第十章 成せば成る!
「なんとか、希望が見えましたね。」
会議が終了し、セナはケントに微笑んで言った。ケントも小さくうなずく。
コダの報告後、緊急会議がもたれた。現状報告の中でケントを打ちのめしたのは、ニトラのタクへの敵対心、それによって引き起こされた最悪の結果だった。
会議の途中、ルルからコダへの通信があり、タクの生存が確認され、ニトラも調査団に引き受けられただろうと言うことだった。
「セナ、本当にすまない………。」
「いえ、とんでもない。」
セナは、ニトラのことはよく知らない。でも、ケントの家の者を悪く言うことは、したくない。
「何でも器用にやる子なんだ。自分から行きたいって、熱意があったので行かせたのだが………。」
「ケントさんは、ニトラさんの前で、タクの話しはしましたか?」
コダが、話しに加わった。
「ああ、先日の剣術大会、タクは立派だなという話しはしたよ。」
「それですね。」
「………?」
「嫉妬、です。」
「ああ、そうか………。」
ご当主様はいろいろ大変だけど、そういう所も見抜いて、しっかりなさってくださいねと、コダにチクリとやられた。
「でも、私も人の事ばかり、言えないんですよ。ルルに料理なんて………、求められると思ってなかったから………。」
「えっ?何か問題あるのか?」
セナは、ルルのことなら良くわかる。明るく気の付く、有能な魔法使いだ。
「何かって、そりゃ、あの子の料理ですよ。ルルの料理は凄いから。」
「凄く旨い、ではないのか?」
コダは、ふるふると首を振った。
「上等の肉をゴムのようにしたり、チーズを石のようにしたりする、凄い、です。」
「は??」
コダは、人間誰でも得手不得手があると、あまり気にしてなかったので、最近では一切させてなかった。
それが、こんなことになろうとは。まずい料理で、魔物を激怒させはしないか………。
「まあ、タクもついてるし。………任せるしか、ないじゃないか。」
そうだ、任せるしかない。
タクも、ルルの凄さにすぐ気づいた。
タクの周りにいる女性は、母キナを筆頭に、料理上手な人が多い。セナの妻であるマリカは、使用人が作る食事を喜んでいただくが、子どもたちのおやつはよく手作りしていて、パイやケーキは絶品だ。ミリヤやリリヤも、母に教わって上手に作れる。
ルルは料理が出来ると、勝手に決めつけて、申し訳なかった。しかし、これ程とは………。
雑なのではない。一生懸命やっている。しかしできるものはすべて、固くて苦い、食べれるものでない。
「あれー?おっかしいなー?」
幸い、材料となるカムリファスの実はたくさんある。だけど、無限にはない。タウロタに十分食べさせたら、薬とするため町に持って帰りたいのだ。
しかし、何か幸いするかわからない。ルルの様子を見かねて、キリルが手伝いだした。父と二人で生きていたキリルは、料理もそこそこ出来た。加えて、ルルの持ち込んだ鍋や包丁といった道具に、カムリファスが興味を持った。
気づけば、ルルは指示するのみ、キリルとカムリファスが楽しそうに料理をしだし、これで次々、旨いものを作れるようになっていった。
「ねえ、タク。これ食べて。」
ホカホカと、湯気の出てる煮物。一口食べると。
「………う、旨い!」
それは、衝撃的に味だった。ルルのアイデアで、シリル・ガリルドの特産品、トル酒をふんだんに使って煮物にしたという。カムリファスの実の、苦さとニオイが消されて、まろやかな煮物になっている。
「これで、行けるんじゃない?」
「うん、これなら大丈夫。」
「でしょ!すごいね、成せば成るってね。」
(いや、あなたがしたんじゃないでしょう………。)
こうして、美味しい料理は出来上がった。
後は、如何にして、タウロタに食べさせるかである。