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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第二章 アクア・ヘイヴン

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閑話 エクセイルの葛藤

時間は少し巻き戻り、ナナミがギルドで海晶核を納品したその日の昼頃の話です

 アクア・ヘイブン──バニッシュクランの資料室は、朝から薄青い採光板の光を受けて静謐な空気に包まれていた。


 エクセイルは、積み上がった『今期昇格査定資料』の山を前に、額を押さえた。


「……クソっ。この数字じゃ、今年も昇格は無理だろうな」


 彼がめくっていたのは海神クラン配下の各クランの討伐件数や難易度査定、功績点をまとめた資料。

 バニッシュの欄は、相変わらず寂しい。


 彼は椅子に身を預けながら天井を仰いだ。


(……俺が新人だった頃、バニッシュなんて笑いものだった。

 弱小、下部組織の烙印。海神クランの末席。

 “あそこに入るくらいなら無所属のほうがマシだ”──何度そう聞かされたか)


 本気で悔しかった。

 だからこそ、彼は必死に隊を強くしようと努めてきた。


 ──なのに。


(最近は深度の更新が出来ていない。そして向上心のある人材も少ない……)


 ふと、思考が“ある少女”の影をかすめる。


(ナナミ……)


 伸び代を見込んで入団させたものの、結局は戦力にはならなかった。

 潜行技術は未熟……何より痛手がダイヴァーとして必須の魔力量が少ない。その上いくら訓練しても伸びなかった。

 彼女を責める気はない。努力していたのも知っている。


 だが、クランの将来を考えるなら、切らざるを得なかった。


(……追放した判断は間違っていない。情では動けないんだ)


 そう言い聞かせ、吊り下げられた功績一覧を睨みつけた。


 と、そのとき。


「──エクセイルさん、聞きました?」


 バニッシュ職員の一人が、興奮気味に飛び込んできた。


「朝イチで“ソロの若い女性ダイヴァー”が、とんでもない物を納品したらしいですよ!」


「……ソロの女? 何をだ?」


「深海層の《海晶核》ですよ。しかも……複数」


 エクセイルは一瞬、呼吸を止めた。


「深海層だと……それをソロで?」


「はい。ギルドはざわついてますよ。新人離れした化け物だって」


 脳裏で何かが弾ける。


(若い女がソロで……?そんな潜行実績……しかも新人だと……深海層の海晶核……?)


 胸がざわつく。


「……会わせろ。その女ダイヴァーに」


「もう帰ったそうです。今、詳細まとめ中ですが──」


 職員の声を聞き流し、エクセイルは駆け足で資料室を後にした。


 資料室を出でダイヴァーズギルド前、ちょうど一人の見知った……頬に十字傷のついた大男が歩いてくる。


「ブレイカー!」


 呼びかけると、屈強な男は意外そうに眉を上げた。


「おう、エクセイル。珍しいな、お前から声をかけてくるとは」


「“深海層の海晶核を持ち込んだ女”が現れたと聞いた──お前、応対したのか?」


 ブレイカーは少しだけ目を細める。


「……個人情報だ。だが、どうせお前も聞くだろう。噂になってることくらいなら話せる」


「頼む」


 エクセイルは息を飲むように聞き入った。


「彼女は、アビスリフトに落ちたらしい。普通なら死んでる。

 だが……落ちた先で“深海魔”を撃破して、深海層の海晶核を複数回収してきた。

 最近まで。どこかのクランの見習いだったとか。追放された夜にアビスリフトに巻き込まれて落ちたらしい」


(…………ッ!)


 そこまで聞けば、もう答えは一つしかなかった。


 喉が固くなる。呼吸の仕方を忘れそうだった。


(アビスリフトに落ちて……生還? そんな馬鹿な……!

 いや、それより──深海魔を撃破? 海晶核を複数……?)


 彼女のことを「戦力にならない」と切り捨てた自分が脳裏に浮かぶ。


「……その女の名前は」


「言えん」


 即答。


 だが、エクセイルには十分だった。


 数秒の沈黙。


 そして──理性が追いつくより早く、嫉妬に近い焦燥が心を焼いた。


「……俺は、深海層に潜る」


 ブレイカーは呆れたように肩をすくめる。


「は? 無茶だ。お前のクラスでも深海層は危険だぞ」


「わかってる。だが……行くしかないんだ」


 言葉を吐き捨てるように言い、エクセイルは踵を返した。


(追放した見習いが──深海層を攻略して生きて帰ってくるなど……

 あり得ない。あり得るはずがない。

 ……だが、もしそれが“本当”なら)


 自分が見誤ったことになる。


 そして。


(……バニッシュは、このままでは置いていかれる)


 内部から煮え立つような焦りと嫉妬を押し殺しながら、エクセイルは歩き出した。


(深海層ダイヴを成功させて、成果を出す。

 ──俺が、バニッシュを守るんだ)


 決意の影が、その背に濃く落ちていた。

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