない。
魔力は尽きかけ、地上への道も分からない。
海魔の気配だっていつ現れるかわからない。
(このままじゃ……ここで死ぬ)
だから――頼るしかなかった。
「ルミナ……ひとつお願いしてもいい?」
ルミナは、ぴたりと動きを止めて彼女を見つめているように感じた。
光がほんのり強くなる。
“聞く姿勢”だ。
ナナミは潤んだ瞳のまま、必死に言葉を絞り出す。
「……ここから脱出するの……手伝ってくれない……?
……生きたいの。まだ……死にたくない……」
声が震えた。
深海の闇の中、ルミナはしばらく動かず――
次の瞬間、金色の光が力強く脈動した。
YES。
そう言うように。
「……っ!」
ルミナがそっと近づき、ナナミを包むように優しく光を落とす。
温かい。
涙が溢れるほど優しい。
「ありがとう……ルミナ……!」
深海という死の世界で、ただ一つの光がナナミに寄り添い――
彼女の帰還への旅が、ここから始まった。
♢
キャラクター紹介
名前:ナナミ・マリーネラ
性別:女性
年齢:18歳
経歴:元バニッシュ所属の潜海師〈ダイヴァー〉
潜海師〈ダイヴァー〉とは海に潜り海魔狩りや有用な資源を採取する職業を指す。
ナナミは魔力の量が少なく潜海時間が短いためクランにて不遇な扱いを受けていた。
虐げられていた経緯から内気で泣き虫な性格になってしまった過去がある。
★★★★★!初公開です!★★★★★
ここまで見てくださってありがとう御座います。
これから毎日20:00に更新していきます!
次の更新は11/19 20:00です
♪感想お待ちしています♪




