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ここはユルドルクという剣や魔法、魔物が存在する異世界である。そんな世界の国の一つであるここシラヤス王国の一室で3人の男達がそれぞれの革張りで高級そうな1人座りのソファで談笑していた。
「最近西の方が不作気味らしくてな、魔族領から輸入を増やさないといけないんだよなー」
「今年は魔族領は豊作なので問題ないかと」
「不作の原因がマナの枯渇だっから龍脈も調べたけど、森の中でマナ溜まりができてるぽかったぞ」
始めに話し始めた人物はこの国の王で、白髪交じりの髪のわりに服の上からでもわかるほど引き締まった体をしている。2人目は眼鏡をかけ細身の秘書ですという風貌の男、そして3人目は現代日本から300年前に召喚された青年である。
「げっ、討伐隊編成しないといけねーな、苦労するぜ」
「それ、私の役目なので苦労のは私なのですが、具体的な場所の地図をお願いします」
「討伐隊に俺は入れるなよ、これ地図な」
「なんだ、今度は何処の国に呼ばれてるんだ?」
「ドラゴン、ドワーフ、エルフの国からお呼ばれされてるが、ぶっちしていいか?」
「いいんじゃね?」
「ここに各国からの書状と王に向けた手紙があります、中身は王の恥ずかしい過去を――――――」
「よーし、必ず行け、絶対行け、ゾンビやレイスになってでも行け」
「やべー、このまま雲隠れしたくなってきた!」
「いいですね!ついでにこの手紙を城内ばら撒きましょう!」
「おめーら絶対やめろよ!洒落にならんからな!!」
「分かってますよ、そのようなことする訳ございません、ただ手紙の中身については鮮明に記憶しております」
「あっ、悪いけど後で俺にも見せてね、一応は嘘が無いか確認したいから」
「おい、ただ見たいだけだろ!」
「何いってんだよ、俺はお前が子供の時から知ってるんだぞ、俺よりも他国の人間が恥ずかしいことを知ってる訳無いだろ」
「それならば、後ほど私にご教授ください」
「いいぞー」
「これで、仕事がやりやすくなります!」
秘書はとてもいい笑顔をしながら全身で喜びをあらわにしている。
「おい、本音が漏れてるぞ!」
「まぁ、気にするな」
「教える張本人が言うな!」
「確かにな」
そう言いつつ青年は楽しそうに笑い出す。
それから1時間くらい他愛もない雑談をしたあと、国王は不意に真剣な表情になる。
「さて、ここからは真面目な話をするか」
「そうですね」
「あっ、俺は用事があるからまたなぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
青年は嫌な予感を感じ、この部屋から立ち去る選択肢を取るため立ち上がろうとしたが、頭の上を銀色に輝く刃物が通り過ぎたことにより体を起こせず、ソファに座り直す。
「ふぅ、危ないところでしたね」
「そうだな」
「その台詞は全部俺が言うやつだよな!投げた奴と指示した奴がいう台詞じゃないよな!」
「邪神が討伐されて250年くらいが経った」
「邪神の相手をしたのは俺だけどな」
青年は不貞腐れたようにソファに深く座り、窓の外に広がる青空を見つめている。
「他の種族にとって250年は短いが、俺ら人間にとっては何代にもわたる無茶苦茶長い時間だ」
「・・・・・・」
不貞腐れていた青年は何かを思い出すかのように悲しい顔をして、その感情を飲み込むように目を閉じる。少し力の入っていた唇が緩むと、目を開けて国王たちの方に顔を向ける。
「実体験は経験となり、経験は記憶に残り、記憶は後世に書物や物語として語り継がれていくが、人っていうのは歴史として知っていてもそこから恐怖や危機感が生まれることはない」
「他の国に比べて人間の国は邪神に対する無いな」
「邪神はいつか復活する、そうだろ?」
「そうだな、そんなことを言い残してたな」
「このまま平和な世が続いてほしいが、いずれくる脅威にも備えなければならない」
「そうだな」
「だから今回新しく勇者を召喚しようと思う」
「・・・は?」
真剣な表情が2つと愕然とした表情が1つ、部屋の中で時が止まったように過ぎていく。