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アビス・グランブルー 〜クラン追放された最底辺ダイヴァー、わたしはやめたくなかった〜  作者: ロートシルト@アビス・グランブルー、第四章も毎日20時更新!
第二章 アクア・ヘイヴン

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閑話 取引

 ナナミを送り出し、扉が静かに閉ざされると、部屋にうっすらと息のような静寂が満ちた。


 ブレイカーは机上の海晶核をひとつ指で弾き、淡い脈動を確かめる。

 深海特有の黒藍光がランタンの橙を押し返すように震えていた。


 そこへ、控えめなノック。


「副長。……その、グリーンリーフ堂の店主が来ています」


「フィアスが?」


「はい。『質のいい海晶核の入荷予定はないか』と……」


「……ちょうどいい」


 ブレイカーは立ち上がり、深海級の海晶核を木箱に収め、片腕に抱えた。


◆ ◆ ◆


 ギルド応接室。


 甘く薫る香水と、夜のようなしっとりとした気配。


 椅子に腰かけていたフィアスは、ブレイカーを見るなり、勾玉のような唇をゆるく弧にした。


 ──その右目は、深い紺の眼帯に覆われていた。


 繊細な刺繍が施されたそれは、装飾と誤魔化すにはあまりにも実用的で、けれど隠された事情を不用意に詮索させない“線”を引いている。


「あら。あなたから応対してくれるなんて珍しいわね」


「今日はお前に見せたい“掘り出し物”があってな」


 フィアスは片眉を上げる。

 眼帯越し、片側だけの視線が鋭く、そしてどこか渇いていた。


「……面白いこと言うわね。まさか、その右手に持ってる光海帯のC級を“掘り出し物”とは呼ばないでしょう?」


「当然だ。──これはその数段上だ」


 ブレイカーは木箱を机に置き、蓋を開けた。


 ふわり、と空気が震える。

 濃い藍光が部屋を満たし、深海特有の冷たさじみた気配が肌を撫でた。


 フィアスの片目がわずかに揺れる。

 その瞬間、眼帯の下に隠された何かが、微かに反応したように──ブレイカーには見えた。


「……これ……まさか……深海級……? しかも……“純度が高い”……!」


 彼女はひとつを恐る恐る手に取り、光へ翳す。

 黒藍の輝きが脈打ち、指先どころか彼女の頬まで淡く染めた。


「冗談じゃないわ……こんなの……この街じゃ数年に一度見られればいい方よ。誰が──」


 フィアスの声が止まる。

 眼帯の下、閉ざされた瞼の奥が、熱を帯びたように疼いた。


 ──もし、これほどの純度があれば。

 ──いや、でも……そんなはず……。


 “希望”と呼ぶにはあまりにも脆く、“諦念”と呼ぶにはわずかに息づいている何かが、胸の底で泡のように膨らむ。


 彼女は表情を引き締め、ブレイカーを刺すように見据えた。


「──誰が納品した?今のアクア・ヘイヴンにダイヤモンド級のダイヴァーは居ないはずよ」


「それは絶対に言えん」


 即答。

 ブレイカーの声は鉄そのものだった。


「……『言えない』? あなたがそこまで口を閉ざすってことは……相当ね」


「事情がある。

 そしてその人物は──恐らく二度と深海に潜らない。

 つまり、“再入荷”の目処は現時点でない」


 フィアスは海晶核を握ったまま指を止める。

 沈黙。

 片目の奥で、計算と欲と不安、そして……微かな“渇望”が交差した。


「……本当に、これ……売るつもりなの?」


「ああ。お前なら、価値を理解する」


 フィアスは唇を噛んだ。

 普段の妖艶さが消え、孤独な技師の顔になる。


「深海核なんて……欲しいに決まってる……。

 だけど……この品質、量、希少性……下手をすれば、血眼の奪い合いが起こるレベルよ。

 そんなものを……私が預かっていいの……?」


「買うか買わないかはお前の判断だ」


 ブレイカーは腕を組む。


「ただひとつ言っておく。

 ──これはギルドでも“手に入らない”。」


 フィアスの喉が小さく鳴る。

 眼帯の裏で、閉ざされた視界が疼いた。


 ──もし。

 ──もし本当に、これほどの光が扱えるなら──。


「…………くっ。あなた、本当に罪深いわね。

 そんな言い方されたら……買わない選択肢なんて、ないじゃない……」


 彼女は海晶核を箱に戻し、深呼吸した。


「──買うわ。全部」


 ブレイカーは静かに頷いた。


「決まりだな」


 フィアスは頬に手を当て、苦笑する。


「はぁ……帰ったらこの怪物、どう加工するか考えただけで緊張で倒れそう。失敗は許されない……。

 でも……この取引、きっと未来を変えるわ」


 ブレイカーは口元をわずかに緩めた。


「……そう思うなら十分だ」


「ええ。感謝するわ、“副長”」


 そして、ふと視線を落とす。

 眼帯の下を押さえるその仕草は、誰にも見せない弱さのようでもあった。


「……この街に、また深海の光がもたらされるかもしれない。

 そんな予感がするのよ」


 ブレイカーの目が細まる。


「……ああ。俺もだ」


◆ ◆ ◆


 取引は静かに、しかし確かな重みを残して終わった。


 キャラクター紹介

 名前:ブレイク・オークウッド

 性別:男性

 年齢:37歳

 経歴:元潜海師〈ダイヴァー〉⇒現ダイヴァーズギルド副長

 愛称はブレイカー。

 元は優秀なダイヴァーとして第一線で活躍。しかしとある事件により第一線を引退。ダイヴァーズギルドの副長として現役ダイヴァーを支える役目を担っている。

 ナナミと同じ年頃の娘がいる。深海より海晶核を持ち帰ったナナミのことを不思議に思いつつも静観、見守っている。

 とても手先が器用で、貝殻を研磨しピカピカに仕上げるのが趣味。


挿絵(By みてみん)

明日も20時更新です!

最近評価数やスタンプ増えてきて筆者はとても嬉しいです!


ブレイカーかっこいい!フィアスって一体なにもの!?

次はどうなるんだろう!?など気になったら

是非とも★★★★★評価&ブックマークお願いします⸜(*˙꒳˙*)⸝

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