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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第三章 アイアン級

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第三十話 翡翠マリモと七つの海の恵み

 フロート・オーブの表面に到着したナナミ。

 手をかけると、ぷよりとした弾力が指先を跳ね返した。


「……不思議な手触り……」


(安心して。中はもっと柔らかいわよ)


「もっと……?」


 アストラルの言葉どおり、膜をそっと押し広げると──

 内側はやわらかな光の海だった。


 淡い緑の光が静かにゆれていて、まるで巨大な水風船の中に入ったみたい。


「……すごい……昨日と全然ちがう……!」


(こっちは鉱石が少なくて海藻が多い。“光の反射”が散るの。ほら、だから翡翠みたいでしょ)


 ナナミは感嘆しながら、手袋を装着し採取鞄を抱えなおす。


「よし……じゃあ、採取開始だね!」



 マリモ内部の柔らかな地面を進むと──

 最初に見つけたのは、淡く発光する大きめの貝だった。


「これ……光ってる……!」


(それ、《晶海牡蠣しょうかいがき》ね。魔力を吸って育つから縁が光るの)


 慎重に持ち上げると、ずっしりと重い。

 旨味が詰まっている証拠だとアストラルが教えてくれた。


「ミストさんの言ってた“高級食材”……きっとこれだ!」


 ナナミは丁寧に採取鞄へとしまう。



 少し奥に進むと、丸い影がゆらゆら揺れていた。


「な、なにこれ……かわいい……!?」


(《シェルマロウ》よ。ぶら下がってるだけの貝。味は保証するわ)


 摘むと“もちっ”としていて、ぷにぷにしている。ナナミはつぶれないようにそっと手袋で包む。

 煮物にすると美味しいらしい。


「今日の報酬も嬉しいけど……食べてみたいものばっかりだなぁ……」



 さらに光の筋が差す方向へ向かうと──

 淡い緋色の殻をしたホタテが、海藻の隙間で丸く光っていた。


(あれが《潮珠しおだまホタテ》ね。珍しい食材で、とても上品な甘みがあるわ)


「わ……大きい……!」


 そっと両手で抱えると、じんわり温かかった。



 足元には青い薄い板のようなものがふわふわと漂う。


「あれは海苔……? 綺麗……」


(凝固した藻──《青藻海苔》よ。乾燥すると香りがとても良くなるの)


「食材の宝庫すぎない……?」



 その時だった。


「……えっ、なにか動いた──」


 マリモの影の中を、小さな影が“こそこそっ”と横歩きする。


(あれは《フロート・カニ》ね。泡をまとって歩くの。ほら──)


 カニは驚いた拍子に、ぷくぷくと小さな泡を出した。


「か、かわいい!!? びっくりしたけど……かわいいッ!」


(持ち帰る時は壊れないように注意してね。やわらかいから)


 ナナミはほわほわした気持ちのまま、小さなカニを一匹そっとカゴへ。



 奥では、小さな光がきらりと舞っていた。


「……え……魚……? 透明……?」


(《ガラスウロコの稚魚》。光を集めて泳ぐのよ。ほら、触れてごらんなさい)


 そっと指を伸ばすと──稚魚は光の粒のように弧を描いて逃げた。


 幻想的で、息を呑むほど美しかった。


「綺麗……こんなの見たことない……」



 素材を抱えて満足しかけた時──

 アストラルの声が、少しだけ真剣に低くなる。


(──ナナミ。止まって)


「えっ……?」


(あそこ、見える? 光を吸い込んでいる場所)


 ナナミは目を凝らした。


 海藻の奥、死角になったくぼみに──

 透明な雫のようなものが静止していた。


「……綺麗だけど、ただの石だよね……?」


(いえ、それは違うわ)


 アストラルがそっと調子を落とす。


(《ミラージュ・コア》──幻像核結晶。

 食材ではない。きっと、この時代の誰も価値を知らない素材よ)


「価値……?」


(ナナミ……これは、あなたの“未来”のための道具。必ず持っていきなさい)


 胸がじんと熱くなる。


「……わかった!……ありがと……アストラル」


(ふふ。すぐに役に立つ場面が来るわ)



 すべての素材を採り終えると、採取鞄はずっしりと重かった。


「いっぱい……採れた……!」


(ええ。初依頼としては、十分すぎる成果よ)


 ナナミはマリモの出口へ向かう。

 翡翠色の光が、まるで背中を押すように揺れた。


「……行こう。ギルドに届けないと!」


(ええ、ナナミ。あなたの初仕事──素晴らしい成果よ)


 光に包まれながら、ナナミはフロート・オーブを後にした。


⸻次の話へ続く。

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