主人公と魔王様
私の冒険を邪魔されたと思った、勇者のソラは、ソラを倒すために冒険していた魔王の娘、ヤミと対峙していた。
「あの魔王の娘ですか。あんな魔王に、こんな可愛らしい娘がいたなんて」
「か、可愛い……」
ソラの発言に、ヤミは急にとんがり帽子を深くかぶって、もじもじし始めていた。
「わ、我を褒めても、何も出ないからな~っ!」
そう言ってヤミは、嬉しそうに杖からたくさんの光の玉を出して、私たちに向けて攻撃していたが、ソラは私を抱えて、すべての攻撃を避けた。
「自分の力を使いこなせないとは、まだまだ未熟ですね」
攻撃が終わると、ソラは私を降ろしてくれた。凛々しい顔で、攻撃を避ける姿に、私もついキュンっとしてしまった。
「ね、ねえ――」
ソラはおぞましい魔王の姿を知っている。どのような見た目なのかと思って、ソラに尋ねようとしたら、また神様からのお告げが出てきた。
『激闘になる? それならちょっとティッシュを用意するから待って欲しいな?』
ちょっと黙ってろと思いながら、私は無視して、頬をひくつかせながら、ソラに尋ねた。
「ち、ちなみに魔王って、どんな姿なの?」
「強大な魔力を持っていて、魔族を統治していた人間です」
魔族を統治した人間が、人間を滅ぼそうとしていたって事らしい。
「まあ、実際は人間ですから、特に激しい戦闘は無く、剣先を向けただけで逃げ出した、臆病者でした。あと、王様気取りだったので、毎日が豪華な食事だったのでしょう。全身にものすごく脂肪を蓄えていたので、剣で斬れるかが心配になって、少し怯んだぐらいです」
魔王はイケメンな俳優さん、特撮の怪人のような、カッコよくても、恐ろしい姿を想像していた。だから実際の話を聞いて、休日に寝転んでいる父親のような姿を想像しまったら、ソラたちのパンチラを心配するべきだったと、後悔した。
「あたしに復讐ですか。この力量なら、その辺にいるモンスターより早く倒せそうですね」
「復讐なんて、低俗な事はしないぞ」
「ほう。それでは、何の用ですか?」
親の仇である勇者を探すなんて、復讐ぐらいしか思いつかない。けどヤミは、ソラを探していた目的を復習ではないと言った。
『勇者の下着の色が気になるんだねっ!?』
性懲りもなく、セクハラカンペが出てきたが、私は言うはずもなく、二人のやり取りを見守った。
「一つ、魔王が失踪したから、散り散りになった魔族たちが再結成し、新たな魔王を決めようと動いている。それで我も参加しようとしたら、即行で拒否られたから、冒険し、強くなるために修行しようと思った訳なのだ」
「聞き逃せない言葉が聞こえましたので、斬っていいですか?」
ソラが斬る素振りを見せると、ヤミは降伏するように、杖を落として、ソラをなだめようとしていた。
「まだ我には、冒険する理由があるのだっ! 二つ目は、失踪した父上を探すため。だから、最後に目撃して、対話した勇者ソラに話を聞きたかっただけだ」
「魔王ですか。『ひぇえええええ~っ!! まだ漏れは、死にたくないのでござる、ござるよ~っ!!』って言うのが、最後の会話です」
「ありのままではなく、少し話を盛ってくれても良いのだぞっ!? そんな情けない父上の姿を想像したくなかったっ!!」
魔王の最後の姿に、座り込んでヤミは落胆していた。
「戦意喪失ですね。話を聞けたのですから、この場から失せるか、この世から失せるか、どちらを選びますか?」
「……くっ、殺せ。……勇者に殺されるなら、我は本望だ」
普通、相場では、勇者と魔王の立場が逆だと言うのは、黙っておこう。
「こころ。この魔王の娘を、あなたならどうしますか?」
ソラが、私にヤミをこれからどうするかを、聞いて来た途端、またあのカンペが出てきた。
『生かしておこうよ』
神様のお告げは、まともな回答だった。
「生かしておこうよ」
「理由は?」
そして再び、カンペが現れた。魔王の生死が関わるので、今回は、元の世界の時みたいな、真面目なお告げになっているので、私は安心して読み上げた。
「だって、可愛いんだよ。ロリ魔王なんて、滅多に存在しないし、希少価値も高い、そしてソラと違って、ヤミは貧乳。一部の人からは人気が出て――って、何言わせるんじゃいっ!!」
完全に油断していた。あのまま読み続けていたら、私はソラとヤミに生ごみでも見るような目で見られて、ソラに斬られてバッドエンドと言う展開になっていただろう。その後の、魔女っ娘キャラでアイドルデビューさせようなんて言ったら、確実にヤミに消されるだろう。
「……何を言っているのかは分かりませんが、むやみに命を奪うなと言っているのですね」
「そういう事にしておいてくださいな……」
若干、呆れているようだけど、ソラはそう解釈してくれて、剣をしまっていた。
「魔王の娘。人間に情けをかけられるなんて、恥じる事だと思います。このまま生きたいなら、強くなりたいなら、この人間の手助けをしなさい」
「……この人間にか? ……護衛でもしろって言いたいのか?」
「話が早いです。同じく、王都に用があるなら、それぐらいしてもいいのでは?」
ソラの監視で、魔王の娘のヤミを見逃そうと言っている。そしてヤミは、ふくれっ面になりながらも、私の前に立った。
「貴様、礼儀も知らんのか? 何か魔王の娘、ヤミに言う事は無いのか?」
そうヤミに言われると、再びカンペが出てきた。
『とっても可愛いね。ところで、今日はブラは身に付けているの?』
そんな事言ったら、再びソラとヤミに戦闘が始まってしまうので、一部分だけ利用して、ヤミの質問に答えた。
「私は、こころ。とっても可愛い魔王様に守ってもらえるなんて、私は幸せ者だよ」
「わ、我を褒めても、何も出ないからな~っ!!」
ヤミは、褒められると暴走してしまうようで、たくさんの光の玉をたくさん出して、あちこちの岩や木を破壊していたので、ソラが鞘でヤミの腹を突いて気絶させ、事態を収拾させていた。