第四章 シリル・ガリルド
一面の、穀物畑が広がっていた。穀倉地帯とは聞いていたが、これ程とは………。黄金色のグラデーションが、何とも美しい。
この地に奇妙な事件が起きているなんて、嘘みたいだ。それほど雄大な風景。
しかし、シリル・ガリルドの人々は沈んでいた。調査団一行は、まず町長の元を訪れた。
「本当に、よくおいでくださいました。」
穏やかで、知的な初老の町長は、まずは調査団一行を労ってくれた。そして現状の報告がなされたが、それは、既に把握されていた事と大差なかった。それだけ、事態は硬直している。
行方不明や、流行り病が子どもと若者に集中しているのも、人々を沈ませていた。労働力であり、希望でもあるものたちだ。
その後、一行は町の中心にある小さな宿屋に入った。食事を済ませ、食堂でそのまま作戦会議をさせてもらう。食後に出されたお茶は、トルという栄養価の高い穀物でできたほんのり甘い温かいもので、皆が気に入った。
「まずは、2チームに分けて調査だ。ヤーナ、ナギト、ルルの3名は町と人々を担当してくれ。病が伝染性なので、細心の注意が必要だが………。」
「私がチェックします。チームの中に、病は蔓延させません。」
トムルの心配は、ルルの魔力で何とかなりそうだ。さすがはコダの愛弟子、紅一点だが信頼を勝ち得ている。
「そして私とボルダ、ニトラ、タクの4名は森に入る。緊急時に備え、各自水や食料や薬など、準備を怠らないようにしてくれ。」
実際はこちらの方が、何が起きるかわからない。しかし、恐れて向かわぬものはそもそもチームに加わっていない。準備して進むだけだ。
「ねえタク、話があるの。もうちょっとだけ、いい?」
会議が解散して、各々部屋に戻ろうとしてたら、ルルが言ってきた。ああ、と返事する。
「何?」
「うん、実は、コダ様から頼まれてることがあって。タク、『カムの実』って知ってる?」
「………何か、聞いたことあるな。」
「うん、リードニス人なら、一度は聞いたことあると思う。幻の、万病に効く薬。おとぎ話に出て来るよね。あれが、ここガリルド山周辺で採れるらしいの。」
それは初耳だった。てっきり、物語の中のアイテムだと思っていた。
「それが、幻も幻、どこで採れるかも曖昧、採れる時期も不明………。ゆえに、おとぎ話と思われてる。でも、コダ様は古い文献をコツコツと調べて、間違いないと言われてるの。」
可能性の高いのは、町よりも森。タクの務めを考えると無理は言えないが、気にかけてほしいとルルは言った。白っぽい幹と赤系の葉、わかってるのはそれだけだが。
本当にあるなら、病に苦しむ人たちのためになる。タクは、探してみようと思った。
「コダ様は、それを、タクん家の奥様のために使いたいそうなの。」
タクの主人、セナの妻であるマリカは、4人目の子グロサムを産んでから体調が思わしくない。初めての出産後、夫を亡くして頼るものもなく、無理を重ねたのが原因と考えられる。産後の肥立ち、なんて言っている場合ではなかったのだ。
マリカの回復は、タクにとっても悲願であるが、コダはかけがえのない友人として、なんとかしたいと思っていた。
「頑張るよ、目はいいほうだし。でも、俺の使命は、この地の人々の救済だからな。」
「当然、私もよ。」