主人公と魔王の実力
上腕二頭筋が素晴らしい鬼の魔族が襲来した。
「我の力を思い知ったか」
そして魔族の長だったヤミは、魔法の杖で鬼の魔族が動かなくなるまで、何度も殴打した。
「我は、まだまだ未熟だ。魔法を習得していないから、杖で殴りかかるしか出来ない」
私は、ヤミの言葉に疑問に感じた。それはヤミが魔法を覚えていないという事。出会った時に、ヤミは無数の光の玉を出して、周りの地形や自然を破壊していた。
「引っ掛かりますか? 魔王の言葉に」
地上に降りたソラは、私を降ろして、ソラの問いかけに返事をしようとした時、例のカンペが現れた。
『貧乳のステータスを気にしているんだね……。貧乳もいい所があるのにっ! 後でヤミに貧乳のすばらしさを教えてあげないとっ!』
と言う、ヤミに杖で何度も殴打されるような、ヤバイ発言が書かれていた。当然読む事無く、私自身が気になった事をソラに聞いた。
「どんな物でも壊せるような威力の光の玉を放てるのに、魔法を使えないって、どういう意味なんだろうって」
「あくまでもあたしの仮説ですが、魔王の気が動転して、自分が制御出来なくなると、まだ解放されていない魔王の力が暴走する。つまり、技だけではなく、精神も未熟な、情けない魔王って事です」
そこまで、ヤミをボロクソに言わなくてもいいのにと思っていると、ヤミは杖の殴打を止めた。
「しかし我は、修行を続け、この残忍悪魔勇者を一撃で倒せるような魔王になる。もしまだ息があるなら、王都に戻って、宣戦布告して来い」
そして鬼の魔族は、ヤミを憎むような目で見た後、暗闇に姿を消した。
「躊躇なく殴打出来るという事は、魔王の配下ではないという事ですね」
「魔王の候補者は、一人でも少ない方が楽だからな」
ソラは剣を収納した後、ヤミは杖に付着した返り血を、帽子から取り出した布切れで拭きだした。
「魔法も使えないとは、今までどうやって生き延びてきたのですか?」
「我は優秀だから、なるべく戦闘を避けてきたのだ」
「魔王は、修行の意味を、ちゃんと調べるべきだと思います」
ヤミはムッとしたのか、ソラに詰め寄った。
「言い方を変えようじゃないか。我が避けたのじゃない、何故か知らないが、一度も魔族やモンスターに遭遇しなかった。つまり、我の力が強大だと分かっているから、相手は襲ってこなかったと思う」
「襲っても経験値が少ない、雑魚だと思われたのでしょうね」
カチンと来たのか、ヤミは頬をひくつかせながら、ヤミが大事にしている魔法の杖を、ソラに手渡した。
「貴様は剣士だから、我と一緒だろ? 剣も扱え、魔法の扱える者など、この世に存在しない――」
ヤミが勝ち誇った顔で言った途端、ソラはヤミの足元に、魔法の杖から出した光の玉を放った。
「あたし、努力が嫌いなんです。だから誰にも文句を言われないよう、すべての知識は身に付けています。だから魔法も普通に使えます。剣技よりは威力は落ちますが、さっき逃がした魔族なら、普通に消し飛ぶでしょう」
そう言って、ソラは魔法の杖をヤミに返した。
「こころも魔王も、疲れているなら、早く寝る事もお勧めします。日の出まで、あと3時間ぐらいでしょうか」
「……ふん」
ヤミは拗ねてしまったようで、私から少し距離を置いて、とんがり帽子を枕にして、再び眠り始めた。
「今の騒動で、目が覚めてしまいましたか?」
「そうだね。もういっその事、起きていようかなって――」
「そんなこころのために、睡眠を促進させる物を用意しました」
ソラはそう言って、さっきのウルトラパワーフードを掘り出す動作をしていた。
「こころは運が良いです。この辺は、たくさんいるみたいで、ウルトラパワーフードの仲間、ウルトラスリープフードを食べれば、すぐに眠る事が――」
「あ、あー。急に眠くなってきたから、お休みにするねー」
水色の芋虫は、流石に食べたくないので、私は硬い地面に横になって、何としてでも寝ることにした。
日の出と同時に歩き始めた私たちは、日が頭の上に昇った、正午ぐらいに通過点の町、セベレンダルに到着した。
「ここに来るのは、二度目です」
ソラは、前に来たことがあるようで、少し目を細めて、町の様子を見渡していた。
「何の変哲もない町にか?」
ヤミの言う通りに、昨日訪れた町、ジェボルンダの町と大差はない。石畳とレンガ造りの家、飲食店や冒険をするための道具を取り扱う店がある程度で、ソラはどうして過去にこの町に来たのだろうか。
「この町、王国の法律に反する、違法の闘技場があります。そこに猛者がいると思って参加したのですが、あまり記憶に残らないぐらい、つまらない勝負でした」
「ほう。我はそれに興味がある。勇者、案内しろ」
「出場するつもりですか? あたし以外にも勇者になる人が続出すると思いますが」
「我は、すぐに人間に負けるほど弱くないぞっ!?」
私は、ヤミが魔法の杖をぶん回していれば、いい所まで行くんじゃないのかと思った時、本日初めての、カンペが現れた。
『胸ではすぐに負けちゃうかも……』
神様は、どこまでヤミの身体的特徴を貶すのか。ヤミに代わって、私がカンペにパンチしておいた。