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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第二章 アクア・ヘイヴン

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第十九話 海辺の子ブタ亭

ナナミ目線に戻ります

 ダイヴァーズギルドの扉が閉まると同時に、ナナミは大きく息を吐いた。


「……なんとか、換金できたぁ」


(ええ。本当に、よく頑張ったわ。ナナミ)


 髪飾りから響くアストラルの柔らかな声に、緊張していた心が少しだけほどける。


「とりあえず……宿、行こっか」


(あなたの身体、限界近いもの。一刻も早く休まないと)


 ブレイカーに教えてもらった“海辺の子ブタ亭”へ向けて歩き出す。


 商通りを抜け、角を曲がると海風と木の香りが混ざり合う。

 そして現れた宿は──丸っこい子ブタが波に乗って笑っている。そんな看板が揺れる、陽だまりのような木目調の建物だった。


「……かわいい……!」


(ふふ、気に入ったみたいね)


 扉を開けると、香ばしいスープの匂いがする。そして明るい声が迎えてくれた。


「いらっしゃいませ!」


 淡い緑髪を伸ばした女性──ダイアンが、花が咲くように笑顔を向ける。

 快活、そして健康的で朗らかな雰囲気だ。


「海辺の子ブタ亭へようこそ! 私はダイアン。……って、あら!」


 ナナミのボロボロの姿を見て、ダイアンは目を丸くした。


「お嬢ちゃん……ダイヴァーさんかしら?その格好……もしかして海難に遭ったの?」


「あ、は、はい……ちょっと色々あって……」


「大変だったでしょう? とにかく座ってお水飲んで。宿をお探しかな?」


「はい。泊まりたくて……」


「宿賃は朝晩ご飯付きで一日二銀貨よ」


(安い!助かる!)


 ナナミはブレイカーに渡された袋からゴソゴソと金貨を取り出し差し出した。


「じゃあ……五日分お願いします」


「あら、金貨を……ありがとう。じゃあ五日ね」


 ナナミは少し躊躇してから切り出す。


「……この宿、ギルドのブレイカーさんに勧められたんです」


「まあっ! ちょっとスコット! 聞いた!?」


 ダイアンが声を上げると、奥からひょこっと顔を出した男がいた。


 スコットと呼ばれた男性。無骨で大柄。

 だけど、その目は優しい色を宿している。


「……ブレイカーの……紹介、か」


 低く、必要な言葉だけを発する寡黙なタイプだと分かる。


「スコット、この子ブレイカーが紹介してくれたんだって!」


「……そうか。……なら、安心だ」


 短い言葉。けれど、そこには“ちゃんと面倒みてやる”と感じる静かなあたたかさがあった。


「あ、あの、スコットさんもブレイカーさんと……知り合いなんですか?」


「……昔からだ。同じ隊の……同期で」


「ふたりとも、若い頃は無茶ばっかりしてたのよ〜」

 ダイアンが笑って補足する。


 スコットは少し照れたように視線を逸らすだけで、何も言わない。

 その不器用さが逆に優しさを際立たせていた。


 その時、小さな足音が二つ、タタタッと響いた。


「ママー! お客さん!?」


「おきゃくさんだー!」


 元気いっぱいの少女がぴょんっと跳ね、

 弟らしき男の子がもじもじしながらダイアンの後ろから顔を覗かせる。


「この子たち、フレデリカとテリィ。10歳と6歳よ。店の手伝いしてるの」


「よろしくね、お姉ちゃん!」


「……よ、ろ……し……」


 テリィの小さな声に、ナナミは自然と笑顔になる。


「よろしくお願いします」


「さ、部屋に案内するわ! 疲れてるでしょ?」


 ダイアンが階段を上がっていき、ナナミはその後ろについていく。


 案内された客室は、海の見える明るい個室だった。

 木の香りが落ち着きを与え、清潔で、温もりがある。


 扉が閉まり、静けさが戻る。


「……はぁ。やっと落ち着いた……」


(ええ。本当に、本当にお疲れさま)


 アストラルの声はいつもよりも優しく、包み込むようだった。


 ベッドに腰を下ろした瞬間、ナナミは深く息をつく。


「ねぇアストラル……これからのこと……深海のこと、色々話したいんだけど……」


(ええ。聞くわ、ナナミ。…しかし、ナナミの身体は限界でしょう。いますぐ寝なさい)


「そ、そうだね……時間はあるんだし……安心したら眠くなって……きちゃった……」


 ナナミはそのまま目を瞑ると、まるで糸が切れたようにベッドへ倒れ込んだ。


(そう……ゆっくり眠りなさい。ここは安全よ)


 アストラルの囁きが、ふわりと遠くなっていく。


 疲労はとうに限界を超えていた。

 身体の奥にこびりついた冷たい深海の感触も、漂流の恐怖も……今はようやく薄らいでいく。


 まぶたの裏がゆっくりと暗く沈み──


 気づけばナナミは深い眠りへと落ちていた。


  * * *


 どれほど眠っていたのだろう。


 海風の匂いが部屋に流れ込み、微かな夕陽の名残がカーテン越しに揺れている。

 外はすでに夜の気配を帯び初めていた。


 ──コン、コン。


 静かな部屋に、控えめなノック音が響く。


「……ん、んん……?」


 重くなった身体をゆっくり起こし、ナナミは目を細めた。


(起きたのね。先程日が落ちた頃よ……扉に誰か来たみたい)


「だ、誰だろ……?」


 寝起きの声を押し出すように呟き、ナナミはベッドから足を降ろした。


 ノックは、もう一度だけ、優しく叩かれた。


 ナナミは胸の鼓動をひとつ深く聞いた。


「……はい。今、開けます」


 ゆっくりと扉へと手を伸ばした。


 

 【ナナミのお財布】

 金貨29枚、銀貨3枚

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