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 初めてお会いした貴方は、母様たちにお人形のように着飾られてドレスの重みでよろめいた私の手を優しく取ってくださいました。

 烏の濡れ羽色の艶やかな髪、涼しげな目元とそこから溢れたように頬にある黒子まで、全て計算されたように美しくて。

 私の目には、王子様のように映ったのです。


「僕と君が友達? そんなわけないだろう」


 月に一度のお茶会で、たわいもない会話をする度、幼い私の心臓は可笑しいほどに飛び跳ねました。

 指折りその日が来るのを数えて、切りすぎてしまった前髪が、どうかお茶会までには伸びますようにとお祈りをしました。


「僕たちが婚約者なのも、このお茶会も、全て父上が決めたことだ」


 長い髪はお手入れが大変で、気も遣うのであまり好きではありませんでしたが、貴方が一度気紛れに「君の髪は綺麗だ」と言ってくれたので、私も好きになれました。

 貴方が話すことをもっと理解したくて、家庭教師を増やしてもらい、数学年先の勉強にも取り組むようになりました。


「家同士がより強固な協力関係になるために、僕たちが婚約を結ぶことになった。謂わば政略結婚というやつだ」


 貴方はどんな女の子が好きかしら。

 私みたいにそばかすのある女の子はお嫌じゃないだろうか。

 母様の道具を借りて、メイドたちとお化粧を必死に学びました。貴方が気がついてくれたかは、わかりませんでしたが。


「だから友達、という表現は適していないな。協力者……パートナーが正しいだろう」


 その後の会話を、私はよく覚えていないのです。

 冷め切った渋い紅茶が喉を通るなんともいえない感触だけがいつまでも消えず。

 足元からがらがらと崩れ落ちるような、という物語の中で出てくるような感覚を初めて味わい、気が付くとお屋敷のベッドの中にいたのです。


 絵本の中のような王子様からの無償の愛が自分に注がれるなんて、そんな幻想を一瞬たりとも抱いてしまったことを恥じました。

 貴方は王子様でしたが、私はお姫様ではなかったのです。


 お姫様ではない私にできることは、せめて貴方が望む限り、貴方に相応しいパートナーでいること。

 貴方が本当のお姫様を見つけられたその日こそ、最後に二人でお茶会にしましょう。泣きたくなるほどに温かい紅茶で、お行儀悪くも乾杯してしまうかもしれません。



 どうかそれまで、貴方のことを――

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