伝説の銀の剣士
前にアラストルに聞いたことがあった。クレッシェンテには伝説と呼ばれた銀の剣士が居ると。
だけども、まさか自分がその伝説と会うことが出来るなど夢にも思っていなかった。
「あれ? リリアン、アラストルとはぐれたのか?」
つい数時間前に会った少女が一人で噴水の端に腰掛けているのを見て思わず声を掛ける。
「だれ?」
「さっき会っただろ? ああ、アイス三段の買ってあげる約束だった。今買ってくるよ。何がいい?」
リリアンにそう訊ねると彼女はぽかんとした顔で私を見上げる。
「いいの?」
「約束だからな」
すると彼女はチョコとクッキーとレモンと答える。
「今買ってくるよ」
すぐ近くのアイスクリームのワゴンで同じものを二つ購入する。滅多に使わないアラストルから貰った「お小遣い」が初めて役に立った気がする。
「はい」
「ありがとう」
嬉しそうに笑う彼女に頬が緩みかけたとき、喉元にひやりとした感触があった。
「何をしている?」
不機嫌そうな声。
アラストルの声と全く同じなのにどこか違う声。
「何って、リリアンにアイスを奢っただけだけど?」
「リリアン? その子は玻璃だ」
「え?」
慌てて振り向く。
「アラストル……じゃない……」
驚いた。こんなにも似ているとは……。
アラストルは伝説の銀に憧れて剣の道へ進んだと言っていた。
「貴方がシルバ?」
「何故俺の名を知っている?」
「貴方を尊敬しているって言う銀髪の剣士から聞きました」
「銀髪の剣士?」
「はい。いずれ伝説の名を手にすると言っていましたがいまだ実現できずにいる男です」
シルバは不審そうに私を見る。
「玻璃、知らない人から物を貰ってはいけないと言っているだろう?」
「約束って言ってた」
「人違い、だったけどね。って! 玻璃?」
驚いた。
まさか探していた少女がこんなにも傍に居たなんて。
「玻璃に何か用か?」
シルバが刺すような視線で私を睨む。
「時の魔女が探している。そう伝えたかっただけ」
ダメだ。
この時間の玻璃ではダメなのだ。
「時の魔女? あの方がなにか?」
「私に黒い髪に赤い瞳の女性と言うには少し幼い少女とも呼べる彼女を探してほしいと言われて異世界から飛ばされました」
正直に言う。
何故だろう。
きっとこのシルバと言う銀の男はアラストルによく似ていて、なにか安心できるものを持っているからだろう。
「それが私?」
「未来の」
「未来?」
「ええ、私は未来から転がってしまったようです。この砂時計のせいで」
そう告げればシルバは興味深そうに砂時計を見つめる。
「へぇ……強力な時空移動魔法だね。凄い。これなら数十人を一度に動かすことも出来る」
「え?」
「但し、使用回数は限られているようだ」
使用回数が限られている?
「それって……もしかしたら戻れなくなるかも知れないってこと?」
「そうなるかな? よく考えて使いなさい」
彼の言葉は衝撃的だった。
「取り合えずさっきまで居た時間に戻りたいのですが……」
そう告げれば、シルバは優しく微笑む。
「反対周りにひっくり返せば戻れるよ」
「え?」
「来たときと逆に回せば元に戻る。砂が完全に落ちきる前なら」
彼の言葉に安心する。
「ありがとうございます。ところで、貴方は魔術師なの?」
「いや、ただの戦闘馬鹿だよ」
彼の笑顔はどこか安心させてくれるものがある。
「玻璃」
「なぁに?」
「未来でまた会おう」
「うん、きっと」
その笑顔がリリアンと重なった。
そんな彼女に手を振り、二人に別れを告げる。
砂時計をひっくり返す。
一瞬、玻璃が成長した姿が見えた気がした。




