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夜の堕天使散歩

 食後、私はフリズルホルン邸の庭園へと足を運んだ。


 月光が静かに降り注ぎ、花々が優雅に揺れる。


 涼やかな夜風が心地よく、静かな時間を楽しめると思った。


(せっかくの穏やかな時間……)


 そう思いながら歩みを進める。


 しかし、次の瞬間。


「ミリアーナ様の散歩に付き添うのは俺だ!」


「は?」

「何を言っている。お前より俺の方が適任だ」


「貴様らには任せておけん」

「ここは私が……!」


「お前ら、ミリアーナ様に迷惑をかけるな!」


 案の定、聖騎士たちは『お散歩する権利』を巡って争い始めた。


 静かな夜を満喫したいだけなのに、これでは意味がない。


「……うるさい」


 私は、ほんの少しだけ力を解放した。


 聖女としての純粋な光と、悪役令嬢としての深淵の闇。


 二つの力が混ざり合い、混沌が生まれる。


「ぐ……!?」


「な、なんだ……体が……!」


「や、やばい……!」


 聖騎士たちは恐怖に顔を歪ませ、誰一人として声を発することができなくなった。


「これで静かになった」


 私は満足げに息を吐き、再び夜の庭園へと歩を進めた。


 ひとりで歩く庭園の奥、彫像の上に人影があった。


 月光に照らされた男。


「久しいな、元聖女よ」


 銀の髪、深紅の瞳。


 フィルク・ゼルナール。




 かつて私が討ち滅ぼした魔王だった。




「まさか貴男がまだ生きているなんて」


 彼は微笑みながら、彫像の上に座り続けている。


「俺は死んだよ。お前に殺されてな」


 彼は軽く肩を竦める。


「だが……その後、天使になった」


「天使?」


「そうさ。魔王から聖なる天使へ」


 彼は乾いた笑いを漏らした。


「お前と同じで転生したんだよ」


「……それで?」


「当然のように堕天した」


 フィルクは、どこか愉快そうに微笑む。


「天使なんて性に合わん」

「すぐに地に堕ちて堕天使となった」


「……貴女らしいわね」


 私が呆れながら呟くと、彼は優雅に笑った。


「昔でさえそうだったが」

「今はそのとき以上にお前は強くなっている」


 フィルクは静かに言葉を紡いだ。


「俺はもう理解したんだ」

「お前の力はもはや、誰にも止められない」

「勇者とか魔王とか堕天使とか」

「そういうレベルを遥かに超越している」


「そんなことは最初から分かっていたはずでしょう?」


「まぁな」


 彼は肩を竦め、


「だから俺は、あの手この手で」

「お前を堕としてやることに決めた」


 口元に不敵な笑みを浮かべた。


「お前に忠誠を誓うつもりはない」




「ふーん」

「……面白い男ね」




 私は静かに彼を見つめる。


「少しは相手をしてあげてもいいわよ」


 そして、夜の静寂が広がっていく。

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