第九話 激闘、そして
――ドォン!!
突進は、風のような速さだった。
巨体とは思えない速度で水を切り裂き、ウツボは一直線に迫ってくる。
「っ……!!」
ナナミは咄嗟に身を翻し、魔力膜に力を込めて横へ跳ぶ。
直後――
――ズガァァン!!
ウツボの顎が床を噛み砕き、石柱が粉々に砕ける。
その衝撃だけで、ナナミの身体は大きく押し流された。
(速い……! 重い……!
今までの海魔なんて……相手にならない……!)
水が激しく渦巻き、視界が歪む。
遺跡の水中とは思えないほどの圧と速度。
ウツボはすぐに方向転換し、ナナミを睨みつけた。
その眼が――氷のように冷たい。
「く……る……!」
ナナミは構え直したが、胸の奥で恐怖が暴れていた。
その瞬間、ルミナが小さく光を震わせる。
光は先ほどより明らかに弱い。
「ルミナ……」
ウツボが二撃目の突進を開始した。
――来る!
「っ……!」
ナナミは魔力膜を脚に集中し、強制的に加速する。
水流を滑るように跳び、ギリギリで突進を回避――
した瞬間。
――ビュゴッ!!
ウツボの尾が鞭のようにしなり、ナナミの胴を叩きつけた。
「――ッぐ!!」
激痛とともに、視界が弾ける。
身体が壁に叩きつけられ、息が止まる。
ウツボは追撃のために口を開く。
その顎の奥には、鋭い牙がびっしりと並んでいる。
(やばい……動け……動け……!)
ナナミは必死に手足に力を込めるが、震えるばかりで動かない。
そのとき――
ルミナがナナミの前に飛び出した。
「ルミナ、だめっ――!」
だが止める暇はなかった。
ルミナは強い光を溢れさせ、ウツボの目の前で閃光を放つ。
――パァァァァッ!!
ウツボが一瞬たじろぎ、動きが止まる。
(動きが……止まった!?
ルミナが、止めてくれた……!)
しかし――
「ルミナ……小さく……!」
光はさっき以上に弱く、身体もひと回り縮んでいた。
ナナミは、胸の奥が締め付けられるほど痛くなる。
(こんな……こんな戦い方……違う……
ルミナを盾にして戦うなんて……絶対違う……!)
ナナミは壁を蹴り、息を吸い込む。
「……私がやる……!
私が、倒す!!」
ウツボの動きは一瞬止まっている。
今しかない。
ナナミは魔力膜を極限まで収束し、トライデントを構えた。
「はああああぁぁぁ!!」
全身の魔力を一気に脚へ叩き込む。
ナナミの身体が、雷のように前へ飛び出す。
目指すは――ウツボの頭部。
しかし。
ウツボは――読んでいた。
口が開き、巨大な牙の檻がナナミを迎え撃った。
「っ――!!?」
避けきれない。
魔力膜ごと、ナナミは噛み砕かれかけた――
――ガガガガッ!!
かろうじて腕で受け、急所を逸らしたものの……
「が……っ……!」
牙が腕と脇腹を裂き、血が水に溶けて広がる。
視界がぐらりと揺れる。
(だめ……意識が……)
ウツボの口が再び迫る。
終わる。
その瞬間。
――ぽ、と。
金色の光が、ナナミの胸に触れた。
ルミナだった。
弱い。
消えそう。
だけど――温かい。
小さく震えながら、ルミナはナナミに力を流し込んだ。
傷がふわりと塞がり、意識が戻る。
「ルミナ……!!」
次の瞬間、ルミナの光はふっと揺れ、さらに小さく縮んだ。
もう、ナナミの手の平ほどの大きさしかない。
(こんなの……嫌だ……!
私のせいで……ルミナが……!!)
「うあああああああああああ!!」
ナナミは絶叫し、残る魔力を全て腕に叩き込んだ。
トライデントを握り、
ウツボの開いた顎に――飛び込む。
「……っああああああ!!」
狙うは――唯一の弱点。
――眼。
ウツボが口を開く。
ナナミはその中へ飛び込み、三叉を突き出した。
――ズブッ!!
鈍い手応え。
ウツボの眼を、トライデントが貫いた。
巨体が暴れ、振動が広間全体を揺らす。
「うあああああああッ!!」
ナナミは離れまいと柄を握りしめ、力任せに押し込んだ。
――バシュッ!!
黒い体液が弾けた。
巨大ウツボは痙攣し、そのまま石床へ崩れ落ちる。
間を置いて、ウツボは今迄ナナミが見たことない輝きの海晶核を吐き出した。
そして広間に、静寂が戻った。
ナナミはその場に崩れ込み、肩で息をする。
「……や、った……の……?」
腕も脚も震え、呼吸すら痛い。
でも――倒した。
「ルミナ!!」
ナナミは慌てて振り返る。
ルミナは、水の中でふわりと漂っていた。
光は弱く……小さく……
形が揺れ、淡く透けている。
「ルミナっ……!」
ナナミはルミナを必死に抱き寄せる。
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