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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第二章 アクア・ヘイヴン

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第二十五話 青の洞窟

 青く輝く洞窟の入口をくぐった瞬間、世界は一変した。


 洞窟内の壁面は淡い光に照らされ、青白く揺らめく光苔が星のように散りばめられている。

 海水に溶ける光がきらきらと反射し、まるで天井のない夜空を泳いでいるかのようだ。


「……すごい……綺麗……」


 ナナミが洞窟の輝きに見惚れた次の瞬間──


(下がって! 来る!)


 アストラルの鋭い警告が、胸を一気に冷やした。


 黒い影が、洞窟の暗がりから滑るように現れる。

 光を吸い込み、輪郭が溶けるほど暗い“闇の魚影”。


 ──シェードフィッシュ。


 三体。

 しかも、全てがナナミを標的にして円を描くように包囲してくる。


「囲まれてる……!」


(恐れない。呼吸と循環──落ち着いて)


 ナナミは一度深く吸い、胸へ魔力を落とし込む。

 吐くと同時に、細い魔力の糸を身体全体へと広げた。


──コツン……と視界が澄む。


 身体が水に馴染み、回避のタイミングが直感的に掴める。


(来るわよ──右!)


 一体が稲妻のような速さで突っ込んできた。

 洞窟の青光を切り裂き、その牙がナナミの喉元へ迫る。


 しかしナナミの身体は、思考より先に動いていた。

 スーツの補助機動が踵を蹴り、身体が横へ滑るように脱ける。


 水流が頬をかすめ、髪が揺れた。


(今! 切り返して──!)


「はあっ!」


 水を裂く音とともに、スピアーランスが鋭く突き出される。

 刃はブレず、海魔の鱗を正確に貫き、一撃で心臓へ届いた。


 黒い血が細い煙のように散り、海水に溶けていき海晶核が現れる。


「一体……!」


(油断しないで!)


 残る二体が連携するように左右から襲いかかってきた。

 闇のヒレが水を切り裂き、洞窟の光が引きちぎられる。


 挟み撃ち。

 真正面から受ければ無事に帰れないだろう。


「──っ!」


 ナナミは魔力を脚へ一点集中し、海中で急上昇するように跳んだ。

 身体が水流に乗って天井近くまで浮き上がり、二体の突進が交わった海面が泡立つ。


(いいわ、その判断!)


 だが海魔もすぐに方向転換し、縦から追いすがってくる。

 黒い影が柱のように伸び、ナナミを貫こうと迫る。


「負けない──!」


 ナナミはスピアーランスを反転し、逆手で握った。


 下降しながらの一撃。


 勢いに水圧が加速し、刃が深く、より深く潜り込む。


 シェードフィッシュの頭部が上下に割れ、海中へ崩れ落ちた。


 残る一体はナナミを見失い、洞窟の暗部へ逃げようとする──が。


(逃がさないわ! ナナミ、追って!)


「うん!」


 魔力循環が身体に力を満たし、脚が海水を切り裂く。

 追いすがるナナミの速度は、まるで別人のように速かった。


 闇の中で、海魔の尾ヒレが僅かに揺れる。


「──そこっ!」


 渾身の突きが、海魔の胴を音もなく貫いた。

 ランスの青白い刃が光苔を反射し、洞窟の光と重なって揺れる。


 海魔は暴れることもできず、ゆっくりと沈んでいった。


 ──静寂。


 洞窟の青光が戻り、泡がひとつ、またひとつ浮き上がる。


 息を整えながら、ナナミは自分の手を見つめた。


「……怪我、してない……? 本当に……私、やれた……!」


(ええ。完璧よ。魔力循環が“あなたの力”になり始めてる)


「ブレイカーさん……フィアスさん……アストラル……ありがとう……!」


 新しいスーツが魔力を正確に伝達してくれたおかげだ。

 ランスはぶれず、補助機動も指先の意図に忠実だった。


(海晶核、回収しておきましょう。上出来だわ)


「うん!」


 ナナミは三つの海晶核を丁寧に収納鞄へしまい、ようやく深呼吸した。


 戦いの余韻で胸が熱く脈打っていたが──不思議と心地よかった。


(ええ、二人には感謝ね。あなたが成長できたのは、彼らの支えも大きいわ)


 ナナミは工具袋から小型ナイフと採取器具を取り出すと、洞窟壁面の光苔へ慎重に近づいた。


「アストラル、これ……どこを採ればいいの?」


(苔の“根”の部分よ。強く引くと散ってしまうから、覆うように刃で浮かせてね)


「こう……?」


(そう、とても上手)


 光苔がふわりと淡く光り、そのまま採取容器へ収まった。

 収納鞄へしまうと、ほんのりと青い光が揺れる。


「綺麗……」


(戻ったらギルドの査定、きっと良い点つくわよ)


「ふふっ、だといいなぁ」


 容器いっぱいに採取が終わり洞窟内を観察していると、青い光を強く反射する鉱石がやはりナナミの意識を惹く。


「あ……これ、鉱石? 綺麗……持って帰ってもいいかな」


(ええ、問題ないわ。岩肌ごと削り取る必要があるけど……いける?)


「やってみる!」


 ナナミはハンマーと小さなノミを取り出し、丁寧に角度を調整する。


「えい……っ!」


 カン……ッ。


 美しい青の鉱石が一片ごとに剥がれ落ちる。

 洞窟の光を受けて輝くその石に、ナナミはつい見惚れてしまった。


「うわぁ……宝物みたい……」


(持ちすぎると帰りが大変よ。自分の魔力量、把握して)


「はーい……!」


 適量を採り終えると、ナナミは洞窟を振り返った。


 青い光が洞窟全体を照らし、海中とは思えない静寂と美しさが広がっていた。


「……また来たいな、この場所」


(来ればいいわ。あなたが望むなら)


「うん!」


 光苔、海晶核、青鉱石──

 今日の目的はすべて達成した。


「じゃあ……帰ろっか。アクア・ヘイブンに」


(ええ、帰りましょう。あなたの“初めての仕事”、大成功よ)


 ナナミは胸の奥が熱くなるのを感じながら、ゆっくりと青の洞窟……"マリモ"を後にした。


 その背を、洞窟の光がしばらく見送っていた。

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