愛しい愛しい幼馴染な王太子
俺は物心ついた頃から
前世の記憶なんてものをもっていた。
といっても、前世の俺は14歳で人生を終えていて、
その人生というのも、
当たり障りなく文武両道に生きつつ、
エリート思考な家系の抑圧をもさらりと受け止め
自由な時間は全て、趣味のBL漫画読み漁りにつかっていた。
目が覚めたら異世界転生なんてものをしていて、
しかも初っ端から記憶持ち。
しかも俺が転生したのは
豊かな国の侯爵家・長男。
加えて、天使と見間違われることばかりの
この美しすぎる甘い容姿。
薄いミルクティーのようなふわふわの髪に
薄い紫の宝石みたいな神秘的な瞳
色白で華奢なこともあり、
可愛らしさを感じるのに漂う色気ー
口元のほくろがよりいっそうそれを引き立てる。
チートまでとはいかなくとも
それなりに有利に生きていけるかもなぁって
この人生のことも冷めて捉えていた。
そう、彼と出逢うまでは。
ーー11年前、6歳の頃ーーー
「ヴィンセント・アラリック・ディ・エイナー
この国エイナーの王太子!よろしくね 」
ふわっとした笑顔を俺に向けた彼に、
俺は目を奪われた。
王太子殿下のご学友になるためにお城へ行くわよ
という母の言葉に、
同い歳とはいえ、こっちには前世14年分のアドバンテージがあるんだ。
友達っていうより子守りだろ。
なんてことを考えていた浅ましい思考がすっとんだ。
目の前にいた王太子殿下は
あまりにも、美しかった。
神様なんてものが本当に存在しても、
この美しさにはきっと敵わない。
青みがかった銀髪には
深いグレーのアッシュのようなものが混ざり、
かきあげた長い前髪が目にかかり、
伸びた襟足が首元に垂れるのが色っぽくも上品でー
タンザナイトのような深い青の瞳は
夜の海のように神々しく、
顔立ちはいうまでもなく、
類をみない禍々しいまでの美しさ
一級の芸術家にすら想像することすら困難な美ー
6歳にして
そんな圧倒的な美しさ、
大人な色気と上品さ、深い神々しさを放つ彼が、
俺の目をみてふわっと微笑んだのだ。
とてつもなく慈愛に溢れた笑顔だ。
え…?……え?え?え?
まってなにこれ胸が苦しい
鼓動が速すぎて、なにこれ、しぬ…?
前世のころから高鳴ることを知らなかった俺の心臓が
破けてしまいそうなほどうごめく。
「……っ」
涙が出てきそうなほど
込み上げるこの気持ちをぐっと堪える
「…あ、アーシュミィ侯爵家が長男、
アーティ・アーシュミィと申します……っ…」
出逢ってしまった。
俺という魂が、
はじめて恋焦がれ熱中する、
はじめて欲しくて欲しくて堪らないと願う、
唯一に。
「アーティ、ぼくのはじめてのお友達だ
君にだけ許すよ。ぼくのことをヴィンスとよんで。」
…!なんということ…!!
王太子殿下にはヴィンセントというお名前とは別に、
アラリックという王太子としてのお名前が授けられ、
ヴィンセントという名を呼ぶことは、
親であっても余程のことがない限りなくなる。
最愛の妻であったとしても、
王太子や王がその地位を授かると共に授かる名前以外は、本人の許しなくして口にしてはならない。
そんな特別なことを、
俺にだけ許してくれるなんて…!!
しかもヴィンセントよりも親しみのある愛称まで…!
あぁ、俺の唯一が、俺のことも唯一にしてくれる。
こんなに喜ばしいことがあって良いのだろうか
こんなに人を愛しいと思えるものなのだな
あぁ、愛しい。
はじめて知ったこの気持ちを
この気持ちをくれた彼を
大切に大切にこの人生を生きていこう。
俺の、俺だけの、
「……ヴィンス様 」






