星降る塵牢の攻略準備
庭に聖騎士たちがズラリと整列し、私とラグナルドはその前に立っていた。
朝の陽光が降り注ぐ中、訓練を終えたばかりの聖騎士たちは背筋を伸ばし、私の指示を待っている。
「……ラグナルド、貴方からお願いするわ」
私は面倒くさがっていることを黙ってラグナルドに話を振った。
「なんじゃ、他人任せか?」
「当然よ」
「貴方が持ち込んだ話でしょう?」
ラグナルドは肩をすくめると、聖騎士たちを見回しながら話し始めた。
「この辺境にはいくつもの古きダンジョンが眠っておる」
「その中でも『星降る塵牢』と呼ばれるものがあるのじゃ」
「異様な数の魔物が溢れ出し、周囲の村々に害を及ぼしておる」
「このままでは村々が壊滅するかもしれん」
「ゆえに、うぬらの力を借りたいのじゃ」
「……あそこはそんな場所じゃなかったが?」
攻略経験のあるグランスが疑問を口にした。
すると他の聖騎士たちもダンジョンについて話し始める。
「確か『星降る塵牢』は何度も攻略されてるはずだぜ」
「グランスの言う通り、いつも魔物は少なめって聞いてる」
「うーむ……」
「なんでじゃろうなぁ」
「妙だな……」
グランスは腕を組んで思案する。
そんな中、屋敷の方からゆっくりと歩いてくる影があった。
朝陽に照らされた堕天使のフィルク・ゼルナールが姿を現す。
ラグナルドは彼の黒い羽を見て眉をひそめた。
「なんじゃあ、お主?」
「俺か?」
「俺は元魔王のフィルク・ゼルナール」
「お前が噂の大魔法使いか?」
「そうじゃが」
「なぁんで魔王が生きとるんじゃよ」
「魔王はミリ──」
私は騎士たちから見えないようにラグナルドの背中をつねった。
「い゛ッ……」
「あぁ、えっと……なんじゃったか」
「魔王は確か聖女に討伐されたはずじゃろ」
「天使に転生したんだよ」
「はぁ?」
「それから堕天した」
「ややこしいやつじゃのう……」
「お前に言われたくはないさ」
(確かに……)
フィルクは肩をすくめながら言った。
「ダンジョンが活性化してる」
「俺も最近行ってみたが、異常だった」
「お前のせいかよ!」
聖騎士たちの間から野次が飛ぶ。
フィルクは鼻で笑うと、呆れたように手を振った。
「バカ言え」
「俺がちょっかいかけようと行ったら」
「もう既におかしくなっていたんだよ」
「むしろ、俺より先に何かが動いてたってことだ」
私は聖騎士たちの無駄な騒ぎを抑えるために一歩前へ出た。
「今のままだと人数が多すぎるわね」
「グランス、最適な人数を教えてちょうだい」
「……そうだな」
「20人から30人くらいがちょうどいい」
「ふむ、溢れ出しておる魔物は魔法耐性が高いものが多いらしいのじゃ」
「よって、対魔物用の物理的な技術に優れた者が志願してほしい」
「俺が行く!」
「私もだ!」
「俺の槍も役に立つはず!」
聖騎士たちが口々に名乗りを上げ、場は騒然となる。
私は静かに目を細め、一言、低い声で言った。
「……真実を話しなさい」
瞬間、静寂が広がる。
「「……す、すみません……」」
聖騎士たちは気まずそうに視線を逸らした。
その様子を見て、フィルクはクツクツと笑っている。
「いやぁ、やっぱりお前は面白いな」
私は溜息をついた。
「はぁ……」
「グランス、ダンジョンに詳しい貴方が適した人選をしてちょうだい」
「ったく、仕方ないな……」
グランスは渋々承諾した。
彼が選んでいるあいだ、私はラグナルドの領主という身分を尊重するためにランチでもてなすことにした。
「この後の予定は?」
「今日はこのままダンジョンを見に行けるように空けておいたのじゃ」
「それなら人選が決まる前に腹ごしらえといきましょう」
「おお、それはありがたいのう!」
ラグナルドは満面の笑みを浮かべた。
「俺も同席させてくれよ」
フィルクが横から口を挟んだ。
「元魔王なんだから」
「辺境の領主には身分で負けてないだろ?」
「うむ、それもまた一興じゃな」
ラグナルドが面白がるように笑い、私たちは3人で屋敷への道を戻った。




