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夜食のマカロン

 庭園から戻ると、聖騎士たちは一様に驚いた顔をしていた。


「な、なんだあれは……!」


「あれが堕天使の……」


「悪しき力を持つ漆黒の翼……!」


「ミリアーナ様、お怪我はございませんか!?」


 彼らの視線の先には、夜空を背景に悠然と広がるフィルク・ゼルナールの黒い翼。


 その神秘的な姿を珍しがる者もいれば、すぐさま討伐を主張する者もいた。


「堕天使……」

「そんなものがミリアーナ様の前に現れるとは」


「許せんな、今すぐ首をハネてみせよう」


「こんな者を放っておくわけにはいかない」


 彼らが剣を抜こうとした瞬間、私は静かに告げた。


「放っておきなさい」


「しかし、ミリアーナ様……」


「いいから」


 私の一言に、聖騎士たちは一瞬で言葉を失った。


 沈黙が広がる中、誰もが私の意図を測りかねている。


 すると──


「……ミリアーナ様の寛大な御心……!」


「堕天使にさえ慈悲を向けるとは」


「やはり我らが主は高潔なお方だ……」


「聖女としての誇りを捨てず」

「悪をも受け入れるとは」


「この慈悲深さ……」

「まさに真の支配者に相応しい……!」


 えぇ……どういうこと……?


(別に私は心が広いわけじゃないのよ……)


 やれやれとため息をつきながら、私は居間へと向かった。


「お待ちしておりました、ミリアーナ様」


 そこには、優雅に微笑むパティシエ聖騎士のルーヴェル・フィルステンが待っていた。


(……パティシエ聖騎士って何よ)


「今夜のお夜食は、特製のマカロンをご用意しました」


 テーブルの上には、色とりどりのマカロンが美しく並べられていた。


 淡いピンク、優しいクリーム色、深いチョコレート、ほのかなシトラスの香りをまとった一品もある。


 私は一つ手に取り、軽くかじる。


 さくっとした食感のあとに広がる、濃厚な甘み。


「……美味しいわ」


 ルーヴェルが満足そうに微笑んだ。


 そのとき、じっとこちらを見詰める視線を感じた。


 視線の主は、聖騎士というよりも傭兵のような雰囲気をまとった男グランス・エルミア。


「……」


 彼は、腕を組んでこちらを見詰めている。


 いや、正確には、私の手元のマカロンを。


「欲しいの?」


「……いや、別に……」


 その言葉とは裏腹に、彼の視線は明らかにマカロンに釘付けだった。


 私はため息をつき、一つ差し出す。


「食べる?」


「……いいのか?」


「ええ」


 彼は一瞬躊躇した後、マカロンを受け取り、無言で口にした。


 聖騎士たちの中には、甘党であることを隠したい者もいる。


 グランスもその一人なのだろう。


「……ふっ、ミリアーナ様に甘えるとは」


「貴様、調子に乗るなよ」


「……は?」


 周囲の聖騎士たちが、グランスを睨みつけていた。


「……別に、ただのマカロンだろうが」


 彼は眉をひそめるが、他の面々は納得がいかないようだ。


 私はそんな5人の聖騎士に目を向けた。




グランス・エルミア──鋭い目つきに整った顔立ちで無骨な印象。

 深い栗色の髪を持ち、私の前では無愛想だけど甘いものを前にすると態度が少し和らぐ。

 だけど戦闘経験が豊富で聖騎士たちの前では親分肌を見せることが多い。


ユリウス・ヘルスヴァル──優雅な金髪と涼しげな微笑、礼儀正しいが意外と強引。

 燕尾服を好み、細部まで完璧な装いを崩さない。

 髪は柔らかく波打つプラチナブロンドで、陽光を受けると銀色の輝きを帯びる。


ルーヴェル・フィルステン──聖騎士でありながらパティシエとしても才能を発揮。

 穏やかな笑みが特徴。柔らかなアッシュブラウンの髪を持つ。

 神は光の加減でハチミツ色に輝くことがある。


セリクス・ヴァルド──銀髪で冷徹な策略家、色んな策で私の周りの聖騎士を追い払ってくれる。

 髪は滑らかなシルバーホワイトで、月光の下では幽玄な輝きを帯びる。


ラスティン・グロイス──漆黒の長髪と鋭い瞳、常に戦場を意識する戦闘狂。

 強さこそが全てだと考え、私に絶対の忠誠を誓っている。

 髪は闇夜のような深い黒で、光を受けても決して色褪せることがない。




「ところで、マカロンって何種類くらい作ったんだ?」


 グランスが口をモゴモゴとさせながら呟いた。


「今回は十種類ほど。チョコレート、ラズベリー、ピスタチオなど」


「へぇ……」


「君はどれが好きなんだい?」


 ルーヴェルが問い返した。


「チョコレートだな」


「俺はピスタチオ派だ」


 ラスティンが横から口を挟んだ。


「チョコレートに比べると甘さ控えめだが」

「ピスタチオも悪くない」


 グランスが静かに頷きながら答えた。


「ラスティン、お前がそんなものを食うとは思わなかったが」


 セリクスは意外そうな顔をしている。


「……?」

「俺は甘いものが好きだぞ」


(ラスティンはアホだから、甘党を隠すなんてことはしないのよね)


「君たちも案外甘党なんだな」


 そんな言葉を交えながらユリウスが微笑を浮かべていた。


 ようやく穏やかになった部屋で、私は再び紅茶を口にする。


 五人の聖騎士たちが、少しだけ和やかにデザート談義を交わしていた。


 マカロンってすごい。

 

 夜のティータイム。


 マカロンの甘さが、私の疲れを少しだけ和らげた。


(……今日も騒がしかったわね)


 でも私はそんな日々を少しだけ気に入っていた。

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