表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

キーホルダー探し

作者: 湯雨都

俺は二人の友人たちと駐車場に向かって歩いていた。午後に講義が終わり、こうして話をしながら駐車場に向かうのはいつものことだ。車の免許を持っているのは俺と水瀬だけだった。


最近北山が免許を取得し車を買ったと言っていたので、三人で見に行くことにした。


まだ16時だというのに辺りは薄暗く、空だけが真っ白に光っている。俺は二人の会話を聞き流しつつ今日の講義の課題について考えていた。二人の会話が明るいせいか、雨がふりそうなことにも気が付かなっかった。


「おー 軽じゃん!」


「中古だけど綺麗でしょ」


北山が購入したのは深めの緑が特徴的な軽自動車だった。若干車が斜めに駐車してある。


「ねーねー中入ってもいい?」


「いいけど、散らかってるぞ?」


「ダイジョブだからっ!ほらっ」



「でもなあー」


「中に何かやましいものでも?」


「…わかったわかった。 中田も入るか?」


こうして俺たちは車に入ることになった。北山がいったように中は汚かったが、新車をここまでできるのは逆に才能を感じた。そこで俺たちは最近やっているゲームやアニメの話をして盛り上がった。


「…が強すぎてクリアできないんだよなー」



タン


タン


「なんだ?」




タン


ダダダダダダ


上から音がすると思うと一気に雨が降り出した。


「やばい。傘持ってきてないわ」


「まじで?」


「水瀬は?」


「俺は持ってるよ」


「車に予備の傘あるから一本貸すよー」


「ありがとう」


俺は北山に礼を言いつつ傘を探した。あった。ビニール傘だ。


「じゃあ、そろそろ帰るか」


「おう」


俺は水瀬にそう言うと車のドアを開け傘をさした。


「北山もじゃあなー」


「ああ」



雨の中ふたりで駐車場を歩く。俺と水瀬の車は表側の駐車場にとめてあるのでそこまで歩かなくてはいけない。田舎の大学だからか基本的に人が少ない。天気も相まってとても閉鎖的に感じた。


水瀬と会話が途切れたタイミングで、ふと水瀬の傘に目が行った。


「これ今流行りのキャラのキーホルダーじゃん」


「そうそう。でもこの傘母さんのなんだよね」


「じぶんの傘使えよー」


「最近なくしたからしょうがない」


「このキャラお前も好きだったよな?」


「うん。家族そろって大好きだ」


確かに、そんな話を前に聞いた気もする。


そのとき



ポチャン



何かが水に落ちる音がした。すると水瀬が


「うわあああああああっ!」


「ど、どうした?」


「母さんのキーホルダー落ちた!!」


「…まじか」



水瀬の足元を見るとちょうど排水溝があった。周りには見当たらない。きっと排水溝の中に落ちてしまったのだろう。どうする、そんな言葉をかけるより先に水瀬は動き出していた。


わずかに開いた隙間からスマホのライトを当てて必死にキーホルダーを探している。


しばらくすると「あった!」という言葉とともに排水溝ブロックを持ち上げようとしていた。

さすがにその行動力には驚いた。荷物も傘も地面に置き、少しづつズラしている。


しかし、水瀬は力が強い方ではなくすぐに限界は訪れた。


「はあ、はあ、中田も手伝ってくれない?」


俺はすぐには即答できなかった。水瀬の手が泥だらけだったからだ。それまでも自分に少し潔癖なところがある故に見守るだけにとどめていた。


しかし、水瀬の必死さをみて同情し、手伝わない自分に罪悪感を覚えてきたところだ。手伝おう。


「…わかった。」


俺は気が進まないながらも荷物を傘の下に置き排水溝に手を伸ばした。コケがびっしり生えている。


持ち上げようとしてもなかなか動かない。長年手入れされてなかったのだろう。一気に力み持ち上げようとすると、簡単に外れた。


「ふう。外れたぞー」


「ありがとう!」


ようやく一件落着だとおもい、傘を持ちながら休んだ。おかげでずぶ濡れだ。


「水瀬ー見つかったー?」


「おかしいなー確かにここにあったんだけどなー」


排水溝の中をまさぐりながらそう言う。

水瀬の手はどかしたブロックの下から隣のブロックの下に伸びていった。


いつまでそうしただろうか、次第に雨は強くなる。水瀬に傘を差しながら立つのもつかれた。


「おーい、もう見つからないんじゃないのかー」


「いや、絶対見たから…」


「もしかしたら鞄のなかにでもはいってるん…


「これだ!!!」


水瀬はまさぐっていた手を止めた。しかし様子がおかしい。


「どうした?早くしろよ」


「なんか引っかかってるみたい」


水瀬は力いっぱい引っ張っていたかと思うと、急に態勢をくずした。


「やっとか」


俺がそう言っても水瀬は返事しない。気になり水瀬の手元を見た。


「ん?これキーホルダーじゃなくね? なんかの骨?」


俺がみたそれはなんだか白っぽくてザラザラした骨のようなものだった。そこで妙なことに気づく。水瀬の腕が赤いことに。


「おい!怪我したのか?!」


「ちがう…俺の血じゃない…」


「は?」


「これ、多分爪だ」



ゴボッ


ゴボゴボゴボ


排水溝から粘性のある嫌な音が聞こえてくる。



中を覗くと真っ赤に濁った水が見えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ