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前世の記憶をましろで染めて  作者: ブロンズ
第一章:俺と彼女のこれまで
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第二話:幼稚園児は残酷だ

「とうやくーん、一緒に幼稚園いこ?」

「うん。保護者同伴でね」

「今日も一緒に頼むよ? 刀夜君」

「任せてくださいよ、誠さん」


 ティネラさんとその夫である白峰 (まこと)さんはある種の過保護だ。

 でも、それは無理のないことだと言えた。


 髪色や瞳の色で真白は凄く目立つし、現代でも人攫いや痴漢なんて言うのはザラだ。

 彼は、そういった経験が過去にあったことを想像させるような、徹底した対策を講じている。


 だけど、これは真白が内気にもなるだろうな。


「いつも一緒に登園してもらってすまないね」

「いえ、なんかシークレットサービスみたいで楽しいですよ」

「しーくれっと?」

「・・・・相変わらず、君はいろいろ知っているね」


 真白の父親である誠さんはメガネをかけた長身でイケメンの優男。


 ―――率直に言うと、アニメとかで主人公やってそう。


 聞いた話ではティネラさんと結婚するまでにも本当にいろいろあったらしい。

 その辺もすごく気になるのだが、その手の話をしているときは決まって溜息を吐くので、聞くのが憚られる。

 イケメン故にその仕草も絵になるから、もし俺が女だったら惚れていたかもな。


「じゃあ、行ってらっしゃい。もし何かあったらすぐに僕たちに知らせてね。仕事中でも飛んでいくから」

「お父さん、またね!」

「できれば仕事はしっかりとやってくださいね」


 どうして俺の周辺には個性的な人しかいないのだろうか。

 誠さんは比較的まともな部類なのだが、娘のことになると暴走する。


 まだ先の話かもしれないが、もし真白か恵那ちゃんが彼氏を連れてきたら気絶しそうなんだけど。

 ちなみに、恵那ちゃんは真白の妹で現在3歳のかわいい盛りだ。

 真白とは違い髪は誠さん似の黒だが、その瞳はティネラさんと同じく蒼い。


 あの穢れを知らないようなくりくりした瞳で見つめられると・・・・いかんいかん。

 とにかく、真白と一緒に幼稚園の門をくぐる。


 ―――今日は何事も無いと良いんだがね。








「お前の髪変な色だよな!」

「なんかお婆ちゃんみたい!」


 何事もないわけにはいきませんでしたか。


 ・・・本当に子供っていうのは自分とは違う子供に対して排他的だよな。

 まあ、それは大人でも当たり前に存在しているだろうが、得てして子供たちはその傾向が強いというのが俺が持っている考えだ。


 取り合えず、いじめっ子男子どもと真白の間に割り込んでいく。

 クク、怖いだろう? 俺のバックには長身でイケメンなメガネがついているんだぞ?


「ひぐっ・・・ウゥゥ・・・」

「ましろ、こっちで一緒に遊ぼう?」

「・・・とうやくん」

「なんだよとうや! お前はおばあさんと一緒に遊ぶのか!?」

「はははっ、真白が川で洗濯なら僕は山に芝刈りだね。本当は柴なんだけど、山を切り開いてショッピングモールでも建てようか」

「「???」」

「へんなやーつ」


 ふっ、この高等なギャグが理解できないとはまだまだ餓鬼だな。

 

 ともあれ、泣きじゃくる真白を連れていじめっ子どもから離れる。


「・・・とうやくん、私の髪ってやっぱりお婆ちゃんみたいなのかな?」

「全くそうは思わないね。真白の髪ほど綺麗な紙を僕は見たことが無いし。月の光みたいに輝いててとっても憧れちゃうよ。そもそも、白髪のご婦人だっていい年の取り方をしている人たちは綺麗な人ばかりだし」

「・・・むずかしい」


 まあ、そうだよね。

 こういう年齢差からくる齟齬は仕方が無いだろう。

 俺の最近の楽しみは幼稚園児がどれだけそういう知識を持っているのか測ることになりつつあるし。

 いや、趣味というよりは、そうしないとコミュニケーションが難しいからなのだが。

 ここが記憶をもって転生してきた場合の難しい所だ。


「・・・目の色だってみんなと違うし」

「黒い瞳って結構退屈するものだよ? いずれはカラーコンタクトでも入れて中二病ごっこでもしようかと思っているんだけど」

「・・・? どういうこと?」

「真白の眼は青空みたいでとってもきれいだってことだよ。輝く月と青い空は一緒に見れるものじゃないからね」


 青空が出ている間の月は輝いているとは言えない。―――太陽の輝きが強すぎるし。


 でも、俺は優しく包み込んでくれるような月の光の方が好きだ。


「それに、今真白をいじめている奴らはきっとそのうち後悔することになるとおもうよ」

「そうなの?」

「うん。―――ああ、あの時真白ちゃんにやさしくしていれば、今頃は仲良くなれていたかもしれないのに、ってね」

「そしたら仲直りしてあげるよ?」

「それでいいんだよ。その優しさは真白の美点・・・素敵なところだしね。だから、今は僕が遊び相手になるよ。真白と遊ぶのはとっても楽しいしね」


 この優しさが彼女の最大の魅力だ。

 だから、その優しさを踏みにじるような奴が現れたら俺は絶対に許さない。


 ―――とりあえず、両親に言いつけてやる。


 他力本願は基本だ。

 まだ幼稚園児だし、これが最強手だろう。


「何して遊びたい? 僕としては体力を付けられるような遊びがベストだけど、おままごとでも泥団子でもいいよ」

「じゃあ、どろだんごー」

「よし! このどろだんご歴二十五年のベテランが監修してあげよう」


 うん、泥団子作りには自信がある。何せ小学生の時はゲームも買ってもらえなかったから常に公園で遊んでいたし。

 そういう時は名前も知らない子供たちと泥団子をぶつかり合わせて壊れた方が負けというゲームをずっとやり続けていた記憶がある。


 ―――懐かしいなぁ。


 あの頃に戻り・・・戻ってたわ。




「・・・と、こんな感じ?」

「うん。あとは乾いた土をまぶして表面を磨けば艶ができるよ、こんな感じで」

「すごーい!」


 幼女と一緒に泥団子作りをするオッサン(中身)なう。


 前々から思っていたことなのだが、真白は教えたことの呑み込みが非常に早い。

 一を教えて十を覚えるというのは言い過ぎな諺だと思うが、それでも彼女の物覚えの速さには舌を巻く。


 ―――このままでは俺が泥団子で築いた二十五年王国の滅亡は近いだろう。


「団子をつくったらどうするの?」

「観賞用・・・見て楽しむだけなのもいいし、いずれは壊れてしまうものだからぶつかり合わせて遊ぶっていうのもいいね」

「・・・・・うーん」

「いつまでも置いておくといじめっ子たちに壊されちゃうかもね」

「―――! じゃあとうやくんのと戦わせる!」


 計画通り・・・という訳ではないが、とりあえず俺はそっちの方が楽しめる。

 

 男の子だしね。


 闘争を求めるのが生物としての本能だ。

 明らかに闘争のレベルが低いことに目をつぶっても。


「じゃあ、発射台の上にのせて、互いに転がすんだ。力を入れたら二つとも壊れちゃうから、軽くね?」

「うん!」


 柔らかい砂の上を転がった互いの団子はそのままぶつかり合う。


 ・・・流石に一発で壊れることはないか。


「じゃあ、これを繰り返して壊れた方が負けだよ?」

「負けないよ?」


 ふふふ、いくら成長が早いとはいえ所詮は素人。

 この俺が築いた国の王であるダンダゴロ二十五世が敗れるはずは―――


「やった! わたしの勝ち!」

「・・・・・・」


 ダンダゴロ君は崩御してしまったようだ。

 見事に真っ二つに割れてしまった俺の泥団子は王国の崩壊を呼び、クーデターは成功した。


 ―――いや、違うし。


 素人相手だから加減しただけだし。


「・・・じゃあ、泥団子遊びはこのこの辺にしておこうか。あんまり長くやっていると服が汚れちゃうしね」

「うん。でも、この団子はどうしよう」

「戦士はいずれ土に還るものさ。埋めてあげよう」

「・・・・・じゃあね。シロ」


 そっちも名前つけていらしたんですね。

 自分の団子を砂へと埋めた真白は少し悲しそうな顔をしながら別れを告げる。


 どうやら俺の王国は犬のような名前の戦士にやられてしまったようだ。


「じゃあ、次は遊具で遊ぼうか」

「わたし、うんていは出来ないよ?」

「じゃあ、僕がどれくらい移動できるか見ていてくれる?」

「うん。終わったら滑り台ね!」


 小さい子供の体力づくりとしては、遊具を使った運動が一番だ。

 雲梯は腕力とか悪力を鍛えられるしね。


 なんでも、古代では同じ名前の攻城兵器があったとか。

 どうにも俺たちの遊びは闘争と縁があるようだ。


 そのまま宙ぶらりになり、手の力だけで移動をしていく。

 というか、幼稚園に雲梯って危なくない? 恐ろしく今更な疑問である。


「とうやくんすごーい!」

「フッ! 男の子・・・ですから」


 とはいえ、結構きついものだ。

 まだまだ幼稚園児である俺は体力に乏しい。


 それでも軽いトレーニングをやっている影響で普通の幼児よりはあるはずなのだが・・・このままでは爺ちゃんの跡を継ぐことは出来なさそうだな。


 ―――もっと力を付けなければ。



「フゥ・・・いい汗かいたな」

「カッコよかったよ。やっぱりとうやくんは力持ちだね」

「どうだろうね。この場合は力持ちで良いのかな?」

「――――はーい、皆そろそろ終了ですよー!」

「「あ」」


どうやら自由時間は終了のようだ。


「滑り台出来なかったね」

「うん。でも、楽しかったから大丈夫だよ?」

「さすが真白。いいこいいこしてあげましょう」

「ありがとう!」


 いえ、こちらこそ。


 別に下心があるわけでは無いが、とても手触りの良い髪を触らせてもらえるのは役得だ。

 この子の笑顔を見ているだけで先ほどの疲れも吹き飛ぶしな。


「じゃあ、中に入ろっか? もう帰りの会だろうし」

「うん。また遊ぼうね」


 次こそは滑り台で遊ぼうか。

 そんな遊びへの計画を立てながら、俺は真白と共に室内へと入って行った。




―――――――――――――――――――――――――




「今日はどうだったの? 真白ちゃんに意地悪とかしなかった?」


 自宅に帰って来てから、そんなことを問う母さん。

 これは毎日の日課のようなものなので、本当に俺が真白をいじめるとはつゆにも思っていない顔だ。


「いつも通り真白と二人で遊んでたよ」

「青春してるわねー! で、式はいつ上げるの?」

「母さん? 僕と真白はそういう関係ではないんだけど」

「何が起こるか分からないのが人生よ? わたしと修也さんだって―――」


 母さんと父さんの馴れ初めの話は()()()()()()()()耳にタコができるくらい聞いているので適当に聞き流す。


 途中で十字固(じゅじがため)だの、ブレーンバスターだのと言った単語が聞こえるのは気のせいではないだろうが、今更驚くことではない。


 勿論異常だという自覚はあるが。

 というか後者はプロレスの技だよね? 爺ちゃんの流派関係なくない?


「とにかく、僕と真白はそういう関係じゃないから」

「じゃあ、刀夜にとって真白ちゃんは何なの?」

「大切な女の子。家族みたいなもの」

「・・・・・これは重症ね。何がそうさせるのかしら」


 こればっかりは仕方ないだろう。

 俺の中で既に真白は守る対象としてインプットされてしまっているのだから。


 まだ出会ってから数か月後度しか経っていないにもかかわらず、まるで本能のように体が動くのだ。


「じゃあ、真白ちゃんが他の男の子に取られてもいいの?」

「そいつが真白を笑顔にしてくれるなら全く問題ない。ただし、僕の眼が黒いうちは―――」

「本当に何処でそんな言葉を覚えてくるのかしら」


 子供の成長は早いものなんですよ? 母さん。

 

 というか、幼稚園児になんていう質問しているんですか?


 幼稚園どころか小学生ですら、口を開けば卑猥な言葉を連呼して喜んでいるレベルなのに、この年で恋愛だの結婚だのと言うのは早すぎると思う。


「まあ、そんなことよりも今日のご飯が気になるね」

「今日はカレーよ。修也さんのリクエストでリンゴと蜂蜜を入れようと思っているのだけど、賽の目切りで良いのかしら」

「・・・できればすりおろして入れてくれると良いんだけど」


 母さんは料理が苦手なわけでは無いのだが、結構大雑把なところがある。

 レシピを知っている料理は普通に作るのに、聞いたことのない調理法を試そうとするときに暴走するのは何故なのだろうか。


 というか、父さんも絶対にこうなることを理解してリクエストしている気がする。


 マジでこの人たちどんな半生を歩んできたのだろうか。

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