束の間のすれ違い
執務室
「ヴィンス、報告がある」
学園に設置された執務室は、
俺とヴィンスに与えられた2人きりの居場所
「なーに、アーティ。」
柔らかく微笑むヴィンス
大人びた冷たく神々しい容姿からは
想像できないほど あたたかい表情
俺はこのギャップに心底弱い
「婚約を決めた」
「…は? 」
途端、ヴィンスは冷気を纏う
聞いたことのないような、低く殺気じみた声
「後々、ヴィンスの仇なしたら厄介な派閥の筆頭貴族の当主だ。夫人を亡くし、後嫁を探してるみたいなんだが、既に息子も2人いて、子を産めない男でも構わないそうでな。」
そう、俺はヴィンス以外に身体を許せる自信なんてこれっぽっちもなければ、そんな自信持ちたくもない。
嫁いだ後にいくらでも愛人なりなんなり作ってもらえばいい。
そして、ヴィンスの役に立つ婚姻
好条件としかいいようがない。
「なにいってんの、アーティ。」
ヴィンスの役に立ちたいだけだ
そして婚姻したとしても傍で仕事をしていたい
その条件が許される相手
俺が娶る側だと、侯爵家の跡取り残さないといけないしな。
俺はお前が愛おしいんだ
お前のための人生なんだ
だから
「納得してるんだ。この婚姻に。」
バンッ!ーー
ヴィンスが、
はじめて物に当たった
「むりだよ。君は嫁げない。」
そんなことは知っている
俺は、Ω じゃない。
「…別に子を産むつもりはねぇよ」
「アーティ…!」
俺を咎めるその目はあまりにも冷たく
それとは別のなにかがこもっていた
「そんなにそいつの元に行きたいの?
子供ができなくてもいいと思うほど?」
…?
なんだ、なんか俺がそいつを好きみたいに
言いやがる
「いや、」
ヴィンス、おまえのためだよ
って言おうとしたその瞬間ー
「んっ…」
ヴィンスが俺の両頬を強く掴み
俺の唇と重ねた
「……っ、んんっ……っ…ぅっ…」
強く重ねられ、離れることはない
んだ、これ
驚きと喜びで俺の心はめちゃくちゃだ
一瞬口が離れたと思うと、
ヴィンスは 「あげないよ」 と呟き
再び俺の口を塞いだ
ヴィンスの熱は唇を重ねるに留まらず
深く俺の口を犯していく
「……っんぁっ……!っ〜〜っ……! 」
だめだ
頭がまわらない
気持ちいい、すき、ヴィンスが愛おしい、
頭に熱が籠り、止まらない快楽をヴィンスから
受け続ける
やっと離れた唇は、
ヴィンスと俺の熱で溶けてしまったのではないかと
錯覚する
「…アーティ、君はぼくのものだ。」
そんなのはあたりまえだ
「お願い。誰のものにもならないで。」
真意はわからない
独占欲からくるものかもしれない
あの熱いキスも……?
いや、わからない
でもどちらにせよ、ヴィンスが望むんだ
俺の答えはひとつだ
「あぁ、そうするよ」