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主人公と死に戻りの代償

 

「こころ。日が昇りましたので、出発しますよ」


 化け物に食われ、目の前が真っ暗になってすぐに、私の目が覚めた。そこには、朝日を眩しそうに見るソラが横に座っていた。


「眠いのですか? 数時間しか寝ていませんから、眠いかもしれませんが、王都に一刻も早く着くには、そろそろ出発しないといけません」


 そして、時間が巻き戻っている。この光景、鬼の魔族の戦闘で出来た、大きなクレーターもある。さっきの悲惨な出来事が、なかったことになっている。


 神様のお告げの通り、あの出来事がリセットされていた。


「……ヤミは?」

「あの魔王は、私に起こされたくないようで、意地になって起きようとしません。お手数ですが、こころが起こして――」

「ソラっ!!」


 私は、ソラに泣きついた。

 今でも脳裏に焼き付いている。ヤミの心臓に、化け物の触腕で貫かれ、ピクリとも動かなくなった姿。ソラがボロボロになって、あの化け物に食われていく光景。そしてソラが無事に生きている光景が嬉しくて、ヤミが大泣きする私を心配しに来るまで、泣き続けた。


「こ、こころ……。あ、あの……落ち着きましたか……?」

「……うん……もう大丈夫」


 ソラの服が、私の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっても、ソラは普通に接してくれた。


「おい勇者。貴様、我に暴言、文句を言うのは構わんが、この人間にも悪態をついたのか?」

「していません。けど、魔王が私の言葉に文句が無いという事なので、これからも色々と言っていきますね」


 いつも通りのソラとヤミのやり取りに、私は安心してしまい、思わず頬が緩んでしまった。


「……ソラ。……次はどこに行くんだっけ?」

「セベレンダルです。その町に着けば、王都までの道のりの中間地点です」


 やっぱり、今朝に巻き戻っている。ここから半日ぐらい歩いて、目的地のセベレンダルに到着する。そしてあの闘技場に行って、あの化け物が襲撃する未来がある。


「ソラ。セベレンダルを経由しないで、王都に行ける?」


 もうあの化け物を見たくない。もうソラとヤミが死ぬ姿を見たくない。そう思って、私はソラにそう提案した。


「こころの力を鑑みて、セベレンダルに行く方が良いです。買った地図を見る限り、一番安全なのが、セベレンダルに行く事で、セベレンダルに行かないと、凶悪なモンスターがいる、危険地帯を歩く事になります」


 私的には、セベレンダルに行く方が、一番危険だと思っている。ここは、私が頑張って、危険地帯を歩き、あの化け物に会わない、二人が死なない展開にしたい。


「……セベレンダルに行く方が危険だと思う」

「どうしてですか? まあ、確かに違法の――」

「違法な闘技場があるんでしょ? 前にソラが出て、瞬殺したら、みんなからブーイングだらけだったって」


 ソラは、驚いた顔をしていた。それはそうだ、この時間軸では、ソラはセベレンダルにある、闘技場の存在を言っていないし、過去に出場したことを話していた。


「私、この先に行く、セベレンダルに行ったら、化け物に殺される、そんな未来の時間から戻って来たんだ」


 よく漫画の設定にある、タイムリープをすると、体に激痛が発生するなどの、何らかの報復がある。けど私には、そのような症状が無く、普通にソラとヤミに話すことが出来た。


「……意中の男性に告白する寸前にこの世界に飛ばされ、そして今度は時間を遡って来た。……どう反応したらいいのか」

「我が、感情を失った勇者に教えてやるぞ。普通は驚くのが、正しい反応だ」

「魔王、うるさいです」


 ヤミをピシャリと黙らせた後、ソラは私に優しい口調になりながら、私の頬に手を添えた。


「未来のあたしは、どんな阿呆な行動をしたのですか?」


 私は、そのままこの先経験する事を、ソラとヤミに話した。


「なるほど。こころと同じく、異世界から来た化け物が、この世界の人々を食していき、そしてあたしも食べられると。そして魔王が最初に犠牲者になると言う、魔族の誇りに泥を塗るような行動をするという事ですね」

「……我が負けるなど腑に落ちないぞ」


 そして、ソラは暫く考え込んでから、ヤミの顔をじっと見ていた。


「考えられる敗因は、化け物の奇襲、魔王が弱すぎる事、魔王とあたしが別々になっていた事、闘技場に多くの人がいた事、魔王がクソ弱い事、得体の知れない化け物に、あたしのペースを崩される、メンタルが貧弱だった事、魔王のくせに、魔法攻撃が使えない、雑魚魔王だという事ですね」

「貴様っ!! 我が弱いと3回も言ったなっ!!」

「真実なので、仕方ありません。それと魔王、こころが言っていた化け物の特徴に、心当たりは?」


 本人も認めているのか、ソラに怒鳴った後、すぐに冷静になって、化け物の事を思い出していた。


「実際に見てみないと分からんが、我が知る限り、そんな魔族やモンスターはいない。秘密裏に作られていた生物兵器でも、そのようなモンスターはいないな」

「化け物の襲来が無ければ、ここで魔王を処分していました。寿命が延びて良かったですね」

「かなり昔の話だからなっ!? 我が生まれた頃には、もう中止になっていたぞっ!」


 勇者として、魔族が開発していた生物兵器の存在は、聞き逃せないようで、ヤミはソラに殺されないようにと、必死になって弁明していた。


「……とにかく、今の私たちに出来るのは、セベレンダルにいる人たちを、闘技場に集めない、そして魔王がさっさと魔法を覚えろって事ですね」

「貴様。軽々しく言うが、そう簡単に強くなれたら、我は冒険をしていないぞ」

「分かっています。なので一度、セベレンダルの冒険者ギルドに行きましょう」


 異世界らしい、ソラの口から冒険者ギルドと言う言葉が出てきた。何だか感動してしまい、私は再び泣きそうになった。


「……結局、セベレンダルには行かないといけないって事なんだね」

「あたしは勇者です。これから人が大量虐殺されると知ってしまったら、放っておくわけにはいきません」

「作り話だとは思わないの?」


 普通、未来の話なんて、誰も信じない。鼻で笑われて、バカにされて、そして同じ運命に会う。けどソラは、笑う事も無く、私の話を信じた。


「勇者ですから」


 その一言だけを言って、ソラは立ち上がって、座り込んでいる私に手を差し伸べた。


「怖い気持ちは、あたしだってあります。けど今回は、あたしが傍にいます。もうこころだけ、怖い思いはさせません」


 ソラは、あたしに気を遣って、そんな言葉をかけてくれた時、あのカンペが現れた。


『ありがとう。ソラの下着が見えて元気が出た』


 ソラはスカート。そして私に手を差し伸べている時に、私はソラのスカートの中身が見えてしまった。

 ソラは黒のスパッツだった。女の子同士なので、変な空気にはならないけど、そんな気を遣った言葉を言ってくれた時に、そんな事は言えない。


「ありがとう。ソラの下着が見えて元気が出た」


 言うつもりが無いセクハラカンペの言葉が、強制的に読み上げられてしまった。言うつもりが無いのに、勝手に口がそう言ってしまった。まさか、これがタイムリープを告白した事の罰だと言うのだろうか。


「……そ、そうですか」


 ソラは苦笑いをしていて、何だか微妙な空気になってしまった。


 カンペの言葉が強制的に読み上げられるのが、タイムリープの事を話す代償なんて、地味に嫌だ。


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