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金の貴公子


「スペード、あまり苛めるんじゃないよ」

金の王子が言う。

「王子様だ……」

そのときの私には、彼がきらきらと輝いて見えた。


「おや、私は王子ではないよ」

彼は笑う。

「なかなか可愛い子じゃないか。スペード、あまり苛めないでやってくれよ」

「ウラーノ、貴方は甘すぎる」

「君が厳しすぎるんじゃないのかい?」

金の彼は上品に笑う。

「ウラーノ」

「スペード、大人気ないよ。まだほんの子供じゃないか」

ウラーノと言う彼の言葉に少しばかり苛立つが、助けてくれるようなので文句は言えない。

「だが、この子はハデスの手のものだ」

「へぇ、ハデスの……ハデスといえば平均年齢が以上に高い組織だと思っていたけど……案外若い子も居るんだね。そうだ、リリムは元気にしているかい? 彼女は国一番の美貌だって今でも評判だ。年齢は誰も知らないらしいけど」

金の彼は言う。

「リリムなら先日道案内をしてくれました」

「ほぅ……珍しいことも有りますね。彼女が案内できるとは……」

スペードも驚いたように言う。

「二人ともリリムと知り合い?」

思わず訊ねてしまった。


「ああ、スペードの弟子なんだよ。彼女は」

とてもじゃないけど信じられない。

「嘘だ。あんなふわふわした人がこんな性格悪い人に!」

思わず叫ぶ。

「ハハン、言ってくれますね。やはり殺しておきましょう」

そう言ってスペードは再びレンズを構え始める。

「スペード、今この子を殺したら、時の魔女が飛んでくるよ?」

「時の魔女……厄介な女だ」

どうやら時の魔女は嫌われているようだ。

「あ、あの、ウラーノさんは時の魔女をご存知で?」

「ああ、たまに世話になるよ。尤も私は時の魔女よりも、ここに居るスペードやセシリオの世話になるけどね」

彼は妖しいと言う表現が合うような笑みを浮かべた。


「ウラーノ、この子は目障りだ。殺すなと言うのでしたら君が責任持って家まで送り届けなさい」

「ふふっ、本当に、素直じゃないね。スペードは。正直にこの子が可愛いから心配だって言えばいいのに」

「……君も、地獄に落としてあげましょうか?」

「おお、怖い怖い。さぁ、行こうか」

金の彼は私の手を引いて酒場を出る。


「ウラーノ!自分の分の代金を払ってから行きなさい」

スペードが叫んでいたのを彼は華麗に無視し、馬車に乗るように言う。



「あの、すいません」

「構わないよ」

「お名前を伺っても?」

「ああ、私はウラーノ、ウラーノ・ナルチーゾだよ」


『ナルチーゾ』と言う名前はどこかで聞いたことがある気がする。

「あ、ナルチーゾ、葡萄の産地……」

「ふふっ、私の領土だよ」

「え?」


彼が言うにはナルチーゾと言う地方は葡萄と薔薇園があって、ワインと香水が名産らしい。

そして彼はその領土を治める伯爵だとか……


「ナルチーゾなのに名産は薔薇なのは何故だろうね」

彼は悪戯っぽく笑った。

「そもそもナルチーゾって何ですか?」

解らないので正直に訊ねる。

「水仙のことだよ」

そう言って彼は手鏡を見せてくれた。

確かに蓋には水仙が描かれている。


「さぁ、ここでいいのかな?」

噴水のある広場に着く。

「あ、はい。お世話になっている家は狭い場所にあるので馬車じゃ入れませんから」

「そう、じゃあ、またどこかで逢える事を願っておくよ」

ウラーノはそう、優しく微笑む。


「気をつけるんだよ」

「はい。ありがとうございました」


クレッシェンテには珍しい人だと思う。


彼は比較的、友好的な人物なのだろう。


アラストルに今日の出来事を話したらどんな反応をするだろうか?


楽しみになり、足取りが少しばかり早くなった。

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