主人公と始まりの町
魔王を倒した勇者、剣士のソラについて行くと、歩いて15分ぐらいで小さな町に着いた。町と言っても農村みたいな町で、煌びやかな街並みではなく、必要最低限暮らしていけるぐらいの、小さな家が点々としているだけであった。
「こころ。まず、この町で地図を買おうと思います」
ソラがそう言った途端、私の目の前に、あのカンペが出てきた。
『そんな事より、お風呂入らない? 汗かいちゃったし、これから旅をするから、意気込みを入れるためにも、ソラも一緒に入ろうよ』
確かに、汗はかいている。けどこのまま読んだら、私はソラの脱ぎたての下着を吟味する事になりそうだ。
「意外だね。勇者だったなら、この世界の地図ぐらい、頭に入っていると思った」
「あたし、方向音痴ですから」
方向音痴でも、勇者になれるんだなと思ってしまった。
「まず、こころが目指す場所は、王都のソルガンディア。王族が管理する書物に、神たちを記した物があると思います。そこで情報収集して、クソ神を見つけ出すのが、今回の目的です」
出会って数分しか経っていないのに、ソラはこんなにも私の為に協力してくれる。
『この世界に、ビキニアーマーで戦う人を探す目的も追加してもいい?』
それは、少し気になるけど、今話す事じゃない。思わず、口に出しそうになってしまった。
「ソ、ソラ。こ、こんな私の為に、協力してくれてありがとう」
「気にしないでください。また旅が出来ると思うと、あたしも少し気分が高揚していますので」
そしてソラは、町にあった小さなお店に入った。外観は、元の世界の駄菓子屋さんみたいな、地図だけじゃなくて、武器や食材なども売っていた。
「すみません。ソルガンディアまでの地図をくれませんか?」
「はい。最後の一枚」
ソラが、店主のお婆さんから最後の地図を受け取った後、また私の目の前に、カンペが出てきた。
『私は、歯磨きセットをください』
確かに、それはいるかもしれないけど、この世界に歯磨きセットなんて売っているのだろうか。
「店主よっ!! 我にソルガンディアの地図を寄こしてもらおうかっ!!」
ソラが地図を購入した途端、お店に大きなとんがり帽子をかぶって、大きな杖を持った、魔女のコスプレをしているような、小さな女の子が入って来た途端、またカンペが出てきた。
『初めてのお使いかな? 偉いって言いたいけど、残念な事に、たった今地図が売り切れちゃったんだ……』
こんな事言えるか。魔女の子じゃなくて、ソラと店主のお婆さんに殴られる。
「……えっと、貴方もその町に行きたいの? け、けど地図は私たちが買っちゃって……あ、良かったら、一緒に行かない? 私たちもその町に行くんだよ」
「断る」
にっこりした顔で、女の子に拒否られたので、私は結構ショックだった。
「魔ぞ――魔女は他人と行動しないからな。共に行動するぐらいなら、この店の為に、食料を程よく買い物して、地図が出来るまで待たせてもらう」
やっぱり、この子は初めてのお使いで来たんじゃないのだろうか。お店の為に、買い占めるんじゃなくて、必要な分だけ買い物して、迷惑をかけないように、地図が出来るまで、この町で留まると言っている。とっても良い子だ。
「そういう事なら、あたしたちはソルガンディアに向かいましょうか。夜になる前に、次の町に到着したいです」
「ふぇ?」
ソラがそう言った瞬間、女の子は驚いた顔をしていた。やっぱり、一緒に行動したくて、私たちに引き留めて欲しかったんじゃないんだろうか。
ソラは、女の子に気に留める事も無く、すぐにこの町を出て、次の町に向けて歩き出していた。
「地図を見る限り、ソルガンディアまでは、歩いて4日ほどです。4日間も歩けないと思いますので、何度か道中の町で、休みを入れたいと思います」
勇者なら、食料も取らず、寝ずに歩くことは出来るのだろう。けど、学生の私には、そんなに歩くのは無理に等しい。
『お風呂は?』
再びのセクハラカンペ。けど、今回はお告げを聞き入れた。
「お、お風呂は?」
「……お風呂とは?」
まさかのソラは、お風呂と言う行為を知らなかった。勇者になっても、聞きなれない言葉を聞いたら、立ち止まって考え込んでしまうようだ。
「か、体を洗う事かな? お湯で体をきれいにして、お湯がたくさん入っている湯船に浸かって、疲れを取る事かな?」
「……なるほどです。……ですが、この世界ではそう言った事はしません。体の汚れを取るなら、布切れで拭き取るとか、儀式の前なら、指定された川辺や湖畔で身を清めるぐらいですね」
お告げをくれる神様は、どう言った反応をしているだろうか。今頃、床でも殴りつけて悔しがっているだろう。
「何だ? 人間の体は、魔族と違って、不潔なんだな」
そう言って現れたのは、さっきのお店で別れた、魔女みたいな女の子だった。どうやら、やっぱり一緒に行きたくて、こっそりと後を付けてきたようだ。
「やはり、貴方は魔族でしたか」
「青髪の女は気付いていたか。ああ、我は魔族であり、そして勇者ソラに滅ぼされた、魔王の一人娘、魔王ヤミなのだっ!!」
ヤミは、目の前にいる子が勇者だと知ったら、どんな反応を――
「勇者ソラは、あたしですが、何か御用ですか?」
そして、ソラは、自ら正体を明かしてしまうスタイルだった。
「……勇者を探すための冒険を始めて一週間。……もう我の冒険が終わってしまったじゃないかっ!!」
そして怒り出した魔王ヤミは、バトル漫画でありそうな、周りにオーラみたいな物を出して、戦闘態勢に入っていた。
『あ、あんまり怒っちゃダメだよっ! あ、あの、そ、その……ヤミの……うふふ……可愛らしいパンツが……見えちゃう……うふふっ!』
と言う、気色悪いカンペが出てきたので、私はついカンペにパンチしてしまったが、実体はなく、立体映像みたいな物なので、周りから見ると、何もない場所に、急に目の前をパンチしただけの光景になっている。
「十分な装備が無いまま、魔族と戦うなんて自殺に等しいです。こころは、こう思ったのでしょう。早く帰りたいのに、この魔族に邪魔されて腹を立てた」
「そ、そうだね。神様を今すぐにでもぶっ飛ばしたいからね……っ!」
合っているようで、違っているが、そういう事にしておこう。ソラはそう感じ取ったようで、私の前に立ち、剣を抜いて、ヤミと対峙していた。