プロローグ2
殺気をダラダラと漏らしながら目の前の化け物は語る。
狐・・・かぁ。
一体なぁ。
それに何、この状況?
狼と狐を間違えたのが一番なんだろうけど、そんなに重要なのか?
そもそも口に出して言った覚えが無いのだが。
・・・一様、謝罪をしてみるか。
尋常で無い殺気のせいでガクガクと震える身体を奮い立たせながら俺は身体をググッと45度曲げ、
「・・・ああ、どうもすみません。」
と、自分でも驚く位の消え入りそうな声で言ってみる。
謝罪がこんなに疲弊する物だとは思っても見なかった。
見なかった・・・・・思っても?
どう言う事だ?
俺は一体?
冷静に考えてみたが。
俺には森を走っていたあの時以前の記憶が・・・・無い。
あの刹那の記憶でさえ、一時の夢なのかも知れない。
というか俺は誰なんだ?
「クフフ、謝り方は立派なのだな。
・・・・まあ良いさ、解ればいいのだ。
して・・
「お、、俺、俺は一体、、足掻く?
足掻く者って一体?
というか、ここは一体何処なんですか?
俺は何者なんですか?」
俺は狐の言葉を遮り、質問をする。
「・・・記憶の・・・混濁かのぉ・・・嫌、喪失と言っても良いのか。
ああ、面倒臭い、雑が過ぎるのも考え物じゃぞ。
此奴も大事な駒の一つじゃろうに。
妾の身にもなって欲しいものじゃ。」
狐の愚痴を聞きながら返答を待つが、何やら考え事をしている様で時間がかかりそうだ。
暗がりの中直立不動で待っていると、その場にフワリと座り考え事をしていた狐が俺を見据え、口を重く開き語り始める。
「先程も申したが、ここはエルラハン、お主がいた世界とは別の世界じゃ、妾は神託により、今日この時間、貴様がここに来る事を知らされたのでな。
迎えに来た次第じゃ。
しかし、難儀な事よ、此処に来るまでの記憶を全てむしりとられた上に、力まで剥がされ、、嫌、力はそうでもないか。
しかしのぅ。
記憶も力も削いでこんな場所に放り出すとは。
何か手違いでもあったのか、ラグール様の仕事とは思えぬが。
・・・ともあれ、貴様は今日より妾の預かりとなる。
のじゃが。
貴様はどうしたい?」
「俺に、、選択肢はあるんでしょうか?」
「選択肢?
クフフ、貴様がこのまま生きたいのであれば、妾についてくるしか無いじゃろうな」
「です・・・よね。
さっきの獣に襲われて死ぬだけ、多分今の俺に戦うなんて力はありません。」
「死ぬか生きるかなら生きるを選ぶのだな」
「はい。
いいじゃないですか、貴女が言った通り、俺が足掻く者と言うならその通り、足掻いて見せます。」
「クフフ、良いじゃろう、その心意気かってやろう」
狐はむくりと立ち上がるとジャリジャリと地面を踏み締め近づいて来る。
俺との距離が近づくにつれ狐の大きさが尋常で無いことを改めて知る事になった。
僅かに光る月光に照らされ白銀と呼ぶべき美しい毛並みが光り輝き、痩身と思われた肉体はしなやかな筋肉がギュッと詰まった弾力のありそうな、戦闘に特化された肉体であった。
「我が名はアルテイヤ、女神ラグール様の眷属であり、魔狐が長じゃ。
宜しくのう」
アルテイヤはニヤリと口が裂けたかのように笑みを浮かべる。
先程迄、恐怖を感じていたその凶暴そうな牙が逆に頼もしいそれに見えていた。
「宜しく・・・お願いします。
名前は、、まだありません。」