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前世の記憶をましろで染めて  作者: ブロンズ
第一章:俺と彼女のこれまで
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第七話:お友達にもなりはしない

 中学二年の夏に行われた宿泊学習が無事に終わり、俺たちは普段の日常に戻ってきた。

 まあ、周囲は告白が成功しただの失敗しただの、既に別れただのとお祭り騒ぎになっているが。


「刀夜―、帰ろうぜ?」

「ああ、生きてたのか村紗」

「いつまでのそのネタ引っ張るんだよ! まだ死んでねぇ!」


 この愉快な男、村紗 壮大(むらさ そうだい)は宿泊学習で俺と相部屋だった奴だ。

 消灯時間になっても帰ってこなかったので俺と水無瀬の間では既に亡くなったものと思われていたが、結局教師に連行されて戻ってきた。


 人騒がせな奴である。


「ったく、お前らがいつまでもそのネタで虐めるから帰るのメッチャ遅くなったじゃねえかよ」

「まあ、楽しかっただろ?」

「・・・そうだな」


 もう一時間ほど前にホームルームは終わっているので、後は帰るだけだ。

 今日は恒例のホームパーティーの予定もあるし、真白は帰って手伝いをしている頃なので俺も早く帰らないとな。


「じゃあ、俺はこの辺で―――」

「そうはいかんぜ大将。もっと遊んでくれよ」

「最近付き合い悪いぞ? ちょっとくらい大丈夫じゃねえか?」

「「そうだそうだ!」」


 ・・・何だ、このパリピ共は。


 まあ、確かに最近は忙しくて男共とつるんで行動することが少なくなってたからな。

 偶にはそういうことをしておかないとマズいだろうし、・・・少しくらい、大丈夫か。


「わかった。だけど、予定があるから途中離脱だぞ?」

「「ホワアァァアア!!」」


 馬鹿どもが騒いでいるのを無視して母さんに連絡を取る。

 どうせ帰ってもしばらくはやることが無いだろうし、ちょっとだけ暇をつぶして帰ると思えばまあ、許容範囲だ。


『―――あら、刀夜? まだ帰ってこないの?』

「うん、ちょっと男共で騒いでてね。―――聞こえるだろう?」

『ええ、よく聞こえるわ。楽しそうね。じゃあ、まだ帰ってくるのは先になりそうなの?』

「ちょっと寄り道していくかも。真白にもそう伝えておいてほしいんだけど」


 せっかく手伝いを頑張ってくれているのに俺が遅れるというのは少し申し訳ないので、伝言くらいは頼もうか。

 まあ、準備では俺は足手まといだし。


『・・・・あら? あ、そうね。男の子だって言ってたものね。――――刀夜? 真白ちゃんまだ戻って来てないのだけど、何か聞いてないかしら』

「・・・帰ってない?」

『ええ。いつもより遅いから刀夜といるものだと思ってたのだけど』


 それはおかしな話だ。

 真白は大抵まっすぐ家に帰るだろうし、友達と一緒の時でも寄り道にあまり時間はかけない性格だ。

 ましてや、今日のような催しごとが家であるときは率先して手伝いをする。


「じゃあ、俺から連絡してみるよ。あ、因みにティネラさんの携帯のGPS機能は?」

『ティーちゃん? ―――そう。あ、刀夜? 通学路に表示されてるらしいわ』


・・・それは、マズいでしょ。


 既に俺の頭の中では一つの仮説がほぼ確信へと変わっていた。


「分かった。じゃあ、俺が確認するよ」

『そう、頼んだわよ。何かあったらすぐに連絡してちょうだい』

「ああ、大丈夫。多分どこかで寄り道してるだけだと思う。―――すぐ連絡するから」


 短い言葉を付け足して通話を切る。

 

「刀夜?」

「――――!」

「っと!? どうした刀夜?」

 

 話しかけてきた村紗を手で制す。

 悪いが構っている暇はない。


 俺は真白がいつも一緒に下校している友人に電話をつなぎ―――


「すまん中村さん、急ぎなんだ。今日は真白と一緒に下校したか?」

『明槻君? いえ、今日は家で催しだから先に帰るねって真白ちゃんは―――』

「そうか、ありがとう。失礼するね」

『――――へ?』


 ・・・これは、一番マズいやつだな。


「みんな、ちょっと協力してもらっていいか?」

「なんだ? 何かあったのか?」

「俺の人生最大級の緊急事態だ。真白が誘拐されたかもしれん」

「「―――は?」」


 まあ、そんな反応にもなるよな。




―――――――――――――――――――――――――




『――刀夜、聞こえるか?』

「ああ、どうだった?」

『塀の上にあったぜ。随分ずさんな隠し方だな』

「じゃあ、手はず通りに」

『あいよ。言われた通りの住所で良いんだよな? 連絡しながらそっちに向かうから。務所に入っても元気でな?』


 冗談にはならない友人の軽口を聞きながら電話を切る。

 まあ、一つ間違えれば・・・間違えなくても、今から俺は犯罪者の仲間入りなので問題は無い。


「で、マジでやるの?」

「俺が冗談を実行したことがあったか?」

「・・・・・ねえな。いや、だから怖いっつってんだよ!」

「ホントにそれ」


 いやー、まさか本当に『犯罪者予備軍ノート』が役に立つ時が来るとはこの転生者の眼をもってしても読めなかったよ?

 今俺たちがいるのは古びた一軒家の前。

 前から俺がマークしていた危なそうなやつの家だ。


 まあ、他にも候補は居たのだが、位置的に十中八九ここだな。


 ――――外れたら次の家に向かうが。


「で? どうやって入るんですか? 大将」

「犯罪に付き合わせるのは忍びないから綾瀬はインターホンで応対頼む。村紗は俺と一緒な?」

「おい! 俺は犯罪に付き合わせても良いってのかよ!?」


 それだけ信用してるってことだ。


 お前、柔道習ってたろ? ここが使い時だ。


「とりあえず、中に入ったら台所で包丁でも調達してくれ。なかったらフライパン。最悪鈍器なら何でもいい」

「・・・わかった。冗談じゃすまないからな?」

「俺が一番理解してる。・・・行くぞ? 綾瀬、ゴー!」

「ハイよ!」


 綾瀬が住人を引き付けている間に、俺と村紗は木製の勝手口を石でぶち壊す。


 ―――鍵の付いたドアノブならまだしも、かんぬき式のドアなら壊せば開く。


 ちなみに、前にこの家を調べた段階でどのように突入するかは考えてある。

 疑いようもなく、マジで俺犯罪者だわ。

 十四歳の俺の場合は普通に牢屋に入ることも想定されるし、差し入れを持ってきてくれる人は居るのだろうか。


「よっしゃ、とつにゅー!」

「声出すな。案外気付かれてないかもしれないんだか―――」

「―――は!? 何だお前ら!?」

「・・・刀夜? 俺、台所に用があるんだが」

「行け。俺がどうにかするから。ついでに真白がいるかどうか確認頼む」


 玄関から帰ってきたと思われる半袖半ズボンの推定中年小男。

 

 俺と同じくらいの身長の男に、ワザと聞こえるように村紗と会話する。 


「―――!? 真白ちゃんなんて知らないぞ? この家にはいない!」

「なあ、刀夜・・・・」

「言うな、とりあえず作戦変更。二人でコイツ虐めるぞ。中学生男子のパワーを見せてやれ」


 どうやら間抜けは見つかったようなので、俺と村紗は一斉に突っ込んで男に体当たりをする。

 まあ、中学生男子二人の本気の体当たりを受け止められる人間はそう居るものではないので、当然に男はあおむけに倒れ――――


「ガッ!?」

「じゃあ、おれキッチン行きたいから」

「俺は家探しを。鈍器取ったらそいつ抑えといてくれるか? 危なくなったら本気で逃げていいから」

「りょーかいっす大将」

「まっ・・・お前ら―――」


 会話が本気で犯罪者のソレな俺たちは、痛みにわめきながらなんとか立ち上がろうとしている男を無視して廊下を走る。

 犯罪者に抜かりはなく、間取りも調査済みだ。


 一番有力な場所は―――――和室!


「真白!」

「―――!」


 誘拐のテンプレの様なシチュエーションで縛られてはいるが、制服のままの真白がそこにいた。

どうやら意識ははっきりとしているようで目立った外傷もない。


 ―――少しだけ制服がはだけている程度だ。


「真白、ホームパーティーをやる家を間違えたのかい?」

「刀夜君!」


 真白は・・・強いな。

 中学生であれば泣き叫んでいるのが普通のはずなのだが、彼女は涙を流していなかった。


 ただただ嬉しそうに抱き着いてくるだけだ。


「――――なあ、刀夜? 邪魔して悪いんだが、この家調理器具の一つもない。あと、奴さんお怒りだ」

「みたいだな」


 台所を捜索してきた村紗の言う通り、足を引きづりながらこちらに近づいてきた男の顔には『怒』の一文字が刻まれているようだった。


「ふざけやがって! ガキが大人の邪魔すんじゃねぇよ!」

「そう思うなら大人同士で楽しんでくれ。こちらとしても毎日コンビニ弁当のニートは御免だ。というか調理器具買え」

「うるせぇ! 子どもだけで来るとか、大人をなめんじゃねえ!」


 さっきからうるさいな。


 大人だというのならもう少し感情を表に出さないように振舞ったらどうだ? 俺みたいに。

 俺は子供だが、やることはやっている。


「子どもだけで大きなお友達の家に遊びに来ると思うか? 通報済みだバカヤロウ」

「そういう訳だから、大人しく捕まってくれない?」

「ふざけんな! このガキ!――――殺してやる!」


 完全に血が頭に上った男は新聞紙にくるまれた包丁を――――包丁!? ・・・よくよく考えれば、真白を抵抗させること無く家まで誘拐してくるには一番手っ取り早い方法か。


 普通の中学生女子であれば間違いなく無抵抗だ。


「・・・・・刀屋とうやさん? 在庫はあるのか?」

「残念ながら字が違う。死にたくは無いから抵抗するぞ」


 がむしゃらに包丁を振り回して襲い掛かってくる男に再び体当たり。

 爺ちゃんの動きに比べれば素人もいところだ。


 男が倒れた後は、一番危ない包丁を持っている腕を思い切り握る。


「村紗、包丁回収してくれ! 取れなかったら手踏んどけ!」

「は? マジかよ。――指折れても知らねえからな!」

「やめ―――ガァァ!?」


 絶叫をあげる男の手から転がった包丁を回収する村紗。

 言ったのは俺だが、普通はためらうものじゃないか? 


 ―――連れてきたのがコイツでよかった。

 

「で、どうするんだよ。犯罪者の仲間入りはしなくて良さそうだが、別の意味で困ったことになってるぞ?」

「とりあえず真白を連れて外に出ててくれ。―――後包丁も。そろそろ警察も来てくれるだろうから、俺はこいつが動けないようにしておく」

「分かった。―――白峰さん、立てる?」

「うん、ありがとう村紗君。・・・刀夜君、気を付けてね?」


 二人は玄関へと向かう。


 これでとりあえず一安心だろう。―――で、だ。


「グウウゥゥ・・・いてぇよ・・・」

「お前、前から真白の事狙ってただろ? 今回は一人で歩いてたから好都合だったてか?」

「―――!? ・・・・なんで」


 そりゃ知ってるさ。

 こちとらお前さんのことはばっちり調べてんだから。


 それに、俺も一歩か二歩間違えれば同類だからな。


「まあ、運が悪かったと思って諦めな」

「・・・・・いてぇ―――このガ――ヒッ!?」

「イライラしてるから喋んな」


 本当は一発ぶん殴りたかったが、一発じゃすまなそうだったのでとどめは村紗に任せた。

 やり過ぎて本当に犯罪者になったら守ることも親孝行もできないし。


 まあ、自業自得だろ。


 どんな処罰が下されるかは分からないが、最長でも七年くらいって言うし、出所する頃には真白は成人になってるはずだ。


 大きいお友達からすれば二十代前半の女性は守備範囲外だろ? 


 少ししてから、パトカーのサイレンが聞こえはじめ、空いているドアから村紗と警察官が入ってくる。

 こういうシチュエーションって初めてだな。


 ―――さて、父さんと母さんにどう謝るか。








「――――このバカ! 子供だけでどうにかしようなんて思ってたの!?」

「・・・そういう訳じゃないけどね。一刻を争う感じだったし、警察にも家にも連絡は入れたし。ゴメンなさい、母さん、父さん」

「全く。全部理解してるから質が悪いね、刀夜は」


 本当に、ゴメンなさい。

 早期救出の大切さと子供だけで行くことの危険性、すべて分かっているからこそ俺は質が悪い。


 まあ、間違いなく学校に連絡は行くだろうね。


 どうにかなったからいいものの、本当にギリギリだった。

 俺と村紗が軽口を言い合っていたのも初めて直面した恐怖を紛らわすためだったし。


 精神がオッサンでも怖いものは怖いのだ。


「これからはちゃんと僕たちにも協力させてね?」

「あなた、そういうことじゃないわよ」

「子どもだけで無理はしないって約束するよ。危険性も十分に理解してる」


 親孝行をすることを人生の目標にしている身としては、こんな風に心配をかけるのは避けなければならないことだ。

 父さんも母さんも俺のことを大切にしてくれているゆえの発言なので、素直に従う。


「刀夜君、本当に娘を助けてもらってありがとう。本当に感謝しているよ」

「私からも、ありがとうね。刀夜君」

「いえ、当然のことをしただけですから」


 そう、俺にとっては当たり前のことだ。

 真白と両親、どちらを失っても俺は壊れるだろうし、精神の安定を必要とするのならば助けるのは当然のことである。


 本当、これからも真面目に爺ちゃんの流派の修行するか。


「刀夜君、ありがとうね」

「本当に、無事でよかった。何かあったら本当に俺が壊れるか―――!?」

「・・・・・えへへ、しちゃった」


 頬に感じたのは柔らかな感触。

 いや、マジ・・・・顔が熱くなるのを感じる。

 この経験は前世でもなかったな。

 どういう対策を取ればいいのだろうか。


 俺は助けを求めるために大人たちに視線を―――


「「ヒュー!」」

「お姉ちゃんいいなー」


 茶化すな。どうやらこの空間に味方は居ないようで、皆がはやし立てる。

 恥ずかしそうにはにかむ真白、羨ましそうにこちらを見る恵那ちゃんだけが俺の救いだ。

 

 絶対俺はこんな悪い大人たちのようにはならないからな?

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