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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第二章 アクア・ヘイヴン

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閑話 エクセイルの挑戦

今回もナナミを追放したバニッシュ・クラン

エクセイル視点の物語の続きです。

 深度250。

 光が薄れ、青さが黒へと変わり始める。


 深度300。

  光海帯が終わり、世界はほぼ暗闇へと変わる。


 彼は口元を歪める。


「暗海域……ナナミ、お前はここを抜けたってのか」


 海面から差し込む太陽光はもう届かない。

 代わりに、海の水の中で黒い霧のような冷気が漂う。


 水温は急落。

 魔力膜に常時“圧迫感”がかかり、呼吸一つのたびに魔力の消費を感じる。


(クランの連中が嫌がる理由もわかる……。

 だが、ここを越えられない奴に深海層は見えない)


 無言で、さらに深く潜る。



 やがて、水の色は完全に“黒”へ沈んだ。


 暗海域。


 世界から音が吸われるような静寂。

 代わりに、どこからともなく小さな“歪み”が流れてくる。


 ──ザラ……ザララ……。


魔潮ブラック・ウェイヴの“前兆”……?

 いや、まだ本流じゃない。大丈夫だ)


 魔潮に飲まれれば、魔力膜は急速に冷え、

 まるで凍えるように魔力を食い尽くされる。


 そして、その暗流が運んでくる“海魔の群れ”。


(あんな呪いの海を……ナナミが耐えた?

 ……冗談だ)


 胸の奥で苛立ちと焦燥が渦巻く。


(俺が──負けてたまるか)


 そのとき。


◆ ◆ ◆


「……ッ!?」


 暗闇の中から、赤い光が十数個、ゆらりと浮かんだ。


 いや──目だ。


 エクセイルは反射的に槍を構える。


「デビル・カサゴ……!」


 光海帯にいるオーガ・カサゴよりも二回りは大きい。

 その巨体が“オーガ・カサゴの群れ”を引き連れて迫ってくる。


 尾がしなる。

 水流が走り、毒棘が複数飛んだ。


「そんなもので……!」


 エクセイルはひねりながら魔力槍を振り、棘を斬り落としていく。

 だが毒が薄く霧となって漂い、魔力膜がじじじ……と削られる。


 1体、2体、3体。


 撃破。

 水中に血の雲が広がり、群れが狂乱したように突進してくる。


「来いよ……まとめて、沈めてやる!」


 渾身の一撃を叩き込む。

 デビル・カサゴの頭部が砕け、沈んだ。


 ……しかし息が荒い。


(くっ……この程度で、こんなに魔力を使うなんて)


 暗海域の水圧。

 毒霧。

 視界の悪さが判断を削る。


 気づけば、魔力膜の端がざらつき、揺らいでいた。


「まだだ……ここで止まれるか!」


 彼はさらに深みへと進む。


 その暗闇の奥で──

 “別の気配”がゆっくりと形を成し始めていた。


 まるで海そのものが蠢くような、巨大な影。


 その“影”は、はじめ、ただの黒い岩塊のように見えた。


(マリモか?……いや違う……!)


 ぱちり、と。

 黒の中に、青白い光がひとつ灯る。


 続いて、二つ、三つ、四つ。


 星のように瞬く光点が、円を描くように並んでいく。


「……なんだ、これは……?」


 エクセイルの胸がざわついた。

 暗海域の常識が、警鐘を鳴らす。


 影がゆっくりと“表側”を見せた。


 それは巨大なヒトデだった。


 腕は五本。1本1本が木の幹のように太い。

 全長は三メディル……いや、それ以上。

 表面は墨のように黒く、吸盤のような無数の眼が蠢いている。


 海中でたわむ、その巨体は震えた。


 ──ぼ、ぼ、ぼぉん……。


 低い振動音が波となって周囲に広がる。


「暗夜ヒトデ……! こんな浅い深度に出る海魔じゃないだろ……!」


 魔潮の乱れに誘われ、上がってきたのか。

 いずれにせよ、光海帯の海魔とは比べ物にならない魔力密度。


 次の瞬間──

 暗夜ヒトデの一本の腕が、巨大な鞭のようにしなり、エクセイルへ襲いかかった。


「ぐっ──!」


 槍で受ける。

 だが衝撃が骨まで響き、エクセイルの身体が後方へ弾かれた。


 魔力膜が一瞬ゆらぎ、圧力が流れ込む。


(やばい……! 一撃がデビル・カサゴとは桁違いだ!)


 続けざまに三本の腕が絡みつく。


 バリバリバリバリ、バリバリバリバリ……

 

 魔力膜に、ぎゅううううっと圧がかかり急激に魔力が消耗し。嫌な音が耳に響く。


「離れろッ!」


 槍を一閃。

 切り裂いた一本の腕が黒い霧となり、海へ溶ける。


 だが──暗夜ヒトデは、切断された腕をゆっくり“再生”しはじめた。


「再生するだと……!」


 その隙を狙って、暗夜ヒトデの中心──星の中央部の眼が青く点滅する。


 衝撃波。


 海が震え、魔力膜の外側を引き裂くような波が生まれる。


(エネルギーを溜めて……ぶつけてくるのか!)


 背筋を冷たさが走る。


「こんな化け物まで……ナナミ、お前は本当にこんな場所を──!」


 彼は歯を食いしばり、槍を全力で突き込む。


「──おおおおッ!」


 暗夜ヒトデの中央部に、深く深く刺さる。

 眼がひび割れ、光点がばちばちと乱れた。


 暗夜ヒトデが苦悶のうねりを見せる。


(よし……もう一撃で沈む! ここで──)


 彼が槍を構え直したその瞬間だった。


◆ ◆ ◆


 暗海域の闇が、突然“裂けた”。


 黒い筋が高速で横切る。

 水流が荒れ狂い、巨大な影が突進してくる。


 ──ガブァッ!!


「……ッ!?」


 暗夜ヒトデの中央部にほど近い部分から、腕三本を巻き込み噛み砕かれた。

 巨体が泡を散らしながら崩れ落ち、完全に沈黙する。排出された海晶核をエクセイルは即座に回収する。


 その海魔を食いちぎった“そいつ”が姿を現した。


 長い胴。黒鉄のような表皮。

 複眼が暗闇でぎらつき、鋭い歯が並んでいる。


 ドレッド・シャーク。


 暗海域でも最上位に分類されるサメ型海魔。

 単体で小規模のクランを壊滅させるとさえ言われる。


 そいつは暗夜ヒトデを貪りながら、ゆっくりとエクセイルへ向き直った。


「……冗談だろ。

 こんな化け物まで……!」


 ドレッド・シャークの尾が、ゆるく揺れた。


 海が震える。


 完全に“狩りの対象”として、エクセイルを捉えたのだ。


「……はぁ……はぁ……来いよ。

 この俺を……誰だと思って……!」


 槍を構えようと腕に力を込める。


 だが、さっきの暗夜ヒトデ戦で、魔力膜はひどく薄い。

 内側の呼吸すら重く、視界もじわりと暗む。


(最悪だ……今の状態じゃ……)


 ドレッド・シャークが、口を大きく開いた。


 周囲の闇が、そこへ吸い込まれていく。

 深海の捕食者が見せる“死の前兆”。


 ──一撃。他の海魔とは質が違う。

 回避が遅れれば、身体ごと消し飛ぶ。


「クソッ……!」


…………………………続く。

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