第九章 コダの弟子
「我が名はルル、七色の輝石よ、我に応えよ。我の望みをかなえたまえ。」
タクとニトラが消えた。
もちろんトムルはボルダと共に、付近をくまなく探し回った。しかし見つからず、町へ取って返し、皆の知るところとなったのである。
ルルは、後悔した。危険を感じていたのだから、タクに同行すべきだった。
タクの消えたと言う地点で、空間の歪みを感じた。別の空間に、飛ばされたのだろうか?
どうやったら、見つけられる…?
「タクー!」
呼んでも無駄だとわかっていても、つい、叫んでしまった。
落ち着きなさい、ルル。自分が、誰の弟子だと思っているの?
大魔法使いスニヤ様の孫弟子であり、国一番頼りになるコダ様の一番弟子、こんな時こそ、私の出番なのだ。
ルルは、一度町に帰った。
黙っているわけにはいかないと、トムルの判断で、コダを通じて王に報告することにした。ルルは、コダから授けられた七輝石の水晶玉を用いて、通信を試みる。
コダの応答は早かった。今までの経過と、タク・ニトラのことを話した。話しながら、ルルは堪えきれず、泣いていた。
「ルル。」
相手の状況を察して、的確なアドバイスをくれるのがいつものコダだ。しかし、今回ばかりは、流石のコダにも難問過ぎた。ただ、心のこもった声で、励ましてくれた。
「すごく、つらいね。でも、涙を拭いて、立ち上がって。根気よく、彼らを探してほしい。タクは、セナさんが授けた剣を持っている。呼びかけてみて。」
「はい、わかりました。」
コダは、王のもとに急いで行くため、通信を終わらせた。ルルは言われた通り、涙を拭いた。
そして、タクに呼びかけることを始めた。根気よくと、コダは言った。タクの魔力はあまり高くない。しかも、通信を受け取れる状況かどうかわからない。魔物との戦いの最中なら、尚更だろう。
だから、根気よくなのだ。タクは、生きている。そう信じて、呼びかけ続けるしかないのだ。
(タク、タク!答えて、タク!!)
(………ル、ルルさん?)
「タク!?」
何時間呼びかけたのだろう。応答は、突然、あった。
「タク、タクだよね?ああ、良かった!」
生きている、しかも、元気そうだ。また、涙があふれて来た。
泣いていてはいけない。タクの魔力を消耗しないうちに、話しを進めないと。
「今、どんな状況なの?」
タクの話しは、驚きだらけだった。魔物のタウロタ、カムの実、カムリファスのこと。ニトラの怪我も気になる。
「わかった、要するに、私は料理の準備をして、何とかそっちに行けばいいのね?」
あの空間の歪み。あそこが入り口になり得ると思う。怪我をしているニトラと、位置交換の魔法を試みてみよう。
ルルは、急いで行動した。トムルに報告し、宿屋の人にも協力してもらって、食材や調味料を集めた。医師に連絡し、担架を準備した。
不測の事態に備え、今回は全員で動いた。医師も、助手と共に来てくれた。
「危険は承知の上だろうが………。」
トムルは苦しそうに言った。ルルは、微笑んで見せる。
「もちろん。………では、行ってきます。」
タクと再通信し、タイミングは合わせてある。目を閉じ、意識を集中させる。位置交換する相手が知っている相手なのは、やりやすい。
「我が内なる力よ、目覚めよ。彼の者と我、位置を交換せしめよ。」
側で見ていた者たちには、瞬間ルルが光輝いて見えた。そしてルルが消え、代わりにうずくまるニトラの姿。
医師がすばやく動いて、ニトラを診た。担架に乗せて、急いで町に戻ることにする。トムルは、もうルルとタクに任せるしかなかった。
「あいたたた………。」
「だ、大丈夫ですか?」
ルルは、無事タクのいる空間に入れた。しかし、背負っていた荷物の重みで、いきなりこけてしまった。
「大丈夫、タク、やったね。」
思わずハイタッチ。そしてタクは、カムリファスとキリルを紹介する。
「よろしくね、頑張りましょう!料理は私に任せて。いろいろ、持って来たから。」
と。
「………あんまり、したことはないけど。」
「………?」
「………?」
「………えっ?」