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前世の記憶をましろで染めて  作者: ブロンズ
第一章:俺と彼女のこれまで
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第五話:卒業式は何度目だ?

「卒業証書、授与。六年一組―――」


 ひたすら暇だ。


 卒業式というのはいつも暇なものであるが、これが同じ年齢で二回目ともなると更に暇である。

 唯一面白いことがあるとするならば、眠たげにしている卒業生たちが自分の番になったり、好きな女子が卒業証書を受け取ったりするときだけ真面目に背筋を伸ばすことだろうか。


 こういうのに気づくのって、人生二周目だからなのか? っと、そろそろ・・・・・



「六年二組、明槻刀夜」

「―――はい!」


 ようやくお呼びがかかり、俺は壇上へ登って卒業証書を受け取る。

 教師の中にも泣いている人たちはいるが、彼等ってなんでこんなに涙もろいのだろうか。


 壇上を下りながら遥か後方を見ると、俺の両親と真白の両親が並んで手を振っているのが見える。今は俺が立っているから見えるものの、自分の子供に向かって手を振る親御さんはどれ程いるのだろうか。

 できれば恥ずかしいので止めてほしいものだ。


 とりあえず、事前に教えられたとおりの手順で歩いた後、席へと戻る。


「なあ、刀夜? しりとりしねぇか?」


 座って一息着いた次の瞬間、隣の男子がひそめた声で話しかけてくる。

 いいのか? 記念すべき一回目の卒業式がそれでいいのか?


「さすがにまずいだろ。大人しく女子の晴れ姿に鼻の下伸ばしとけ」

「・・・はなのした?」


 あ、通じねえわ。

 五年生でも同じクラスだった友人は エロいが根は良い奴なので気楽に話せるのだが、未だに知っている言葉の齟齬ばかりはどうしようもない。


 とりあえず、今の俺はお前に付き合っていられるほど暇じゃないんだ。


 あともう少しで・・・・・。


「六年二組、白峰真白」

「はい!」


 さあ、カメラの準備を・・・なんで父兄の俺にカメラが用意されていないんだ! 

 おかしいだろ。


 これじゃあ、娘の晴れ姿を―――もしかして俺ヤバい奴か?


「刀夜? おい、大丈夫か?」

「・・・なんで小学生はカメラを持ってきちゃいけないんだろうな?」

「おい、とうとう壊れたか? お前らしくないぞ」

「すまん、ちょっと疲れてるみたいだ。しりとりは一人でやってくれ」

「・・・リス・・・スイカ・・・・カメ・・・」

 

 マジでやり始めるのか。

 ちょっと君、正直者すぎやしませんかね。


 いずれ悪い女に騙されないことを祈っているよ。

 

 俺は真白が席に戻ったのを確認してから、可哀そうな友人のためにしりとりに付き合ってあげることにした。






「卒業、おめでとー!」

「「おめでとー!!」」


 学校の正門の間で記念撮影をする家族たちが多い中で、俺たちの家族も写真を撮りたいらしく、卒業式が終わった後すぐに俺と真白はここに連行されてきた。

 人がたくさんいてごった返しているわけだから、ティネラさんと真白・・・あとイケメンな誠さんといった白峰ファミリーがめっちゃ目立っている。


 で、俺は真白と共に写真撮影をするわけなのだが―――

 

「なあ、母さん。なんで二人一緒じゃなきゃいけないんだ?」

「結婚式とかでお披露目するかもしれないし当然じゃない」

「・・・・・」


 どうやら、母親の中では俺と真白が結婚するのは確定らしい。

 俺はともかく、彼女の気持ちも少しは汲んであげようというつもりはないのだろうか。


 そんなことを考えていると、少し離れたところにいた誠さんがカメラを持って近づいてきた。


「――――さあ、刀夜君。こっちに来てくれるかい? 二人一緒で写真撮影をしたいんだけど」

「誠さん、あなたもですか。せっかくの晴れ姿なんですから娘だけを映してあげませんか?」

「君と一緒の方が真白の笑顔が輝くからね」

「刀夜君! こっちこっち!」


 そんなことを言われたら断れるはずもなく、俺はニコニコしながら待っている真白の隣に並ぶ。

 しかし、撮影している誠さんやティネラさんはともかく、外野―――物珍しそうに真白を見ている知らない人たちが気になってどうにも作り笑顔に集中できないな。


「刀夜君? それ、笑ってる?」

「嗤ってますよ」

「・・・なんかニュアンスが―――まあ、いいか。いちたすいちは?」

「にー!」

「・・・・・」


 またベタな。いい笑顔な誠さんの顔にも毒気が抜かれるが、とりあえず―――隣の女の子が可愛すぎるんですけど、この子何処の家の子ですか?


 撮影が終わると俺たちは校庭に入って恵那ちゃんを待つことにした。

 

 彼女は式場の片づけを手伝っているので、もう少しで来るはずだし。


「ああ、忘れてた。刀夜、これ卒業祝いだよ」


 俺が校舎の方に気を配っていると、父さんが小さめの箱を渡してくる。

 そこそこの重量があるが、何が入っているのだろう。


 びっくり箱とかだったら遠投する自信があるが・・・と、これは


「―――携帯電話?」

「そう、これから必要になることが多いかもしれないからね。既に僕と母さんの電話番号に家の電話、後、白峰さんのお宅とおじいちゃんのところの電話番号が入ってるから」

「わぉ、友達沢山」

「いつでも連絡してきていいからね。というかして!」


 駄目だこのバカ親。息子がもうすぐ中学生になるというのに、いつまでこのテンションで通すつもりなのだろう。

 隣にいた真白は目をキラキラさせて俺の携帯を見ている。


「刀夜君いいなー」

「じゃあ、真白は中学校の入学祝に買ってあげようか」

「そうね。そろそろ真白にも必要になるでしょうし、今のうちに用意しておいた方がいいかしら」

「わーい! 刀夜君と番号交換するの!」


 俺からもぜひお願いしたい。

 メリーさんごっこが捗るしな。やるつもりはないが。

 

 そんなバカなこと考えていると、後ろから誰かが駆けてくる気配がする。


 これは、受け身の態勢を――


「刀夜お兄ちゃん、卒業おめでとー!」

「―――と、ありがとう恵那ちゃん。でも、まずはお姉さんじゃないのかい?」


 弾丸のように飛び込んできたのは白峰家次女の恵那ちゃん。

 髪は真白と違って黒だが、その瞳は青空のように綺麗だ。

 運動神経も抜群らしいし、クラスではさぞかしモテるんだろうな。


「お姉ちゃんもおめでとー!」

「ありがとう恵那。片付けの方は終わったの?」

「うん。もう解散したからあとは帰るだけだよー」


 どうやら卒業式の片づけも特に問題なく完了したらしい。


「じゃあ、僕たちもそろそろ帰ろうか。夕食は豪勢なのを用意してくれているらしいからね」

「楽しみですなー、誠君」

「ククク、そうだね、修也君」


 見事に悪役の見本になる父親ズ。


 このふたりメッチャ仲いいし、子供よりも状況を楽しんでいることも多い。

 

 子供の前でも少年の心というのはどうなんだろうか。


「刀夜君、学校にバイバイしよ?」

「そうだね、余程のことが無ければもう敷地に入ってくることもないだろうし」

「恵那もバイバイする?」


 いや、君はまだ二年あるから。今バイバイするといろいろと問題がある。

 とにかく、真白と並んで学校に手を振る。


 ―――すこし子供っぽいが、まあ、たまにはいいだろう。


「「じゃあ、バイバイ」」



 もう小学校ともお別れか。

 二度目とはいえ、やっぱり多少は感慨もある。


 ―――中学校に入ったら、また周辺の立地を見直す作業とか、危なそうなやつの家を特定する作業とかで忙しくなるな。


 我ながら病気の領域だとは思うのだが、今までも真白が危ない目に合ったことは指の数では数えきれない。

 本人は知らないだろうが、本当に俺以上にヤバい奴はたくさんいるのだ。


「刀夜? またよく分からない邪悪な顔してるけど、何かあったのかい?」

「いや、何でもないよ。ただ、中学校に入学したらまたやらなきゃいけないことが増えるなって」

「フフフ、刀夜は相変わらず真面目なのね」


 父さん、母さん、ゴメン。


 おれ、やばいやつです。


 明らかにまじめに取り組むことを間違えている。

 自覚があるのにコレは間違いなく狂人のソレだし。

 ・・・コレとかソレとか、よくわからなくなってくるな。


「あ、そうだ。刀夜君?」

「・・・と、どうしたの?」


 皆で帰り道を歩いていると、真白が何かを思案している顔で話しかけてくる。もしかして、考えていたことが言葉に出てたか?


「あのね、中学校では登校どうしようかなって。同じ学校だし、一緒に登校する?」

 

 なるほど、そういう話か。

 ・・・それはとても魅力的な提案なのだが、今回ばかりはバツだ。


「いや、中学校に入ったら更に友達も増えるだろうし、互いに好きに過ごしたい時間もあるかも。だから別登校するようにしようか」

「・・・・・うん、わかった」


 残念そうな顔で誠さんと話を始める真白に少しばかり罪悪感がわくが、仕方ないことだ。

 小学校での生活の中で自覚したのだ。


 ―――俺は彼女の隣にいる人間としては向いていない。


 真白にはもっとふさわしい人がいるはずなのだ。

 こんなヤバいことを考えているような人間ではなく、もっと純粋で優しい人間が。

 

 生まれた時は甘い恋愛もいいか、とも思っていたが、今の俺は父さんと母さんに親孝行をすることと、真白が幸せになってくれることを人生の目標にしている。


 さて、中学校ではどんな出来事があるかな。


 今のうちにできることはやっておいた方がいいだろう。

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