異世界にやって来た、ゲームの主人公
高校の入学式に、隣りの席になった冴えない男の子、神宮司君と、いつの間にか仲良くなって、クラスの皆にバレないようにと、ひっそりとお出かけしたり、海や夏祭り、初詣にバレンタインなどのイベントを達成して、そして私から好きだと、卒業式が終わった後に告白しようと、集合場所の教室に向かった。
神宮司君に早く好きと言いたい。そう思って、クラスの教室に駆け込んだら、見覚えもない、何もない原っぱの上にいた。
「……何でドラゴンが?」
空を仰ぐと、大きなドラゴンと思えるような生き物が飛んでいる。
「あ、スライム。可愛い~」
私の足元にはゼリー状の物体、スライムが集まりつつある。
と言うか、何でスライムがいるのだろう。なぜ平然とドラゴンが、私の頭上を旋回しているのだろう。なぜ私は、異世界あるあるが詰め込まれている世界にいるのだろう。
「スライムたちも、家が無いの? なら、私と一緒に冒険しよっか?」
この現実が受け入れられず、私は集まって来たスライムの体を撫でまわしていると、遠くから、すごい勢いで私の目の前に、スライムたちを睨む女性が立った。
「大丈夫ですか?」
澄んだ空のような、きれいな髪色をしている女性が、スライムたちを睨みつけると、私の周りに集まっていたスライムは退散していった。
「やはり無防備……。と言うか、変わった服装ですね……」
私の制服姿が珍しいのか、剣の女性は、ぎょっとした顔で見ていた。
「例え弱いスライムでも、たくさん集まれば、人を殺す能力が――」
「何で可愛いスライムちゃんたちを、追い払っちゃうんですかっ!? せっかくスライムたちと一緒に、冒険しようと思ったんですよっ!?」
「話を聞いていませんでしたかっ!?」
勿論、話は聞こえていた。たくさん集まって、私を殺す力があるという事。現実逃避したくて、スライムたちで心を癒そうと思っていた所で、きれいな女性剣士さんが追い払ってしまったので、かなりショックだった。
「……もしかして、迷子ですか? ……見かけない服装ですから、この辺りの人ではありませんね。……遠くても、あたしが家まで送りますから、さっさと家に帰る事をお勧めします」
「あの。ここって、ドラゴンが普通に飛んでいるのは、日常だったりしますか?」
「世界中のありふれた光景ですね」
「スライムとかも?」
「このような平原ならどこでもいます」
剣士の話を聞いて、私は確信し、大きく息を吸った後、こう叫んだ。
「神様を、ぶん殴りたーいっ!!!!」
神様の気まぐれで、私をこんな異世界に転移させた神様を、私は心の底から恨んだ。
「神宮司君に、告白するのがそんなに気に入らなかったのっ!? 神様は、リア充になろうとする学生に嫉妬するぐらい、最低な存在なのっ!? ねえ、貴方もそう思わないっ!?」
「とりあえず、貴方がうるさいので、今すぐにでも黙らせても良いですか?」
剣士の子は、剣の鞘で叩こうとしていたので、とりあえず私は落ち着くために、深呼吸した後、正座をして状況を説明した。
「……まあ、気の毒としか言えません。早く戻る事をお勧めします」
「どうやって戻れば……? 海外とかじゃなくて、次元が違う異世界なんだよ……」
「あたしは、今では職を失った剣士。かつては勇者と称えられていました」
私とそんなに年齢が変わらないであろう、とってもきれいな剣士は、まさかの元勇者で、急に自分語りをしてきた。
「数年前までは、こんな静かな平原はありませんでした。あたしが魔王を倒し、強い魔物がいなくなり、今では世界は平和です。だから腕のある冒険者、武道家と勝負しましたが、その人たちもすべて倒してしまい、世界からあたしの脅威がなくなった世界で、毎日が退屈。生きるのが苦痛で、どこかで野垂れ死にするつもりでした」
強すぎるが故に、剣士は私とは違って、毎日が退屈。ラスボスを倒した勇者は、その後は裕福な暮らしをして、何不自由のない、楽しい生活をしていると、思い込んでいた。
「暇を持て余した剣士の娯楽です。先ほど言ってしまいましたし、貴方を元の世界に送り届けるため、協力しましょう」
魔王を倒した最強の剣士が、私の仲間になった。
「わ、私は、こころって言うの。最強剣士さんは?」
「ソラと呼んでください」
そして私は、勇者と一緒に異世界に冒険する事になった。
話は変わるが、私は高校に入学して、神宮司君と出会ってから、ずっと変わった経験をしている。
それは、ふと私の目の前に、台詞が書かれたカンペみたいなものが見える事だ。これまで、神宮人と会話している時も、台詞が目の前に現れ、私は不審に思いながらも、その台詞を読んだら、神宮司君と言い感じになった。私は、この台詞は恋愛の神様のお告げだと思って、信頼して、この非現実的な事を受け入れていた。
しかし、そんな信頼は、一気に崩壊した。さっきスライムに取り囲まれていた時だって、いつも通りに、台詞が出ていたが。
『いやーっ!! スライムに服を溶かされるーっ!! 今日は、気合を入れた下着なのにーっ!!』
こんな台詞、誰が大声で叫ぶか。そう思って、私は神様のお告げを無視して、スライムのぶよぶよした感触が気持ち悪いと思いながら撫でていたら、ソラと変な目に見られてしまったが、結果オーライになった。
そして、さっきかわした会話の時だ。ソラが仲間になった時も、こんな台詞が出た。
『ねえ。どうしてスカートを穿いているの? 戦う時に見えちゃうよ? あ、けど私は女だから、見えちゃっても大丈夫だよね。ねえ、今日は何色のパンツなの?』
と言った感じの、セクハラ発言だったので、私は目の前の台詞を殴りたいと思ったが、ここは堪えて、すぐに勇者の名前を尋ねたから、何とか異世界で生き延びることが出来た。
今まで信頼していた神様は、異世界に来てからは、一気に悪魔になった。きっとこれからも神様からのお告げが来ると思うが、私はすべて無視して行動することにした。そうしないと、私は勇者に斬り殺されるだろう。