聖夜演舞
あれから3ヶ月
ヴィンスは俺に何もしてこない
人目のないところで頬に軽く口付け程度の
ことはあるが、これに関しては以前からだ。
あのときは、
ほんっとうに役得だった
まさかヴィンスの俺への独占欲が
あれほどとは…!
友達として、主君として、
ヴィンスを愛すると決断した翌日に
あんなことがあり、
重く重く育った俺のヴィンスへの愛は
許されたような気がして余計に育ってしまった。
これ以上大きくなりようがないと思っていたのだが。
我ながら末恐ろしい。
ヴィンスめ
これに関してはおまえが悪いんだ
あのとき俺を手放していれば、
おまえは本当の友達を、本当の主君を
得ていたのに、
それは未来永劫、叶わなくなってしまった
俺がヴィンスとの相思相愛を諦めるという、
本当に一瞬の気の迷いという機会を逃したのだから
金輪際それは訪れない
「アーティ」
俺の名前を呼ぶ、俺の愛しいヴィンス
あぁ、すき。
まぁでも、
あれから何も言ってこないし、してこない。
その事実が、相思相愛ではないということを
痛いほど思い知らされる。
「アーティ、今日の聖夜演舞、きてよ。」
聖夜演舞
この国で、特別なお祝いの際にだけにひらかれる
王主催のパーティー
そしてここで祝われる内容は
暗黙の了解でたったの2つ
1つは、
聖女のお披露目式
50年に1度現れたら幸運とされる聖女を
貴族達にお披露目するパーティーだ
そしてもう1つが、
国の後継者(つまり王太子)が
運命の番との誓いをたてるパーティー
そう、こんなもの、出たくなくてあたりまえだ。
乙女ゲームの世界だ
聖女だっているだろうし、
おそらく十中八九それがヒロインだろうけど
そんなことよりもうひとつ!
王太子が運命の番との誓いをたてるパーティー
今回の聖夜演舞はこちらだと噂になってるんだよ
ほんっっとうに腹立たしい
どうせ、
さすが乙女ゲームクオリティといったところか
両方ともでした!
ってパターンになるに決まってる
しかももうひとつ噂になってるんだよ
王太子殿下は Ω のヒートと同じような周期で
夜中に城を度々抜け出すことがある
ってな!!
くっそ!くっっそ!!
俺のヴィンスなのに……!!
「いかないよ。後日祝う。」
あぁ、その後日、いつになるかわからないけどな!
俺の傷が癒えたら……なんてことは決してないから、
嘘でもおめでとうと腹から捻り出していえるようになったら祝ってやるよ…!くそが……!!
「じゃあパーティーが終わったら、
アーティの部屋で待っててもいい?」
な、何言ってんだこいつ…
どんだけ俺に祝われたいんだ
ふざけんな、おばかめ
運命の番との初夜みたいなもんじゃん
それなのに俺との時間なんて……ん?
いや、ありだな
邪魔するくらい、いいだろ。
ヴィンスが俺に時間くれるっていってくれてるんだ
少しくらい邪魔しても天罰はあたら…あたってもいい
天罰ごと受け止めて、その中にヴィンスとの時間があるんなら俺は大喜びだ。
「…後日といわず、パーティー終わったらすぐ祝うよ
ヴィンス。」
「アーティ!」