黒の騎士
騎士とか言うとなんとなく、白い馬に乗った金髪の美しい青年を想像する。
それはきっと甘ったるいロマンスとか御伽噺とかそういったものを連想するからだろう。
だけど、私の出逢った騎士は、白馬に乗っていなければ、金髪でもなかった。
それどころか雨が降れば勝手に自分の仕事を放棄したりもする。
そして困ったような部下たちの顔を見て楽しんでいるのだ。
そんな騎士の名はユリウス。馬も衣服も髪も瞳も真っ黒な彼はきっと心も真っ黒に違いない。
そして、彼はユリウスと呼ばれることを嫌う。
誰にでも略称の『ジル』と呼ばせるのだ。
そんなジルと私が出会ってしまったのは本当に偶然、悲運にも偶然であったのだ。
出逢った場所は国立の図書館だっただろうか。
とにかくこの場所がどんな場所なのかを知りたくて資料を探しに言ったのだった。
なにせ、私は異邦者なのだ。
この国について何も知らない。
せめてもの救いは言葉を理解でき、文字を読めるということだった。
特に頼れる人間も居ないが、とりあえず、友人未満の知人が四人ほど出来たというときに、運悪くもその騎士殿と出会ってしまったのだ。
彼は「こんにちは」と挨拶するわけでもなく、突然「なにしてるの?」といかにも不審者を見るような目で私を見てきた。
後から知ったのだが、その図書館で本を閲覧するには宮廷騎士団の許可証が必要だったらしい。
なんとも不便な国だ。
私は率直にそう思った。
「で?君、何者?」
「この世界を旅する者、としか言いようがないよ」
私は困り果てていた。
何せ身分を証明できるものは何も無いのだ。
だけども、彼はそれを聞いて納得したように頷いた。
「ああ、君が…時の魔女からの文書にあった『異世界からの客人』か」
彼はやはり不機嫌そうだったけれど、胸ポケットから何か紙を取り出し、万年筆でさらさらと何かを書く。
「ほら、許可証あげるから。だけど、本は持ち出し禁止だよ」
そう言って、渡された紙には『私、宮廷騎士団長ジルはこのものが図書を閲覧することを許可する』とだけ流れるような美しい文字で書かれていた。
「あ、ありがとう」
「今度僕の部屋においでよ。詳しい話が聞きたい」
彼は探るように私を見た。
だけども私は出来ることならばもう二度と彼には出会いたくないと思ってしまったのだ。
ジルが居なくなった図書館で、私はとにかくその国の歴史書を漁った。
解っているということは、この国がとんでもない国だという事実だけだった。
地図の持ち出しは禁止、王を敬わなければ即刻死刑。
こんな奇妙としか言いようのない国に、何故私がたどり着いてしまったかはわからない。
だけども私は、これからやってくるであろう未来に期待していた。
新たな出会いと私のいた『元の世界』では決して味わうことの出来ないスリル。そして、魔法と科学の融合というなんとも興味深い文化。
気がつくと私は時の魔女に再び出会う日まで、この国をどう満喫しようかと考えることに重点を置いていた。