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8話

いよいよ出発の日。


長い間お世話になった

ルイーズをはじめ

スタッフ

そして子供たちに見送られ

リディアは涙で施設を後にした。


出発まですべてが急で

結婚式さえも執り行わず

書類の提出だけになっている。


契約だけの結婚だから当たり前といえば当たり前なのだが

事情を知らないルイーズたちスタッフは

結婚式に出席できないのを残念がっていた。


時間がないので…と

言い訳をしたのが心苦しい。


とはいえ

結婚の書類は提出したので

ふたりは正式に夫婦にはなった…契約上。



飛行機で数時間。


リディアがティモシーと共に

新たな生活を始める地に降り立った。



…わずか半年ばかりの結婚生活だけど

施設を離れての新生活

なんだかわくわくする…



リディアは浮き立つ心に

頬を赤らめて微笑んだ。


そんなリディアをこっそり眺めたティモシーもまた

口角を上げて青い空を仰いだ。



「さぁ

新居に案内する」



ティモシーにそう言われて

リディアはドキッとした。



…ばかね 本当の結婚じゃないのに なんで心弾ませてるの…



リディアが困惑していると

タクシーが目の前に止まった。



「行こう リディア」



「は はい!」



ふたりで生活する新居に向かうタクシーで

リディアはドキドキが止まらず

窓の外を見ているふりをする。


ティモシーを意識しないように必死だった。



空港付近の大きな道路から

少しずつ住宅地に入り

閑静な高級住宅街に辿り着くと

モダンな家の前でタクシーが止まった。



「ここですか?」



「そうだ」



「素敵なお家ですね…」



リディアが新居を見上げる。


タクシーから荷物を下ろし

ティモシーが先に立って玄関を開けた。



「わぁ 素敵!

こんなに素敵なお家に住めるなんて

夢のようです!」



玄関は

大理石の床がピカピカに輝いている。

高い天井を見上げると

採光のガラスが張り巡らされて

太陽の恵みが室内に降り注いでいた。


広々としたリビングには

テーブルとソファが置かれ

ダイニングキッチンには

業務用と同等の冷蔵庫や食洗機

使いやすそうな

シンクと作業台がある。


2階には

主寝室の他にゲストルームが3室と

バスルームがあった。



「明日からはメイドが来るから

家事全般を任せていい」



「えっ そうなんですね」



「どうした?」



「いえ 

てっきり 私がやるものだと思ってました」



「リディアには講師としての仕事がある

その上 家事までなんて大変だろう」



「クスッ

ロ… ティムはやさしい旦那様ですね」



それを聞いたティモシーが

リディアに近づいた。



「初めて名前を呼ばれた

いいもんだなぁ」



そう言うと

そっとリディアを抱き寄せた。



…えっ…



突然のことに

リディアは体がかたまってしまう。


すぐにティモシーは

腕を伸ばしてリディアを離した。



「次は敬語だな」



「すぐにはなかな変えられないもので…しょう?」



クスッ


ティモシーが微笑んだ。



サラサラのブラウンの髪に碧色の瞳

美形の口もとが弧を描く。


リディアは

目の前で微笑んだティモシーを

初めて眩しく感じた。



…どうしよう

ドキドキがとまらない…



リディアは今までとは違う

柔らかな印象のティモシーを

意識しはじめていた。


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