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一日目

夜中に描いたから多分後々で加筆わりとします。(๑╹ω╹๑ )


肌寒い冬の朝、部屋中にはいつもの様に鈍い高音を鳴らしながら朝の目覚ましが鳴り響いていた。


何で電池切れの時計が鳴るのかとは聞かないで欲しい。僕も分からないもの。


目覚ましの音にふっと目を覚ませば、いつもの様な朝の体の気怠さが無く逆にその違和感に困惑していた。


突然の休みによって強制的に休まった体は朝の寒さが気にならないほどに好調だった。


そしてそんな珍しく愉快な朝も昨日のことを思い出すと、ふっと現実に戻される。


昨日僕は”夢”に遭遇した。


”夢”と言われても何も知らなければ、夢に遭遇するとはどういう事だとなるだろう。寝落ちでもしたのか?と言われてしまう。


僕はあくまでその”何か”が自分を”夢”だと言っていただけ、僕はそれが何なのかは全く持って分からないのだ。この事は僕の理解の範疇の外なのだ。


けれど異常な能力を持った存在である事に間違いはない。例え僕を唆そうとしている悪魔だとしても、人間を救済する天使でも一人間の僕ではどうしようもないのだ。


そしてそんな不可思議な存在は僕にある提案をした。七つの夢を叶えると。


昨日その”夢”は僕に七つの夢を叶える権利があると言った。何故そんな権利が与えられるかわ分からないが、僕にはそれを受け入れる選択肢しか無かった。


欲望に塗れた一人間である僕が突然の一週間の休暇を手放すものか、それに加えて好きな夢を”七日間”だけ叶えてくれるときた。悪魔でも天使でも休みをくれるならそれは等しく神だ。


昨日の僕はその”何か”についての考察を早々に諦め、余った時間を朝から映画、ゲーム、読書、普段しない料理をし、休みの日を久々に謳歌した。


そしてそんな休日の寝る前に、僕はすっかり忘れていた叶えてもらう夢の事を思い出した。


そして思い出すだけ思い出して 寝た。


実に昨日充実していたと思う。けど一つ失敗だった事がある。


叶えてもらう”夢”を考える事を最後に回してしまった事だ。突然の休みに舞い上がって自由にし過ぎたせいで、僕の寝ぼけた頭では結局いい夢が思い浮かばなかった。


思い浮かばないままに朝は僕を追いかけてきていた。


七つもある夢の内容が結局埋まるわけもなく、気づけば目覚ましの轟音である。


そして今朝のちょうど五時である。普段の癖か、五時起きは変わらなかった。リビングに向かえば、いつ見ても困惑せざる終えない見た目の”何か”が椅子に座って勝手にコーヒーを飲んでいた。


san値がゴリゴリと削られている気がするがそれは気にしちゃいけないな。


やっぱり真っ白で奇妙なマスクじみた物を付けている。そしてもちろん点滅しているのだ。朝からとても目に悪い。


そして示し合わせた様に僕がきた瞬間に”何か”がコーヒーをマスクに近づけコーヒーを飲んだ。僕の目には消えた様にしか見えないが。多分こっちの反応を見て楽しんでいる。なんて良い性格をしているんだろうか。


「やっ、おはよう。よく眠れた?」


男性か女性か分からない声の軽い口調でその”何か”は奇妙な触手を腕の様に振ってきた。顔は見えないが何だが笑ってこっちを見ている気がする。


この”何か”がいつから家にいたかは分からないが、普段一人の家に二人いる事に違和感しか感じない。


ここに”何か”がいるという事は今日の夢を聞きにきたのだろう。まだ考えたいと言ったらどうなるのだろうか。


「じゃあ、今日の叶える夢について聞こうか。僕は充分に考える時間を与えたからね。」


僕の心の中は見透かされているらしい。姿は見えていなくても案外近くで見られていたのかもしれない。


結局僕は咄嗟に決めた一つ目の夢で妥協する事に決めた。


『分かった。今日の叶える夢だね。 よし!もう決めたよ。』


「おっ、案外あっさり決めたね。もっと悩むかと思ったんだけど?」


本当はもっと悩みたかったが、悩めば悩む程決まらない気がしたからやめた。


『因みに他の人はどうだったの?僕みたいに悩んでた?』


「そうだね。殆どの人は中々夢を決められていなかったね。夢が多かったり、逆に夢が殆ど無い人はかなり迷っていたね。」


『案外夢って考えてもそんなに数が多く出てこないもんね。』


実際七つも叶えたい夢があるかとそこら辺の人に聞いてみれば、直ぐには答えは出ないと思う。案外7は多くて少ないのだ。


「それじゃあ、君の夢を教えておくれ?僕が責任を持って君の夢を叶えよう。」


実にわざとらしい口調で僕に答える。ただその前に聞いておく事があった。


『そう。じゃあいう前に一つ聞いておきたい。』


「何なりと聞いておくれ。」


『どんな”夢”でも本当に叶うのかい?』


どんな夢でも叶う。確証が欲しかったのだ。聞いたところで確証にはならないけれど、それでも確証が欲しかった。僕はとても心配性なんだ。


「叶うとも。叶えてみせるよ。」


『分かった。僕の今日の願いは           だ。』


「おお!良い願いじゃあ無いか!最初にしては中々面白いね。その願い僕が叶えよう。」


最初の夢は少し大人しめの”夢”を選んだ。叶うか分からないだからまずはお試しだ。


若干興奮した口調で”何か”は僕の夢を喜んで聞いた。


「さあ、目を閉じたまえ、君の望む世界に送ってあげる。」


僕は”何か”に絆されるままに目を閉じた。


「多少は融通が効く世界だ。そしてそこは君の夢だ。それを忘れちゃいけないよ。」


”何か”の声に送り出される直前、僕はずっと聞こうと思っていた”とある事”を思い出した。


『そういえば、ずっと聞こうと思っていたんだけど名前って持ってるの?名前がないと少し不便なんだけど。』


”何か”は少し悩んだ素ぶりを見せると、また明るい調子で喋った。


「そうだね。よし。モル二ス、とでも呼んでおくれ。」


その言葉を最後に僕の意識は闇の中へ溶け込む様に沈んでいった。


◇◇◇


深く眠りについた意識が段々と浮上し、僕はいつもの柔らかいベットではなく、草の生い茂る硬い地面でゆっくりと意識を覚醒させる。


いつもの鈍い高音のアラームではなく、太陽の自然光からくる眩しさで意識をハッキリと目覚めさせた。


僕が周りを見渡せばそこは鬱蒼とした背の高い草が生い茂る植物の海だった。


植物の海とはおかしな表現と思うかもしれないが、実際に僕にとっては海の様に見えるのだ。もしこの場にもう一人登場人物がいるなら、きっと僕と同じ表現をする事だろう。


何故植物に海使うかって?だって普段足元にある植物が自分の身長を優に越して何倍もの高さを持っていれば、きっとそこは植物の海にしか見えないはずだろう?


そんなわけで目を覚ました僕は目の前鬱蒼とした雑草の中を掻き分け進んで行く。


しばらく草の間を掻き分けて進んでいけば少し開けた場所に出る事ができた。


その光景はまさに、自分が先ほど”モルニス”と自称した存在に所望した通りの世界が広がっていた。


一見そこに広がっているのは、車が大きく音を鳴らしながら道路を通り、高いビルが陽光を反射し、沢山の人間が歩いている、ただの日常の光景だった。


通学中の幼稚園生の列に、疲れた顔の社会人が直ぐそこを通り過ぎていく、そんなどこかの日常。


けれどそんなただの日常の光景でも違う事がある。


それは、世界の大きさだ。


その大きさが、見える物すべ手の大きさが、人が、ビルが、車が、より一段と大きく見える。


まるで自分以外の全てが大きくなった様なそんな光景が眼前には広がっていた。


ただ、周りが大きくなったんじゃない。自分が小さくなったのだ。


僕は道路脇のコンクリートに生える社会に耐える屈強な草の中で目を覚ましたのだ。


つまる所僕は”小人になる”事を望んだんだ。


小人になったからといって何か出来るのかと問われれば、何もできない。


でも僕は若干だが小人に憧れがあった。


小人が靴を作る童話を知っているだろうか?小さい頃は誰の家にもあったんじゃにだろうか、僕はその童話の中で小人の靴屋の話がとても好きだった。


苦労しているおじさんの代わりに小人が靴を作ってあげる。今はそんな内容しか覚えていないが、小人に対する僕の印象が強かったのをよく覚えている。


僕の目には、そう小人が妖精の様に見えていたのだ。まあ小人は妖精の一種かもしれないけど。


魔法の様でもある、けれどその裏には小人の小さな苦労がある。縁の下の力の様なそんな存在が大好きだった。


だから偶然思い浮かんだ夢の様な存在である小人になる事を選んだのだ。


小人の目線で視る世界はやはりとても大きかった。


そして、そんな膨大なほどに広がった世界に驚く横に、気づけば一つの影が僕の近くに忍び寄る様に近づいていた。


体の小さな生物は必然的に外敵が多くなる、それはたとえ人間が小さくなった場合でも同じだ。小人は食物連鎖で言えばほぼ最底辺に位置するだろう。


僕の後ろには大きなバッタの様な輪郭の巨大な虫がじっとこちらに顔を覗かせていた。


僕はその時初めて、自分自身より圧倒的な強者の姿に自分が食物連鎖の下にいることを肌で実感した。


巨大なバッタに見える虫は獲物をいつ捉えようかとじっと身構えていた。


もちろん獲物は僕自身だ。小人の僕はとても弱かった。


巨大な虫を見た僕は一瞬でパニックを起こした。誰だって巨大な存在がこちらを見ていればsan値が減るだろう。


僕のSAN値は多分もうほとんど残って無い。


結局、逃げる獲物を捕食者が逃すはずもなく、貧弱な小人である僕は一瞬で巨大なバッタの腹の足しになった。


僕は夢の中で死んだ。


◇◇◇


『はぁはぁはぁはぁ』


僕は勢いよくベットから飛び上がっていた。呼吸も荒くなり、落ち着きもなかった。


夢の中とは思えないほどの苦痛と恐怖に僕はすっかりと怯えていた。


「あれ、随分と早いお帰りだね。おかえりー」


ベットのそばには椅子に座ったモルニスと名乗る化け物が本を読みながら僕を出迎えていた。


切迫した時こそどうでも良いことに目がいくと言うが、何故か僕はモルニスの持っていた本をじっと見ていた。まだ中盤あたりを読んでいるのだろう。


実にどうでも良い。


夢の中での出来事に、どういう事だと問いただしたくなったが、その言葉を一旦喉に押し込んで深呼吸を挟む。


夢の内容はどちらかと言えば悪夢だった。けれどこのモルニスという化け物は決して良い夢を見せるとは言っていなかったのだ。


そのことを忘れて逆上してはいけない。感情的になるのはまだ早いと思う。まだ僕に非がある可能性だってある。


呼吸を挟み。冷静に夢を作った本人に声をかける。


『モルニス、あの夢は本当に僕の夢か?』


まずこの質問に答えられなければ僕は決して落ち着くことはないだろう。何ならちょっと殴っても良い。


僕はあのバッタの化け物に食われる直前に死を拒み恐怖した。本当に僕の夢ならそのバッタが居なくなるか、安全な場所に移動するかできたかもしれない。


「何を言っているんだいあれはもちろん君の夢だ。君以外の夢が入り込む余地はあそこには無いよ。」


モルニスはまるで当然だという様な態度で僕の質問に回答を寄越した。


夢は案外僕が思うより不便なのかもしれない。夢とは思い通りにいかないから夢なのだろうか。


「夢の中で何故死ぬのか、それが分からないんだろう?君は何で夢の中で死ねると思う?」


夢の中で死ぬなんて考えれば良くあるかもしれない。悪夢を見て飛び起きた、なんて良くあることだろう。


けれどあれ程明確に死を実感したことはあっただろうか?いや、ない。


まるで本当に死んだかの様な感覚が僕にはひしひしと伝わっていた。いつもなら、夢で死にそうになったらきっと冷や汗を掻いて飛び起きるだろう。


よく授業中に寝落ちした時に落ちる夢を見て、驚いて飛び起きるだろう?そんな感じに。


考えてばかりでは話が進まないので僕は五分ほど考えさっさと答えを出した。


『この夢が作り込まれ過ぎているからかい?』


僕の回答はこうだ。僕が見ていた夢は細か過ぎた、ただそれだけだ。再現され過ぎた故の”死”何だ。


「そうだね。君が思うならそうなんじゃ無いかい?夢ってのは本来不明瞭な物だ。君の考えすぎで現実が再現されたのかもね。」


モルニスは曖昧な回答しか返さない。不明瞭で投げやりな回答に苛立った僕は、それ以上の考えを放棄してまたベットの中に勢いよく潜り込んだ。


『モルニス、もう一度僕を夢の中に送ってくれ。』


僕の言葉にモルニスは少し驚いたかの様でそれでいて軽薄そうな声で返した。


「あれ?意外だね。死ぬことが嫌でもう諦めると思っていなかったのに。もう行っちゃうのかい。喋り相手がいなくて僕は寂しいよ。」


『思っても無いこと言うなよ。1日の内なら何度でも視れるんだろう。今度は安全な場所に送ってくれ。』


「わかったよ。でもそういう事は僕に言うんじゃなくて自分自身に言い聞かせるんだ。君にとって最も安全だと思う場所を。」


モルニスは楽しそうな声で僕を夢の中に送り出した。


◇◇◇


一度感じた意識の浮上する感覚浸る事もなくにいち早く僕は目を覚まし、安全を確保する様に周囲を見まわした。


やはり何度も見ても全てが大きい。自分が小さくなった視点には慣れる事は今後一生絶対に無いだろう。


辺りの様子はこれと言って危険がある様には見えず、それに何故か不思議と安心感を覚えた。安全場所を強く望んだ影響だろうか。そこはとても懐かしさを感じる場所だった。


僕が起きたのは道の隅やそんな場所ではなく、小さな道路の真ん中で目を覚ました。


一見危険に見える場所だった。車でも通れば僕は抵抗する事もできず勢いに吹き飛ばされるか、車の気づかれる事もなく潰されてしまうだろう。


だが、そこは人の気配が一切感じられなかった。人っこ一人いない、そんな道路だった。


取り敢えずと辺りを少し小さな歩幅で進んでいくと、僕は自分の感じる懐かしさの正体に気がついた。


何処かで見た事のある景色、小さくなっていたからなのか、僕は直ぐに気づくことが出来なかった。何故気付け無かったのか驚きが後を絶たなかった。


此処は昔住んでいた町だった。


僕は高校を卒業した後都会に上京し、実家を離れていた。ずっと住んでいた町の道を僕は全く忘れていたのかもしれない。


自分の住んでいた町だと気づいた後は昔の道を辿る様にゆっくりと歩いた。


僕にとっての安全な場所は実感の慣れ親しんだ町だったらしい。


僕は何となしに自分の家に向かっていた。理由は無かったが強いて言えば、しばらく家に帰っていなかったから、ただ家を見たいと思った。


人のいない静けさに若干の戸惑いを感じながらも、夢だからと理由をつけて静かな町をゆっくり進んでいく。


気づけば僕は自分の家に前に低い背で見上げる様に立っていた。


一戸建ての少し造りの古い瓦屋根の小さな家だったが、今の僕には見上げなければいけないほどに大きく感じられた。


それほど歩いた感覚は無かったが、知らぬ間に家に着いていた。これは僕が望んだからなのかそれとも、無意識のうちに着いたのかは定かではない。


取り敢えずと家の中に入ろうとするも、僕は今更ながらサイズが違う事を実感し若干苦笑に似た笑いが込み上げていた。


さっさと笑いを引っ込めると、小さな僕用の玄関を探すために僕は巨大な玄関を無視して家の周りを一周りする事にした。


本来なら小さなはずの庭とも言えない草の生える家の傍がこの体だとより大きく感じられた。


家の周りには自分のサイズで入れる扉はやはり用意されてはいなかった。分かってはいたが、どうにか僕は家に入りたかった。


そして悩んだ末に、案外簡単な解決策を見つけた。そう、昔の町に興奮するあまりサッパリ忘れていた。


此処は僕の夢の中だと。僕の頭の中であると。


望めば叶うとモルニスはそう言っていた。モルニスの言葉を信じるならば、僕はこの巨大で小さな家に入る事も容易なのだろう。


僕は目を瞑ってイメージする。家の中を、自分が過去にいた、育った、思い出の場所を連想する。その中に小さな僕を写し入れる、そんなイメージを。


目を瞑って五分は経っただろうか、周りに感じる空気が少し暖かくなった気がして目を開けてみれば

見慣れた景色が僕の目に映っていた。僕は家の中に入る事に成功した。


家の中は僕が最後に見た時より少しこざっぱりしていて掃除の行き届いた様子だった。もっと汚かった気もするが、頭が勝手に美化してしまったのだろう。こればかりはどうしようもない。


廊下を進んでいくと、廊下の一番奥にあるリビングから大きくそして幼さを感じる笑い声が聞こえてきた。この世界で僕は初めて人の声を聞いた。その声に聞き覚えがあるかと言われれば僕には無かった。


聞いた事のない笑い声に警戒しながらも奥のリビングに進んでいくと、笑い声の主が一人で遊んでいた。


通りで聞いた事のない声だと納得の人物がそこにはいた。聞き覚えがあればある意味おかしくて当然だった。


そこには幼い頃の僕がいた。


三歳か四歳ほどの小さな自分が一人おもちゃで遊んでいた。手に持ったおもちゃを見れば少し懐かしさを覚えた。


幼い僕は一人で遊んでいるが、別に親が遊んでくれなかったとかいうわけではない。ただ記憶に映らなかったそれだけなんだろう。


幼い僕をもっと近くで見てみたいという思いもあったが、少し前のバッタが脳裏に浮かんできてやっぱりやめた。


子供にとって小さな僕はきっと妖精か虫に間違われて運が悪ければ殺されてしまいそうな気さえした。この夢を終わらせるにはまだ早いのだ。


その部屋をそっと離れ、他の部屋もじっくりと眺めていく。


そんな中僕はとある写真を見つけた。


小さな僕と父と母が写った楽しそうな写真。


何処で撮ったのかも分からないが、その写真が異様なほど目から離れようとしなかった。


家族にとてつもないほどに執着があった訳でもない。けれどその写真が必要な気がした。


僕の登れない位置のある写真のところに行く事を目を閉じて連想する。これにも少し慣れてきた気がした。


五分も経たず僕は写真の置かれた棚に移っていた。写真はやはり目から離れようとしない。この写真は何かあると、そう思わされた。


写真に何かあるのかと言われれば何かある訳ではなく、まじまじと全体を見ても何もおかしなところはない。


幸せそうな家族の写真。何故これほど引っ掛かるのか僕には分からなかった。


写真を眺める事しばらく、小さな僕の声以外無かった家に物音がした。


人が二人廊下をバタバタと歩いている。声はよく聞いた声だった。父と母だった。


写真をまじまじと眺めていたからなのか、僕の母と父が家に帰ってきてしまったのだろう。不用意に僕は部屋から出られなくなり結果的に僕の首を絞めた。


扉越しに聞こえる声はとても楽しそうで、幸せの体現の様だった。


母が僕の名前を呼び僕はその声に無邪気に返事をする。父が僕の名前を呼び僕はその声にまた笑って返事をする。


幸せな声に耳を傾けていると、もう一つ聞こえないはずの音が鳴っていた。


母と父の声、楽しそうな僕の声、そして床を軋ませるもう一つの音。一つの異物が僕の夢に紛れ込んだ。


その音は玄関から廊下へ、廊下を通り僕のいる部屋の前に向かっている。


小さな床が軋む音がゆっくりと近づいてくる。人の音では無かった。どちらかと言えば、大型犬が歩けばこんな音が鳴るんじゃないかという様な音だ。


音は扉の前でぴたりと止んだ。


おかしな音にすっかり僕は怯えていた。扉越しにいる何かじっと見つめる様に扉を見つめて呆然としていた。


体感では五分経ったと思う。その音がまた再びなる事は無かった。


僕は多分その謎の音が幸せな家族に向かって行く事を恐れていたのだろう。


気づくと僕の家族の声は無くなっていた。


何となしに後ろを向いた。


『あっ』と声が漏れた。


既視感のある”恐怖”がそこにいた。


いるはずのない化け物が獲物を見つめていた。


僕はまた弱者になった。


呆気なく僕はまたバッタに貪り食われた。



















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