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主人公と異世界食料

 魔王の娘、ヤミが襲来したことによって、私たちは宿場町である、ジェボルンダに日没時間ギリギリで到着した。


「……あの、私、ものすごくお腹空いた」


 この世界に来て以降、私はまともにご飯を食べていない。カップラーメンとか、ポテトチップスがとても恋しく思う。


「そうですね。それならどこかで食べましょうか」


 ジェボルンダの町は、地図を購入した町とは違い、石畳やレンガで出来た町で、それなりに大きな町だった。この様子なら、ちゃんとした宿、レストランみたいな店もたくさんあるだろう。


「……すごい……ぞ」


 私たちの後ろを歩くヤミは、目を輝かせて、ジェボルンダの街並みを見ていた。田舎育ちの子が、東京にやって来て、驚いているような表情だった。もしかして、魔族が暮らす町って、こんなに大きな町は無いのだろうか。


「こころ。好き嫌いはありますか?」

「特にないよ」

「それは助かります」


 ソラは到着したジェボルンダの街並みをキョロキョロと見渡しながら、今晩食べるお店を探していると思っていた。


「……あの、町出ちゃったよ?」

「はい」


 ソラは、ジェボルンダの町を通過しただけで、さっきまで見ていた平原の光景に戻っていた。


「こころ。あたしは何者ですか?」


 ソラは、急に立ち止まって、私にそう聞いてきた。


「世界を救った勇者だよね」

「我の世界を滅ぼした、魔王、悪魔、死神だろ?」


 ヤミたちにとって、ソラは逆に世界を滅ぼした魔王に見えるのだろう。


「あたしの顔は、世界中のほとんどの人、魔族に知られています。そして懸賞金もかけられています」


 何故なのだろうと、そう聞こうと思った時に、例のカンペが現れた。


『そうなったら、ヤミと一緒にアイドルデビューだねっ! まずはビキニアーマーがジャケットCDのデビュー曲を出そうっ!』


 ソラは美人だから、確かに人気は出そうだけど、懸賞金をかけられている人をアイドルデビューすることは出来ない。と言うか、バカ神様は、よっぽどビキニアーマーが好きなようだ。


「だろうな。勇者ソラを倒したら、一発で次期魔王になれる。しかも、リゾート地に行ける旅行券もついてくるぞ」

「魔族にもリゾートがあるのですね。魔族たちの士気を下げるために、寄り道して、そのリゾート地を破壊しましょう」

「こころっ! やはり、こいつは悪魔であって、我以上に魔王だそっ!」


 ソラは、冗談を言っていると思うけど、ソラなら、魔族を滅ぼすなら、本当にやりそうで怖い。


「それもありますが、あたしは有名になり過ぎたせいで、もし、とある町に勇者が来たと知れ渡ったら、民衆が押し寄せ、あたしにサインや握手を求めてきます。それが鬱陶しいから、なるべく町に滞在したくないのが本音です」

「ソラって、本当に勇者なの?」

「勇者みたいです」


 勇者とは思えない本音が聞こえたけど、私はこれ以上深掘りすることを止めた。


「今日は、ここで足を止めましょう。そしてこころが待ち焦がれていた、食事の時間です」

「待ってました! それで食料とか無いけど、今から狩猟するとか――」


 ソラは、突然地面の中に手を突っ込んだ。


「はい。どうぞ」

「どうぞじゃない」


 ソラが差し出してきたのは、土の中にいた何かしらの虫の幼虫だった。白くて、太くて、体がうねうねと動く、生物の本で見たカブトムシの幼虫みたいな虫だった。


「あ、すみません。土が付いていました」

「そう言う問題じゃない」


 もしかして、この異世界の人たちは、虫を平気に食べるのだろうか。


「こころの世界には、いなかったのですか? ウルトラパワーフードと呼ばれる、一匹食べれば満腹になれる芋虫です」


 この勇者、今はっきりと芋虫って言った。


「おい勇者。そんな物、勇者以外食わん」

「だ、だよね……」


 私が後ずさりしていると、ヤミが私の肩を持った。


「生じゃなくて、焼くだろ」


 私、今すぐにでも元の世界に行って、ポテトチップス食べたい。


「加熱すると、ウルトラパワーフードの本来の効力が無くなります。だから生で食べるのが、ベストなんです」

「貴様は正気か? 誰が虫の踊り食いなんて見たい? 我は見たくない――」


 ヤミがそう言っている時、ソラはヤミの前で、芋虫を口に入れ、普通に噛んで、飲み込んでいた。


「どうですか? この行為が、魔族の弱点なら、国に報告しようと思いますが?」

「そんな光景を日常化させたら、魔族は全員気絶するわっ!!」


 魔王も、ソラの奇行にドン引きのようで、ソラにそっぽ向いた後、トレードマークのとんがり帽子を脱いで、帽子に手を突っ込んで、何かを取り出した。


「こころ。勇者に愛想尽かしたなら、我の食料を少し分けてやろうか?」


 ヤミのとんがり帽子は、四次元的な帽子になっているようで、ヤミは真っ黒な物体を私に差し出した。


「ごめん。私、ヤミの食べ物も見た事ない」

「貴様はどこの出身なのだ? これは、ゴールデンフィッシュだ。上手いぞ?」


 ゴールデンと言う割には、全く輝いていない。真逆で真っ黒になっている。


「魔族は、味覚音痴だと聞いています。だから、真っ黒に焦がして、ほぼ炭になった状態で栄養を摂ると言う、変わった食事をします」

「貴様に、味覚音痴とは言われたくないわっ!!」


 芋虫の踊り食いか、ほぼ炭になった物を食べるか。究極の選択に迫られた時、私の目の前にカンペが出てきた。


『あーんしてくれるなら、私は食べるよっ!』


 あんのクソ神。何て言う命令をするんだ。炭はともかく、芋虫の踊り食いだけは絶対に避けたいと思っていると、続けてカンペが現れた。


『いけるっ!!』


 いけるじゃない……っ! このまま何の策も練らずに、芋虫を食べるのは避けたい。


「ち、ちなみに他に食料は……?」


 ワンチャン、他にあるかと思って、私はソラとヤミに聞いてみた。


「あたしは、休息地で食料を調達します。なので、この辺で食べられる物と言ったら、ウルトラパワーフードしかありません」

「レインボーフィッシュ、レッドフィッシュ、グリーンフィッシュならあるぞ」


 私には、芋虫か炭を食べるしかないようだ。何としても避けたい私は、頭をフル回転させて、一つの解決策を思いついた。


「そ、そう言えば、ドラゴンってそこら中に飛んでいるんだよね……? ソラがちゃちゃっとドラゴンを狩って、お肉を食べるのは……?」

「……こころは、正気ですか? ……あんな大きなドラゴンの肉を食べるなんて、気色悪いです」


 まさか、食肉でドン引きされるなんて思わなかった。私の世界の、牛丼とかハンバーグ、焼肉の光景を見たら、ソラは気絶するんじゃないだろうか。


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