スタート1-1
桜の花がちょうど半分ほど散り落ちたあたりに、僕の人生が動き始めた。
4月10日
「ちょっと、初日から遅刻するわよ。」
いつも通りの母の声。
「入学式ぐらい自分でおきてよ。」
「わかったって。」
外に鳥の鳴き声が聞こえる。
「なんだっけ。あの鳥の名前…。」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く食べなさい。」
「うん…。」
「ピンポーン。」
家のチャイムが鳴る。
「ハーイ」
母の甲高い声が家中に響きわたる。
「すいません。忙しくて挨拶に行けなかったんですけど、先週お隣に引っ越してきました
角田ともうします。でこちらが娘の世奈といいます。」
同い年だろうか。僕の前に現れた彼女は僕がこれまで出会って来た誰よりも美しかった。
「本当に失礼なんですけど、もしよければ娘と一緒に入学式行っていただけませんか?
引っ越しから忙しくてここらへんのことが分からなくて、中学校の場所とかも…。」
「お願いします。」
一瞬頭が真っ白になって最初に出た言葉が「え?」だったことは十五年たった今でも
よく覚えている。
「だよな?せな」
「さあ忘れた」
これは僕が幸せになるまでのストーリーだ…