番外②
「タクどうした、ため息などついて。」
クリント王子のことばに、タクはハッとし、内心しまったと思った。
『臣下、従者、使用人は常に誠心誠意、主に仕えるものだ。己の悩みや弱さ故、主に心配をかけるなどもってのほか。』
この心意気を、父から叩き込まれているタクなのだ。
よりによって次代の王に心配かけるなど、あってはならないことだ。
しかし王子は朗らかに笑い、そう堅くなるなとおっしゃる。悩みがあるなら、相談してくれと。
「はあ、あの、実はですね…………。」
悩みがあるのは確かだ。
相談しろと言われ頑なになるのも、従者としていかがなものか。
タクは思い切って、口を開いた。
「…………タク、お前いくつだ。」
「はあ、22になります。」
「その年で、そんなことで悩むのか?」
タクの悩みは、間近に迫ったリリヤの14才の誕生日に、何を贈れば良いかということ。
彼女が生まれた時から側にいて、何かと関わってきたタクであるから、当然、誕生日を何も祝わずに過ごしたことなどない。
小さい頃は良かった。
おもちゃ、絵本、人形、お菓子に花、タクからの贈り物なら何でも、目を輝かせてリリヤは喜んでくれた。
しかし変化があったのは、12才の時。
クリント王子のお供で出かけた先で見つけた、可愛らしいぬいぐるみを贈ったが、リリヤの反応が悪かった。
『私のこと、いつまでも子どもと思ってるの?』
子どもっぽいのが嫌なのかと、翌年は本を贈ったが、やはり喜ばれない。
『タクって、女の気持ちがわかってない。』
「それだよ。」
「はっ?どれですか?」
「いやお前が、女心をわかってないのが問題だよ!」
「…………はあ。」
「要するにリリヤ孃は、お前に大人の女と認めてほしいんだろ?それなら、答えはひとつだ。」
「王子にはおわかりなんですか!?」
すると王子は、にやりと笑った。
「宝石だ。彼女はお前に、宝飾品を贈ってほしいんだよ。」
「いや、それは!?」
いくら奥手のタクでも知っている。宝石を女性に贈るというのは、プロポーズを意味すると。
主家の令嬢に求婚など、自分に許されるのだろうか。
「王子、お言葉を返すようですが、私はシンシアティ家の使用人に過ぎず…………。」
「待てお前、俺の従者をしていて、そんな身分差とか考えてるのか?いやそれは、俺に失礼だぞ。」
「は、それは申し訳ございません。」
「とにかく、お前のやることはひとつだ。王家贔屓の宝飾品店を紹介してやる。すぐに行って、注文して来い。」
「はい、わかりました!」
決死の表情で店に現れたタクに、老齢の店主は丁寧に対応した。そして彼の瞳をじっと見つめ、グリーントルマリンを勧めてくれた。
ペンダントにしてもらうことにした。リリヤの誕生日を伝えると、間に合わせましょうと言ってくれた。
わかってないとは、もう言われまい。