表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄物語2〜嘘つきナイトと姫君〜  作者: 射和まゆか
9/16

第八章 カムの実

少し歩くと、変わった木々に囲まれた広場のような場所に着いた。


「ニトラさん!?」


そこにニトラがいた。激しく負傷して、手当をされている。意識はないようだ。


「タウロタと戦っていたんだよ。」


「手当、キリルがしてくれたのか?」


「うん。僕たちがしたよ。」


そこにいたもう1人の者が答えた。色の白い、ふわふわした感じの少年。


「怪我がひどいので、動かさないでおくれよ。薬が効いて、よく眠っている。ああ、君も、この薬を飲んどいたほうがいいよ。」


差し出された液体の薬。得体は知れない。しかも、あからさまに苦そうな匂いがする。


「この木、カムリファスの木の実で作った、煎じ薬だよ。」


「カムリファスの実………、うん………?あっ、カムの実!」


ルルに聞いていた白っぽい幹と赤系の葉、ここにある木々はまさにそのものだった。


「そう、カムの実。知ってるでしょ、万病に効くと言われてる。……………そして僕は、カムリファスの木の番人、名もカムリファスだよ。」


聞けばあの魔物タウロタは、身のうちに病のウイルスを持っているらしい。故に、タウロタと触れ合ったりした者は、病にかかってしまう。戦ってた者も同じ。キリルは飲んだし、ニトラにももう飲ませたと言う。

 

タクも従った。良薬は口に苦い、そんな味だった。


「それでは、町の流行り病にも、この薬が効くんですね。」


「そうだね、でも、簡単じゃないよ。体の大きさや年齢、病の進行具合、いろんなことを見極めて適量を飲ませないと。多すぎると毒になりかねない。」


本当は、カムリファス自身ですべての子どもに飲ませてやるべきだったが、彼には休眠期間があって、上手くいかなかった。だから、今できることを精一杯やりたいと、力を込めて語った。


「そしてもちろん、キリルをこのままにしておくのは、良くない。お父さんの所に、帰さないとね。」


でもそんなことになったら、またタウロタは寂しくて、別の子を誘い込んでしまうだろう。病は、拡がり続ける。薬の元となるカムリファスの実は、今が実りのシーズンだけど、無限にはないし、カムリファスもまた、休眠期間になってしまう。


「僕は、もうしばらくここにいるよ。タウロタを抑えてやらなくっちゃ。」


「そんな。しばらくってどれだけだい?君のお父さんは、その間ずっと悲しんで生きることになる。」


タクは、考えていた。タウロタのことを、成敗すればいいとは思えなかった。あいつはとてつもなく強い、しかし寂しい生き物だ。何とか、共存する道はないのか?


「君は、カムリファス、タウロタと仲が悪いのか?君がいるのに、触れ合おうとしないのか?」


カムリファスは、苦笑いをして答えた。


「うん………、タウロタは、僕のことが嫌いなんだ。樹木にも実にも、近寄ろうとしない。本当にこの木の実が必要なのは、タウロタだっていうのにね。」


「それは、どういうこと?」


タクの問いに、カムリファスが答える。カムリファスの実は、タウロタが身に持つウイルスが引き起こす病を鎮めるが、そもそもこのウイルスに効果があり、摂取することで、もうウイルスを出さない体になれると言う。


「そうすれば、あの風貌も変わるよ。恐ろしくなくなれば、人ともいろんな動物とも触れ合える。誰かを犠牲にしなくても良くなるんだ。」


しかし匂いが嫌なのか、タウロタは決して薬を口にしようとしない。カムリファスは今まで、いろいろ試してみたが、失敗してばっかり。挙げ句に、すっかり嫌われてしまったのだ。


「ふーむ、薬というのが嫌なのかも………。カムリファス、料理にするというのはどうだろう?」


子どもの頃、嫌いな野菜を食べないタクに、母がしてくれたのは、肉や魚に混ぜて料理すること。魔物だって同じかも知れない。


カムリファスとキリルは、なるほどと賛成してくれた。


では、誰が料理する?


タクには自信がない。キリルも、手伝いなら出来るけどと言う。


あの人がいれば。


タクの頭に浮かぶのは、頼れる姉さんルルの顔………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ