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前世の記憶をましろで染めて  作者: ブロンズ
第一章:俺と彼女のこれまで
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第六話:宿泊学習は恋の香り

 宿泊学習。それは生徒同士の結束力や友情を高めると共に、普段の学校生活では体験できないようなことを学ぶための行事である。

 中学二年生では真白がクラスも同じということもあって、一緒の班になった。

 今は所謂野外炊爨(すいさん)という時間で、協力してカレーを作るわけなのだが・・・どうにも気持ちが落ち着かない。


「明槻くん、野菜持ってきたよー」

「ああ、じゃあそこに頼むよ。真白、肉を切るのを頼んでいい?」

「うん。じゃあ、隣失礼するね」

「刀夜ー、火がファイヤーしてるんだが、これって大丈夫なのか?」


 火がファイヤーってなんだよ―――って、マジでファイヤーしてるな。


 どうやったらこんなに火力強くできるんだよ。


「とりあえずは風を送り過ぎるな。自分でもあおいどけ」

「はいよー。ああ、気持ちいい」


 ・・・バカは放っておいて、とりあえず野菜を切っていく。

 慣れているわけでは無いが、まともに包丁を使えそうなのが俺と真白しかいなかったゆえの采配だ。

 しかし、何故か落ち着かない気持ちが包丁を少しばかり強く動かしてしまったようで―――


「っと、まな板が傷むから落ち着け」

「・・・刀夜君?」


 多少大きな音が響いたことで、真白が心配そうに覗き込んできた。

 彼女は家で家事の手伝いをしているらしく、その手捌きは見事なものだ。もしかして切る役を全部やってもらったほうが良かったか?


「大丈夫? もしかして機嫌悪い?」

「いや、そういう訳じゃないんだが」


 そう、別に機嫌が悪いわけでは無い。

 少し気分が落ち着かないが、別に怒っているわけでもない。


 ただ、昨日の放課後のことを思い出していただけだ。






『刀夜君、ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな?』

『水無瀬か。宿泊学習で告白祭りをされたくないから俺と付き合ってくれ、とかなら勿論断るぞ』

『僕はゲイじゃないよ。それに、僕はされる側じゃなくてする側に回りたいんだ』


 俺の友人である水無瀬 咲間(さくま)はうちの学校でもトップレベルのイケメン野郎だ。

 

 優男ではあるが、誠さんとはまた違ったタイプの美形と言えるな。

 で、そんなイケメン君が告白する側に回りたいっていうことは―――


『僕が白峰さんに告白するのに協力してくれないかな』

『まあ、そうだろうな』

『・・・わかっているならホモ疑惑を浮上させないでくれるかな?』


 だって、お前メッチャ告白されるけど全部断ってるじゃん。

 俺たち男子の間でそういう疑惑が出てくるのも仕方ないことじゃないか? 


 まあ、一部の男子はその説を浮上させることで、水無瀬に行く女子を減らそうと画策してるみたいだけど。


『俺としてはお前がどちらでも構わないからな』

『・・・・・・・・』


 そんな捨てられた子犬みたいな目をするな。

 ペットを捨てるのは犯罪だと知らないのか? 


 こいつは顔だけじゃなくて、性格もいいので無碍には出来ないのだ。


『まあ、俺は協力はできない。邪魔もしないがな』

『最大の障害になりそうなのが君だと思ったんだけどね』

『ラスボス手前で戦うライバルみたいに言うな。俺は真白と付き合ってるわけじゃないからな』


 幼少期からずっと一緒に居るからと言って、当然それを付き合っているとは言わない。

 その理論で言うと、男同士の幼馴染はエライことになるからな。


 それに、これからも俺は彼女に告白するつもりはない。


『本当にいいのかい?』

『それを俺に聞くな。お前が告白する相手は俺じゃないだろ? 俺は真白が幸せならそれでいい』

『・・・もし―――』

『地獄に落とす。その先は言うな、()()なんて絶対に許さない』

『・・・・・・・・』


 合ってたのか。

 水無瀬が聞こうとしたのが『もし告白が成功したら?』だったら謝らなければいけないところだったが、聞こうとしたのは『不幸にしたら』ということだったらしい。


『まあ、成功するかしないかは彼女の意思だからね。僕は真摯に行くだけさ』

『一世一代の博打とはいかないが、頑張れよ? このイケメン野郎』


 こういう奴ならまあ、合格だろう。


 少なくとも腹に一物も二物もあるような誰かよりはマシなはずだ。






「・・・なんで、俺はイライラしてるんだ?」

「お腹空いたんじゃないかな? 早く準備しよっか」


 可愛い幼馴染の言葉に多少毒気が抜かれたが、どうにも落ち着かないな。

 まあ、飯でも食えばマシになるだろ。次はタマネギだ。心してかかるとしようか―――っと。


「刀夜君?」

「・・・・・ゴメンなさい」


 また強く包丁を振り下ろしてしまったようだ。


 もしかして変なものでも食べたかな? 

 とりあえず、みんなで作ったカレーの出来は悪くなかった。

 流石は誰が作っても応しくできるようになっている料理といったところだろう。








「・・・入ってもいいかな?」

「おお、いきなり男子の部屋に入ってくるとは、なかなか勇気があるじゃないか」

「僕たち相部屋だよね? 僕の寝る部屋でもあるんだけど」


 バカなやり取りは置いておいて、告白を終えて帰って来たであろう水無瀬を出迎えてやる。

 野外炊爨の後もいろいろなことがあったが、現在は就寝前の自由時間。


 この部屋は三人部屋だが、現在もう一人は愛を求めて告白(ナンパ)の旅に出ているのでしばらくは帰ってこないだろう。


 ・・・一生帰ってこない可能性もある。


「「・・・・・・・・」」


 なんか・・・とても気まずい。

 普段からよくしゃべる友人同士であるはずなのに、場所が変わるとこんなに気まずくなるものか?  


 なんでお前喋んないんだよ。


 俺は良いからお前から喋れよ。


「・・・えと、刀夜君? 顔が怖いんだけど何かあった?」

「水無瀬、お前もか。俺としてはいつも通りなんだがな」


 野外炊爨が終わってからも気持ちが落ち着くことはなく、友人知人皆に『怒ってる?』と聞かれてしまった。

 ・・・夕食後に告白してきた女子には悪いことをしてしまったな。


「まあ、君がいつも通りのつもりなら僕が何か言うことは無いけど」

「そうしてくれると助かる」

「・・・それで、僕の告白の話なんだけ―――ヒッ!?」

 

 どうした? イケメン君にあるまじき悲鳴なんて上げてしまって。


 俺の後ろに何か怖いものでもあるのかと思って振り返るが、あるのは壁。

 もしかして水無瀬は壁恐怖症か何かなのか? 

 じゃあ、今日は壁を見なくてもいいようにベッドの間で寝てもらうことにするか。


「いや、振り返らなくていいから。別に僕は壁を見て怖がったわけじゃないし」

「なんだ、後ろに何か怖いものが居たのかと思って竦み上がったじゃないか」

「・・・・・・」


 なんだ、その可哀そうなものを見る目は。

 確かに俺はイケメンではないか、お前に哀れまれるような人生を送ってきた覚えはないぞ?


「えと、話してもいいかな?」

「俺は全く問題ないんだがな」

「・・・そう。じゃあ、伝説の柿の木の下とやらで告白したんだけど―――振られちゃったよ」

 

 敗因は間違いなく柿の木だな。

 というか、伝説の柿の木ってなんだよ。

 普通、こういうのって桜の木とかじゃないのか? 随分和風に仕上げてきたな。


 にしても、水無瀬ほどの完璧ヤロウでも振られてしまうのか。

 真白って、もしかして男に興味なかったりするのか?


「僕じゃダメだったみたいだね」

「お前でも無理だとなると、他に候補なんていないな。・・・傷を抉るようで悪いが、どんな感じだったか聞かせてもらっても?」


 もしかしたら彼女の好みを聞かせてもらえるかもしれないし。

 もう、これは俺の手で美少年を育成するしかないだろう。


 目指せ、プロデューサー!


「えっとね、―――好きな人が居るから付き合えません、ゴメンなさい」

「・・・まるで俺がお前に告白したみたいになってるな。一部の女子が喜びそうだ」

「勘弁してくれないかな。ただでさえそういう話を聞くことがあるのに」


 ―――イケメンにもいろいろあるんだな。


 大丈夫だ、これからも俺はお前の友達でいることを誓うよ。


「ともかく、彼女には心に決めた人がいるんだろう―――ね」

「・・・・・また壁か?」

 

 どうしてさっきからこいつは俺の後ろの壁に視線を送っているんだろうか。


 壁恐怖症だと思ったが、もしかしたら愛好家の方だったのかもしれない。


「・・・ハァ、君も頑固だね。ともかく、僕はすっぱりと諦めることにするよ」

「本当にお前良い奴だな。いい壁紹介しようか?」

「ああ、良い人がいるなら―――壁は関係ないよね?」


 ノリもいい。

 

「まあ、今日は寝るか。明日には帰ることだしな」

「そうだね。まだ一人帰って来てない気もするけど、たぶん気のせいだろうし」

「とりあえず、そのベッドは枕でもまとめて布団をかぶせておけば先生が見回りに来ても大丈夫だろう」


 就寝時刻になっても帰ってこない男子生徒は放っておくことにする。

 先ほどまでとは打って変わって、何故か気持ちが落ち着いた俺は友人が潜りこんだベッドと故人のベッドに挨拶をして就寝することにした。


 ――――マジで帰ってこねぇ。





―――――――――――――――――――――――――




―真白視点―




「じゃあ、時間取らせてゴメンね」

「・・・・・うん」


 心の中でもう一度謝りながら去っていく男の子を見送る。

 誰かに好意を向けてもらえる。

 それはとても素敵なことなのだろう。


 でも、その気持ちに答えてあげることは出来ない。


 私にはもう好きな人がいるから。


 私は卑怯者だ。

 皆に合わせて笑ったり遊んだりしているのに、都合の悪い時だけ拒絶する。

 後悔してしまわないように、一番大切な人と一緒に居るためにこれからも私は拒絶するのだろう。


 沈んだ気分を落ち着かせるために友達と話したいところだけど、私の友達も男の子に告白してくる、と言ったっきり戻ってきていないので、とりあえず部屋で待つことにしようか。




「ましろー! トウッ!」

「え? ―――キャッ!」

「ちょっ、ナナちゃん!? 真白ちゃんが潰れちゃうからそのダイブはダメだって」


 部屋のベッドに座りながら明日の日程を確認していると、相部屋の友達が帰ってきた。

 下が柔らかい布団で、友達も配慮してくれているので痛くは無かったけど、突然飛びかかられるのはちょっと怖い。


「やったよー! 告白成功じゃ―!」

「ホント? 良かったね!」


 どうやら友達の方は意中の相手に思いが通ったようで、嬉しそうに私の体を抱きしめる。


 ハグする相手が違うんじゃないだろうかとちょっとだけ思ったのは内緒だ。

 でも、恋人さんとした方が幸せじゃないかな?


「いやー、まさか成功するとは思わなかったわ」

「ええ・・・勝算があったわけじゃなかったの?」

「そうは言いますけどね真紀ちゃん、あの人結構人気だったんだよ?」

「じゃあ、大勝利だね?」

「そのとーり。私は勝利したのだよ!」


 本当にうれしそうに顔をほころばせる友達を見ていると羨ましくなってしまう。

 自分には相手に告白する勇気などないから。


 彼女の勇気のほんの少しでももらえたらいいのに。


「相手は知らないけど、ましろも告白されてたんでしょ? やっぱり断ったの?」


 友達には告白されるということを話していた。

 どうやって断ると相手を傷つけないか、どういえば納得してもらえるのかなど、教えてもらったことは数えきれない。


 だから二人には包み隠さず話す。


「・・・うん。好きじゃないのに告白を受けるのは真剣に考えてくれてる相手に失礼だから」

「かーー! 中学生の男子なんてそんなに真面目に考えてなんてないよ。とりあえず可愛い彼女が欲しい、ってくらいでしょ」

「まあ、真白ちゃんには明槻君がいますし」


 これまでの中学校生活の中で私が好きな男の子のことはみんなにバレバレだ。

 曰く、刀夜君と一緒に居るときだけ明らかに嬉しそうとのことだが、そんなに違うのだろうか。


 でも、刀夜君といると安心できるから。

 温かい気持ちになれるから。


 叶うのならずっと一緒に居たいのは本当だ。


「そういえば、今日の明槻君、なんか機嫌が悪そうじゃなかったですか?」

「そだね、なんかイライラしてた。そういう顔もイイって言ってた子もいたけど、私はちょっと怖かったな」


 確かに、今日の刀夜君はいつもと雰囲気が違った。

 何かを抑えてるような、そんな感じ。


 物事を客観的に見ているような、いつもの冷静さが無いように感じた。


「もしかして、内緒にしておきたかったことがバレちゃったとか?」

「例えば?」

「・・・実は女の子じゃなくて男が好きでしたとか」

「いや、さすがに明槻君に限って―――あるかもしれないですね」

「―――えぇ!?」


 そうなのかな!? 

 刀夜君は女の子に興味が無いの?

 

 でも、それなら小さいころからも私や恵那とよく遊んでくれた理由が見当たらない。

 外で男の子たちと遊んでいるところなんて、学校くらいしか見たことが無いし。


「それ、どうしてそう思うの?」


 不安になってしょうがない。

 もし本当にそうだとしたら絶対に私は一緒に居られなくなるから。


「だってさー、傍にこんなに可愛い幼馴染がいるんだよ? 普通ならすぐに襲うでしょ」


 友達が私を撫でまわしながら言う。―――これも襲われてるっていうのかな? 


 この子は友達へのボディタッチが多い。


「それに、水無瀬君とのカップリングの話がでてるし」

「―――ふぇ!?」


 今まで聞いたことが無いような話がどんどん出てくる。

 水無瀬君はさっき私に告白してきた男子だ。

 でも、私に告白したということは本人たちにそのつもりはないんじゃないだろうか。 


「・・・あれは、結構良きものでしたな」

「え? 真紀ちゃんひょっとして―――」


 私はそういう男の子同士の話はよく分からないので話に交ざることができない。

 こういう話も勉強したほうがいいのかな?


「でも、明槻君ってソコソコ告白されるらしいけど全部断ってるらしいし、狙うならしっかりと外堀を埋めたりしないとね。それこそ、弱っているところに付け込んでコロリ・・・とかも」


 その話を聞いて、少しだけ考えてみる。

 外堀を埋めるというのなら私たちの両親はとても仲がいいから歓迎してくれるだろうし、もしかしたら協力してくれるかもしれない。・・・・・でも


「刀夜君が弱みを見せてくれたこと、無いよ?」


 いつも私の事を助けてくれる。

 なのに、私がしてあげられたことが殆ど浮かばない。


「ふーむ、これは強敵ですね。真白ちゃんのためにもこの機会にいろいろ考えましょうか」

「そうだね。朴念仁っていう可能性もあるし。例えば―――」


 友達の提案に耳を傾けながら考える。


 刀夜君はいつだって私の事を助けてくれた。

 初めて出会った時も、私がいじめられていた時も、寂しい時も、いつでもそばで助けてくれた。


 でも、私が彼にしてあげられることって何なのだろうか。


 彼はとっても強い人だから。

 私ができることなんて本当に些細なことだけかもしれない。

 でも、だからこそ本当に彼が辛い時、苦しい時は絶対にそばにいてあげたい。


 心からそう思える。


「――――と、こんな感じですね。私達も応援してますから」

「がんばりんしゃい! 失恋したら慰めてあげるさね」

「うん!」


 応援してくれる友達もいるのだから、昔の内気なままの私じゃ絶対にダメだ。

 まだ勇気は出せないけど、ずっと一緒に居たのに、ずっと一緒に居たいのに、目の前で誰かにとられるのは嫌だから。


 だから―――うん。


 中学生の間に、彼に告白をする。


 断られたら大泣きしちゃうかもしれないけど、それが私の踏み出す第一歩だから。

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