7話
リディアは
結婚の承諾をした後
ティモシーの雰囲気が変わったのを感じた。
交際ではなく結婚を…と言ったティモシーは
どことなく不安そうで
緊張しているように見えた。
でも今は
気分が上がって見える。
いつも冷静で
時に人を寄せ付けないくらいのオーラを感じる
あのティモシーの新たな一面だった。
「ルイーズ施設長に報告しに行こう
ただし
この結婚の裏の理由については
君と私の機密事項だ」
「わかりました
あの…
ロズウェル様のご家族に
結婚のご挨拶などは?」
「私の両親はすでに他界している
姉がひとりいるが
結婚して夫の故郷に住んでいるから
電話で報告しておくつもりだ」
「それと
ロズウェル様はやめよう
名前で呼んでほしい
私も リディア と呼ぶから」
「えっと…
すぐにはちょっと…」
「それなら
簡単に ティムでも構わない
それのほうが呼びやすいのでは?」
「では
そうさせていただきます」
「少しずつでいいから
もっと気楽に話してほしい」
「努力します…」
その後施設に戻り
ルイーズに
2週間後には結婚をして
ボリチーマに出発することを報告した。
突然の展開に
ルイーズをはじめスタッフたちも驚いたが
リディアの旅立ちを祝福してくれた。
数日後
リディアはティモシーのオフィスで
弁護士と机を囲んでいた。
今回の『仕事』について
正式に書面を取り交わすために。
「では
内容に納得いただいたら
サインをどうぞ」
「待ってください
契約後に支払われる起業資金ってなんですか?」
リディアがティモシーに聞いた。
「離婚した後
施設に戻るのは気が引けるだろう?
ネット販売ではなく
店を構えるための資金だ」
「でも
報酬は相当額をいただくことになっています
それも多すぎると思っています
とても高額過ぎていただけません」
「不安なのかい?
多額の報酬に見合う
夫婦としての別の要求をするんじゃないかって?」
ティモシーが
ちょっと意地悪げに言った。
「そ そんなこと思ってません!
ただ あまりの高額報酬なので
働きに見合った金額にしてほしいだけです」
「ではこうしましょう
起業資金については
ボーナスとして後日検討し
通常報酬については
ロズウェル氏の会社の給与規定に準ずるとしては?」
ふたりのやりとりを聞いていた
弁護士のカーロが提案した。
「結構です」
「ダメだ」
ふたり同時に声を発する。
「納得できなければ
お約束は破棄させていただきます」
リディアがいつもよりも
鋭い視線で投げ掛けた。
すると
「怒った顔も魅力的だな」
ティモシーが微笑んだ。
「なっ
ふざけないでください!」
「まぁまぁ
代表
ここはリディアさんの意思を尊重されては?
あとからでも
追加は可能ですから」
「仕方ない
ではそうしよう
その代わり
今後は敬語禁止と
名前で呼ぶことを忘れずに」
…なんだか今日のロズ…じゃなかった ティムは意地悪だわ…
「あとは買い物だけだな
明日も時間を空けているから
今日のところはこれで終わりにしよう」
その翌日
リディアはティモシーと高級ブティックにいる。
先程から
着せ替え人形のように
いろいろなドレスを着せられては
ティモシーに判断を委ねていた。
「ドレスはそのくらいでいいだろう
それに合わせた装飾品や靴も選んでほしい
それと
普段着を十分に用意してほしい」
その言葉でお店は貸し切りになった。
その後
モデルが1人だけのファッションショーが
2時間も行われた。
途中で
多忙のティモシーはその場を離れたが
『リディアが手に取ったものはすべて購入』
と言われていたオーナーは
数日分の売上に頬は上気し
声のトーンは上がりっぱなしだった。
店を丸ごと買ってしまったような品数に
リディアのほうは青ざめていた。
夢ではないかと思われる時間が過ぎ
オーナーが出してくれたコーヒーをいただく。
多少の疲労を感じながら
リディアはソファに座っていた。
すると
「リディアさん
お迎えに参りました」
秘書のルークが店に姿を見せた。
「まぁ
お忙しいのに申し訳ありません」
リディアが立ち上がると
「代表の仕事も間もなく片付きます
オフィスにお連れしますね」
ルークの運転で
リディアはティモシーのオフィスへと移動した。